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雲枕  作者: 葱と落花生
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146 いきなり宇宙でサバイバル

 好き嫌いは別として、最近では彼女達の姿を一日見ないでいると、なんだか不安になってくる。

 そこへいくと、診療所で共同生活をしていた連中とは、一緒に過ごしていた期間が長かったせいもあってか、しばらく別々の生活をしても、特別心配したりしないものだ。

 もっと不思議な存在は、美津子さんや美智恵のようなアウン一族の女達で、数十年離れて暮らしていて、突如再開しても何ら妙な感情が湧いてこない。

 そこにいるのが当たり前で、数十年の空白期間があった事など微塵も感じさせない。

 愛情とか人情といったたぐいの感覚ではなく、むしろ当然の運命さえ感じさせる女達だ。

 普通の生活をしている人が、あの女達に出会ったら、刺激が強すぎて、すぐに隔離病棟に逃げ込むに違いない。

 現実と幻の中間で生活していると、彼女達との関係は、とても自然なものになって来ていて、そんな感情をもって接していられるのは、既に俺が別の世界へ思考を持ち込んでしまっているからなのかもしれない。

 今回、宇宙に飛び出したのは欲情からではないが、娘がこの宇宙船千葉の最高権力者であるとの理由によって、絵画列島に一件の城をあてがわれ、住みたくないから離れを自宅がわりにしてと、これらの過程から周囲は久蔵やデカオを覗いて女ばかりになっている。

 若干、女と思って付き合うと酷い目に遭いかねん人種も混じっているが、人はこのような状況をハーレムと称するのではなかろうかと思えてきた。

 ひょっとして、酔っているかもしれない思考回路を、若干修正しなければいけない状況であるかもしれない。

 ところが、後から後から、どんと酒を注がれては、酔いをさますどころではない。

 この状況を解し得て、欲望のまま壮絶なる淫乱生活に突入するか、感情を一切抑え込み、無欲の生活へと向かい進むべきか、はたまた、中途半端にこれまでどうりのらくらするべきか、それが問題だ。

 こんな時は、人生経験が豊富過ぎる山城の親分に相談してみるのがよさそうだ。

 ちょいと朱莉ちゃんの科学力をかりて、急遽、山城の親分にも収穫祭に参加してもらった。

「そりゃ先生、この先長いんだから、少しくらい寄り道してね、じっくり一人で物事を考えてみた方が良いんじゃないですかい」

 なんとなく進みたくない方向に、親分は俺を歩ませたい様子だ。


 翌日、親分の誘いで、やっちゃんに送るビデオレターを作るために、絵画列島から現実世界へと戻った。

 画像に自分を残すのは苦手な方で、芝居がかっているなどと笑われながら何とか収録を終えると、美智恵がむかえに来てくれた。

「先生の島を創っておきましたの、気に入っていただけたら幸いです」こう言うなり朱莉ちゃんが作った転送装置に、俺を勢い付けて放り込む美智恵。

 酔った勢いで変な事でもしてしまったか、そうでもなければ、こんなに恨みのこもった送り方をされる筈がない。


 暴れる暇もなくフワッと降り立ったのは、真っ白な砂浜の穏やかな波打ち際だった。

 見た事も聞いた事もない不自然この上ない鳥が、マングローブ林の奥からこっちを見ている。

 突然、羽を広げてバタバタやったかと思ったら、ケタケタケタと、これまた鳥離れした大きな鳴き声をあげると、垂直上昇してから俺に向かって急降下してきた。

「わたーしは、不死鳥ざーますー」

 しゃべる動物には随分と出会ってきたが、闘争心丸出しで自己紹介する奴は初めてだ。

 尻が体格に似合わずでかく、飛ぶには不向きな不死鳥は、いつか診療所で保護した鳥に似ている。

 この世界に自由出入りできるきっかけが、不死鳥の燻製を食ったからだとは知っているが、そんなこんなの恨みつらみで、見境なく入ってきた人間に対して攻撃態勢に入っているのか。

 まさかとは思うが、いかにこっちの方が体の大きさで優っているとは言え、上から直撃されたのでは危ないデンジャラスが危険で一杯だ。

「待てー、俺は中立だ。御前の敵ではなーい」

 信じてくれるくれないは別として、とりあえず、死なないだけで幾分思考能力に問題のありそうな鳥をだまそうと試みる。

「あー、そう」

 激突寸前でひらりと体を交わし、何事もなかったかのようにジャングルの中に消えて行った。

 簡単に信じやがった。言ってみるものだ。

 ヒヤッとして感じていなかった大気温が、いっきに体を熱くする。

 さっきまで丁度良い具合に調整された温度湿度の部屋で飲んでいたからか、異常な体験で体の調節機能が混乱しているのか、それにしても暑い。

 いったいここはどこなのか、説明もないまま、知らない土地に運ばれるのは何度目だろうか。

 千葉ごと宇宙に飛び立った今となっては、俺の命を狙う奴など皆無だ。

 保護しているようにも思えない待遇からして、無理して善意に考えても、暇している俺を訳の分からない島に送って遊ばせてくれているくらいまでしか解釈が及ばない。

 あいつらがやった事として現状を分析するに、ここはきっと無人島だ。

 それが証拠に、上陸した砂浜からジャングル奥への入り口には、無人島と書かれた案内看板が立ててある。

 できれば島の地図も書いておいてほしかったが、そこまで気の回る連中ではないたようだ。

「おーい、誰かいるかー?」

 ジャングルに向かって大声で叫んでも、返事が帰ってくるのを期待できる状況ではない。

 ここはひとまず、美しいプロポーションと強靭な精神や、何事があっても生き延びる体力を維持せんがため、水と食料の確保が先決だろう。

 ところで、ロボットの体でも飲み食いしないと衰弱してしまうのだろうか。

 弱ったり、間違って死んじゃったりするのなら、無駄に精巧な作りにしたものだ。馬鹿野郎!

 ジャングルで、生き延びるのは簡単ではないが、極寒の地に比べればまだましな方だ。

 地面を少し掘れば、濾過し蒸留すると概ね飲んでも死なない程度の水が手に入る。

 問題は、蒸留する為の装置と火がない事くらいか。

 たとえ俺が飲めないにしても、真水があれば食料にできる生物が集まってくるし魚も捕れる。

 ここで一つ注意しなければならないのは、俺と同じ考えの猛獣や毒虫もわんさか住んでいるのがジャングルで、自然は美しい反面、極めて残酷でもある。

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