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雲枕  作者: 葱と落花生
155/158

155 またまた御神輿わっしょい

 千葉型宇宙船に乗り込んだ者は何人か、正確な人数は分からない。

 人数と言って良いのかどうか、妖怪化け物から精神だけの人格やら、ロボットにアンドロイド、終いには幽霊まで紛れ込んでいる。

 こんな状況で数えるのは馬鹿らしい。

 どうでも良い人口密度だが、事この島に限って言えば、何人いてどの程度の密度かをある程度把握できる。

 ある程度としたのは、私を何人と数えるべきかが分からないからだ。

 赤腰巻と私で二人とすべきか、同一体であるのだから一人とすべきなのか。

 もっとも、一体の中に複数の精神や肉体が存在するのは、ここでは私ばかりと言い切れない。

 目の前で何時にも増して過激な宴を繰り広げている連中は、一つの体の中に男と女が共存していた。

 今は一つの性になっているが、肉体がそうであっても心内には、まだ野生の男が残っているようにうかがえる。

 もし、この数まで入れるとなると、一気に人数は倍近くに膨れ上がる。

 それに、なんだかさっきから背筋がうっすら冷たくなってきている。

 これはどういった現象か、よくよく考えなくとも、きっと知り合いの幽霊共が、隠れて悪戯をしようとしている先ぶれである事くらい、いかに能天気になっている私でも察しがつく。

 ただ、ここで霊に出て来られたとて、好ましからざるものではないのが分かっている以上、特別驚いて見せる必要もない。

 まんざら知らない仲でもないし、一緒にちゃかぽこやっても良いと、ここにいる全員が思っているのに、何故だかさっきからうろちょろ、出たいのに出てこられないという風にしている。

「ねーえ、夏目? 若旦那? 獣医? 皆揃ってるの? さっさと出てきて、一緒にやろうよ。だれもあなた達の事を怖がったり嫌ったりしていないから、平気だよー」

 幽霊に対して、人間から呼び出しをかけるのは滅多にない事だろうが、彼等にすればこんな場面で願っている第一番の状態に思える。

 宴の騒ぎに少しの間があくと「出たいのですけどー、出られないのであります」と、夏目らしき者が煙になってぼわぼわする。

「だめだー、がんばっちゃてるんだけどよー、形になんねえのさー」

 これまた獣医らしき煙が揺らめきながら答える。

「化け出たくても、出られません」

 控え目に若旦那らしき煙が、焚火にあたっている。

「だろうなー、ここは霊力が入り乱れてるからな」

 私の横で祝い酒をグビグビとやっていた久蔵が、その手を止めて天空を見上げる。

 言われて思い出した。

 石城の石材は、世界中の墓地から盗み集めた墓石だった。

 いくら霊力の強い彼等でも、多勢に無勢といったところか、しっかり石城の力で封じ込められているようだ。

「ねえ、私から御願いするわ、彼等を生身の体にしてあげてー」

 私の願いを全てかなえてくれる石城ならば、これくらいの芸当は簡単な筈だ。

「たやすい御用、承知した」

 遥か天空のそのまたもっと高みから、低く台地を揺らす程の声がすると、もやもやしていた煙からポッ

 三人が現れ庭先に落ちた。

「痛ってー」

 三人が挙って落ちた時に打った尻を撫でる。

「痛いですねー。久しぶりの感覚ですねー」

 痛がりながらも久しく無かった生身の感覚に、夏目が嬉しそうな表情に変わっていく。

「先生、痛いですよ。本当に痛い。分かりますか、痛いんですよ」

 私の手を取って、小躍りにはしゃぐのは若旦那です。

「何故、私を先生と?」

 三幽霊には、この姿になってから初めて会っている。

 そう簡単に私の正体が知れるとも思えない。

 少女の容姿をしているこの手を取って、先生と呼べるその理由が知りたい。

「なに言っちゃってんだよ。しっかりヤブ先生様じゃねえの」

 獣医が勢いよく私の背中をたたく。

 一連の会話を聞いていた周りの者達が、唖然としてこっちを見ている。

 事情を知っている元釜美女軍団でさえ、少女の姿にしか見えない私を先生とは呼び難いようで、せんちゃんとあだ名されたのだ。

「どうやら霊達が織りなす虚構の世界にあって、我等幽霊はその力が中和され、現実と幻の両世界を感じ取れるようですな」

 幽霊大先輩の夏目が、自分達の置かれた立場を冷静に分析して聞かせてくれる。

「なある程、それなら納得だな、このみょうちくりんな状況は」

 獣医が囲炉裏で焼かれた魚を取って一口食う。

「なにー、幽霊がこの世の物を食べた!」

「私達の願いも、ちょいとばかりなら受付中のようですね」

 死んでからろくでもないものしか食べていなかったのか食べられていなかったのか、若旦那も嬉しそうに林檎に似た実をかじった。

 ここは霊の力によって作られているものなので、似通っている幽霊達には都合が良いらしい。

 ただ知らない者達が集まっているだけの場所とは違って、知らなくとも知っている霊達の一体感とでもすべきか、妙な雰囲気が島中に漂って来たと感じるのは、私ばかりではないようだ。

