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雲枕  作者: 葱と落花生
149/158

149 寝ながら失神した

 森の奥へ入り込む前に、ちょっと入ってから柔らかい蔓草をちぎって体に巻き付け、大きめの葉っぱを蔓にからませてカモフラージュした。

 海岸が見渡せる程度の奥まで入ってから、手ごろな木を探して登り、座り心地のいい枝に陣を構える。

 まかり間違って見つかってしまった時の逃走用に、隣の樹からの蔦も準備した。

 なにはともあれ、遭難したらナイフと火の確保。高原へ物見に言った時、手ごろな黒曜石を拾って、海岸の石でナイフに仕立てておいたのが、こんなところで役に立った。

 木の上に隠れて船の動きを観察していると、帆を下げて錨を落とし、穏やかな海に一艘の手漕ぎ船が降ろされた。

 船に乗り込んでいるのは、後ろ手に縛られた大柄の男が一人と、刀や銃で武装したのが二人に漕ぎ手が四人で、大きな木箱も積まれている。

 風の力で進んできた船は思ったより早かったが、手漕ぎで島に向かってくる船は随分と進むのが遅い。

 上手い具合に樹に生っている、リンゴに似た実をとって食いながらの観察となった。

 三つ目に手を付けた頃、船は海岸に到着し、武装した二人が縛られた男を波打ち際から森の入口近くまで引き摺ってくる。

 残った四人も、森の入口から少し入った所に木箱を運ぶび、せっせと穴を掘り始めた。

 木箱を埋けるつもりか、それとも縛った男を処刑して埋める予定なのか。

 俺ならば、木箱は満潮時に海水が染み入るような海岸近くの森ではなく、もっと奥に穴を掘るだろうし、縛った奴を埋めるならば未来の死人に掘らせるのだが、どうもこいつらのやる事はチグハグで理解できない。