 美女軍団の中には、酔って団旗を振り回す者も出てきた。

「フレー、フレー、おー〇んち〇」と、派手に卑猥な応援をする者もいる。

 これに答えるのは、この場で数少ないおーち〇〇んをぶら下げているデカ男と久蔵。

 ここに、百年ぶりに酒を飲んで酔った夏目が加わると、若旦那と獣医も追随する。

「先生もおやりなさいよ」

 夏目と若旦那が、座っていた私の手を引いて立ち上がらせた。

 こいつらには以前の私に見えているのだろうから、こうするのは自然の流れともとれるが、この場の生きている人間には、私の姿が少女に見えている筈だ。

 ただ、そんな身成でも、ついているには違いないものがあるから、振れと言われれば振れない体質でもない。

「どうしても? 振らなきゃ……だめ?」

「そりゃそうでしょ、みんな楽しくやってるんだから、場の雰囲気を大切にしようよ」

 獣医がこう言いながら寄ってくると、私の着物を一気に剥ぎ取って、腰を揺さぶる。

 すると、ちいさくまとまっていたのが、幾分ーーーーで重くなった。

 これをプラプラとやったものだから、軍団から拍手喝采をうける。

 調子にのってしまうのは悪い癖で、そのままの勢いで一人一人の眼前まで出張してこれをやってやる。

 皆がちょーーーースルとーーーチョッカイを出す中、一巡したらすっかりーーーーってしまった。

「どうしてくれるんだよ、こんなにしちまって」

 ん……長い間忘れていた男としての感覚が全身に蘇ってくる。

 あれまあどうしたものか、裸になっている自分を見直すと、ーーーなくなり股間にあった幸福のーーー消え失せている。

「うおー、戻ったー、戻ったよ。やったね」

 思わず元の自分に戻った喜びを声にすると、一斉に拍手が沸き起こる。

「やったじゃねえか、石城の悪魔を操れるようになったんだよ」

 久蔵が駆け寄って来て、背中をバンバンたたきまくる。

「痛ってえなー、そんな力ずくで叩いてくれるなよ」

 自分達に直接関係のない祝い事でも、それをネタにしてどんちゃん騒ぎをするのが軍団の特技だ。

 こんな時に大人しく済ませてくれる筈はない。

 戻った喜びと裏腹、デカオの二の舞にはならんか、神輿で担ぎまわされたりしないかとの不安が一瞬脳裏をよぎったが、時既に遅く、はっと振り返った途端に縛り上げ担ぎあげられてしまった。

 こんな島に神輿なとあるはずもなく、準備が整うまでは安泰にしていられると思ったのもつかの間、曲りなりにも軍隊の訓練を受けて宇宙に出ただけの事はある。

 準備の速さはジェット機並みで、息つく暇もなく俄作りの神輿にくくりつけられた。

 以前デカオの結婚式で見た、あの時あの姿のまま、今度は俺が主役になっている。

 わっせいわっせい揺らされると、恐怖に似た意識を無視したーーーーが、俺のーーーーでブンブン始めた。

 デカオのを見た時は、なんと悍ましい程にでかいーーーーなんだと驚いたが。

 軍団が作った神輿に乗ると誰でもーーーになるのか、それとも作られた機械の体が、通常と恐ろしい位のーーーーンサイズの二段階式にされていたのか、いずれにしても異常にしか見えない。

 こいつが練り歩く道々の小枝をバキボキボッキと折って進むと、俺の眼中には自分のものとは思えないビックなやつしかなくなってきた。

 頭の中は厭らしい行為に走る事だけで一杯になり、折れた小枝が刺さって、一筋の血が眉間に流れても、軍団の容赦ない練り歩きは続く。

 ここにこうしている事が、運命として定められていたまでは容認するとしても、この仕打ちを心より感謝して受け入れる気には毛頭なれない。

 折れ枝が被害は眉間ばかりに留まらず、体のいたるところから血液の流出を見るまでに至る。

 ここまでくると軍団の悪ふざけが、運命という拷問に思えてくるから心は正直だ。

 ただ一か所、体で不正直な所が、いまだもって元気におっ立っている事が残念でならない。

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