 そのうち、木箱は一米ほどの深さで妥協点に達したらしく、ポイッと蹴飛ばして穴に落すと上から砂をもる。

 はたから見たら、棺桶を埋めた後の墓に見えなくもない景観になった。

 そこへ、目印だろうが、流木で作った十字架をたてたから、そのまま死体が埋まっているようになってきた。

 考えてみれば、御宝を詰めた箱であったにしても、あんな風に仕立てられたら、腐敗した死体が埋まっているとしか見えない。

 誰も好き好んで掘り返さないだろうと予測できる。なかなかの隠し方だ。

 さて、残された縛られ人はこれからどうなるか、一息ついた六人が、処刑されるであろう縛られ人に向って、軽く頭を下げると、十字をきってからライフルの銃口を向ける。

 助けてやりたい気持がないではないが、ここで出て行っても俺が持っている武器といえそうなのは、黒曜石で作った石器時代のナイフが一丁だけだ。

 海賊六人相手に、とても勝てる出で立ちではない。

 ここはたいへん申し訳なく思いながらも、彼の処刑に木陰で立ち会い眺めているしかやれる事がない。

 手を合わせて「ごめんね」極ちいさな声で一言唱える。

 すると「帰れ! 御前等嫌いだ。みんな島から出て行けー」頭の上の方から女の声がする。

 あまりにも不意の事に、半分腰を抜かした状態で見あげると、いまにも小石を投げる構えだ。

 俺は迷彩していてみつかる心配はないが、少女の姿はしっかり海賊達から確認できる。

 ついでと言っては何だが、初対面の時と立ち位置はほぼ同じ状況で、しっかり、その難だ、何が俺から確認できて、困った現象に襲われている。

 少女に向けられた銃口から発射された銃弾が、身に着けた葉っぱを一枚吹き飛ばした。

 一瞬で困った現象は治まったが、今度は命の危機にチビリバビリプーしてしまった。

 銃撃に怒った少女、手に持った石を海賊目掛けて投げつける。

 そんなもので太刀打ちできる相手では無かろうに、ガキの考えは幼稚でデンジャラスだ。

 一投目の石が、ライフルを持った男の頭に当たる。

 同時に、ボンッと大きな破裂音がして火煙に変わった。

 ただの石ッコロではないらしい。

 男の頭ばかりか、身体がバラバラと辺りに飛び散って、白い砂浜が赤く染まる。

 他の連中が、この攻撃に驚いたのは言うまでもない。

「鬼だー」「悪魔だー」「化け物だー」

 それぞれに思い浮かぶ最強の凶悪を叫びながら、船に駆け乘ると、一目散に逃げて行った。

「やるもんだなー」

 共通の敵とも言える族を追払った手腕に感心し、つい心を許して上に向って声を掛けたが、もうそこには誰もいない。

「おや、また消えちゃったよ。恥ずかしいなら見えない所に立てよ」

 独り言を唱えながら樹から降りると、縛られている大男がいる海岸に出てみた。

 見るも悍ましい光景が広がる中、大男は見かけによらず気が弱いとみえて、小便をチビッてへたりこんでいる。

「おい、大丈夫か?」

 虚弱な心臓を停めてもらっては厄介なので、小さな声で問診してみる。

「へっ、へっ、へへへへへ、へい」

 体に傷はないようだが、心に大きな痛手を負ったようだ。

 暫く近づくのはやめにして、縛ったままにしておいた方がよさそうだ。

 何をしでかしてこの島で処刑されようとしていたのかが分からん以上、迂闊に縄を解いでは、こっちの命が幾つあっても足りなくなる勘定ができる。

 俺の憩いの場だった海岸が血の海になってしまって、とてもここで寝る気にはなれない。

 ところが、このままにしておいては何れ好ましくない臭気が島全体に行き渡り、どこにいても健全なる生活を送れそうにない。

 どうしたものか、目の前の惨状では、なかなか考えがまとまらない。

「食っちまうか?」

 ビビリション便を垂れ流しているくせに、やけにブラックの利いた冗談を縛られ人がかましてくれる。

 この島から出られる見通しが立っていない今は、どっちが優位にあるのか、ここではっきりさせておかなければならない。

 体格で言ったら明らかに俺の負けだ。

 ここは言葉で何とか誤魔化すしかない。

 強気の発言で上下関係をはっきりさせておこう。

「てめえが撒いた種だろうが、穴は掘ってやるから、足で集めてその中に放り込めや。終わるまで飯はくわせねえぞ」

「水さえ飲ませてくれればいいよ、飯は一週間くらいなら食わなくてもいられる。あの船で奴隷解放運動やった時には、十日間水だけだった」

 いきなり気の毒な話になっている。

 しかし、ここで成行からこいつの話を鵜呑みにして縄を解き、うっかり寝首を掻かれてもつまらない。

 不幸中の幸いで、海賊が置き忘れて行ったスコップと刀にライフルを駆使して、森へちょっとだけ入った所に悪臭が噴き出さない程度の小穴を掘ってやる。

 縛られ人に死体の欠片を全部ぶちこんでもらってから、こんもり埋め戻した。

 そうしてから、縛られ人を、すぐ近くの樹に厳重に括り付けてから熟睡した。

 

 あくる日、目が覚めるや否や「おはようございます。朝食の仕度ができてますから、どうぞ」

 飛び起きて声の方に向くと、縛ってあったはずの大男が葉っぱで作ったエプロンをして、血のりが付いた刀を持っている。

 枕元に置いてあったライフルもない。

 完全に立場が逆転した以上に、生命の危機が現実味を帯びて目の前にうろついている。

「朝食の仕度って、主だった食材は昨日の海賊肉とかじゃないよね、だったら、これから俺の肉がメインになる予定とか言わないでよね」

 最悪の場合を想定して、ひとまず食われる災難から逃れるための交渉事を持ち掛けてみる。

「命の恩人に、そんな事しませんよ」

 現在、互いの立場は彼の感情が激変しない限り、同等か若干俺が弱い立場にありそうだ。

 素直に朝食なる物を頂きながら、奴隷解放運動なり、今日の食材について質問攻めして、油断したすきにライフルを奪い返す作戦でいこう。

 そうと決まれば、まだ朝も早すぎるくらいに明けきっていない。

「まだ眠い。もう少し、寝る」

 寝るや否や夢に出て来た食材は、昨日埋めた海賊の目玉や耳とか指なんかが入ったモツ煮定食……とてもではないが寝ている場合ではない。

 煮詰まるモツ煮込みの光景に、気が遠くなって寝ながら失神した。

 失神したまま考える。

 縛られ人は今や自由の身であり、その状態にそぐわない呼び名となっている。

 もし、このまま気が付かないで一生を終えるなら特に問題視する事柄ではないが、気付いたとして、あいつをなんと呼べばいいだろう。

 この問題を解決する間もなく、フッと目の前が明るくなると、無意識に起き上がる。

「君の名前、まだ聞いてなかったね」

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