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雲枕  作者: 葱と落花生
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14 親父殿が理事長に

 大量の自由診療患者を抱えるには、交通事故や保険外先進治療に美容整形。

 こういった自由診療対象でなければならない。

 生憎と、山武病院には常勤整形外科医がいない。

 交通事故で入院する患者は皆無に等しい。

 先進治療を行える機器もないし、彼等を美容整形したら指名手配犯を匿っているのではと疑われるに決まっている。

 億単位のドル札を日本に密輸した張本人である芙欄に、マネーロンダリングの方法を尋ねると「裏の世界では日本国内にいてもドルでの大口取引が可能だから、特に外国紙幣で困るといった事情もないよね」まったく何も考えていなかった。

 それでも、一つの方法を即座に提案してくれた。


 治療している患者の殆どは、日本での医療保険がない外国からの旅行者だと言い張ればいい。

 病院があるのは国際空港の近くだから、そんな患者が他の病院より多くても不思議ではないといったものだ。

 たしかに、旅行者の受け入れを積極的に行っていますとすればいい。

 それでいくにしても、入院患者が保険証を持たない正当な理由の証明は必要になってくる。

 すると、流石に詐欺師だけあって、この入院患者が外国籍である証明問題も簡単に解決してくれた。

 有朋に偽パスポートを頼めば、バンバン作ってくれるらしい。

 自分もその旅券で日本に帰国していたと自白した。

 隣のヤクザは、手広く事業展開している。

 段々と悪に染まっていく自分が見えすぎて困る。


 松林の人達を、海外からの旅行者に似せるには些か難があるが、砂防林友の会のヘロヘロ病人を治し、病院を黒字にできる。一挙両得だ。

 海外からの旅行者ならば、ドル札で治療費を支払ったとこじ付ければいい。

 違和感は残るが、ガサ入れの対象にはならない。

 そこら中無理だらけで、いつ綻びがでるかビクビク物だが、この際だから致し方ない。

 多少の粉飾決算も必要になってくる。

 これも芙欄が解決してくれた。

 昔の仲間に決算書を書いてもらえば、どのようにでも数字は動かせると紹介してくれた。


 今回のような大口には時間がかかるが、少額の稼ぎを操作し合法所得に書き変えるのは日常のこと。

 考えるより早く関係各所への連絡を済ませてしまう生活が当たり前だった芙欄は、資金洗浄の方法を考えていなかったのではなく、考える必要がなかったのだ。

 人間、誰しも一つは長所があると言われているが、これを長所とするべきか、事務員にして良かったのか悪かったのか、先行き不安の一材料だ。


 例外的に、この件に関してだけならよかろう。

 芙蘭に一切合財手配をまかせると、三日もしないで隣りの有朋組から届け物があった。

 隣りなのだから直に持ってくればいいのに、わざわざ宅配便を使って送っている。

 意味不明の宅配便理由を聞けば、足がつくからだと薄らとぼけた理由になっている。

 悪事を働くわりには物事の原理を理解していないで、御丁寧に領収書まで付けてある。

 あと一年もすれば、組を解散するしかなくなるに違いない。

 今のうちに使えるだけ使っておこう。


 荷をほどくと、中からは精巧にできたパスポートが出てくる。

 一冊二万円という破格値。

 いい加減な物かと思っていたが、いい仕事してまっせ。


 昼も日が傾いた頃になって、松林の住人が偽造パスポートを受け取りにきた。

 いつもはどこへ行くにも一着限りの野良着だが、今回ばかりはスーツにネクタイをしてもらった。

 慣れないからネクタイが苦しいだの、スーツは動きにくいだのと言ってはいるが、診療所の姿鏡で自分を眺めたり皆で記念写真を撮ったりと満更でもない。

 親父が出張費を各人に渡し、これから日本全国に散らばっている仲間に、偽造パスポートを届ける旅に出る予定だ。

 一人がアインを北海道へ連れて行こうとして引っ掻かれた。

 人の言葉が分かるのか、嫌なことをお願いすると正直な反応が返ってくるから面白い。


 第一団が出発してからしばらくすると、第二団が診療所にやってきた。

 この一団は海外の住人を招くのに、明日の飛行機で成田を発つ。

 少しばかり目的地の言語を理解している人達が選ばれている。

 出発が明日の朝から順繰りになっている。

 この一団とは深夜までバーベキュー。

 出陣式と洒落てみた。


 国内と違って、帰ってくるまでには日数がかかる。

 飛行機の中で寝るのは我慢できるが、ホテルのベットで寝るのは抵抗があると今から心配しているのもいる。

 そんな中、どういったつもりかアインが黒猫と共謀して、バーベキューの残りをせっせとビニールハウスに運んでいる。

 持って行った先で食うのか見ていると、そんな風でもない。

 猫には災害の予知能力があると昔聞いた。

 本当かどうかは知らないが、目の前で食糧の備蓄に励まれると少しばかり不安なってくる。

 災害時に備えていても、野良の黒猫に全部食われてしまうのが落ちだ。

 貯まったところで、半分ばかり冷凍保存してやった。

 こうしておけば、もし何かあったとしても、猫の食い扶持の為に人間がひもじい思いをするといった事態にはならない。


 努力の結果として本家病院が黒字になったとしても、別の病院を買い取るとなれば大金が動く。

 銭持ってんぞーとは間違っても言えないし、井戸を掘っていたら御札が湧き出て来ましたも通らない。

 銀行から借りるのがベストで、黒字決算し続けてドンと返済すれば資金洗浄もできる。

 何としても銀行から融資を受けたい。

 今回は今までと違って、しっかり返すあてのある借金だ。

 つい最近まで赤字続きだった病院が、いきなり黒字転換するのだ。

 怪しさテンコ盛りなのは否めない。

 信用調査をそうそう簡単にクリアできるとも思えない。

 決算が急好転して、すぐに多額の融資を申し込む企業を、厳重に警戒するのは至極当然だ。

 このようなプロジェクトを決行するには、協力企業を募るしかない。

 みつからなければ自分で作ればいい。


 全国に散らばる休眠会社を、専門に売買しているサイトがある。

 何社か買い取り、架空取引で利益を確保し、これらの企業情報と病院の決算書を持って、地元企業に協力を申し込む。

 プロジェクトの中に地元の有力企業が入っていれば、銀行も安心して融資を決められる。

 当然、協力各社に名前を連ねた幽霊会社にも調査が入る。

 しっかり会社の体裁だけは整えておきたい。

 幽霊会社の近くに住む砂防林友の会々員に、幽霊会社の運営をしてもらう。

 過去に社長であった人も多いので、人材に不自由はしない。

 詳細な調査をされて困る場合、こちらではなく相手方の都合で危機的状況を作り出せばいい。

 急成長過程の不自然さがあっても、預金高に申し分なしなら、こちら側の信用調査は自ずと甘くなる。


 相手方の病院に買掛があるならば、重たいデマを流してやれば売掛業者が集金に殺到する。

 運転資金の遣り繰りが付かなくなれば、融資銀行は落着いてはいられない。

 そこへ、好条件の企業提携話が持ち上がれば、何が何でも取りまとめたくなるのが人情だ。

 風評被害で潰れるくらいなら、とっくに潰れている。

 噂がどうしたと開き直っている相手では、食いつきが悪い。

 体面を保つばかりの院長がいるならば、実質は理事会が経営権を握っている。

 売却利益の配当が正当ならば、傾いた事業は頭の中から消してしまいたいものだ。


 経営陣にとって、願ったり叶ったりの提案だったから、デマを流して三日もしないで病院経営陣と銀行がセットで診療所を訪ねて来た。

 親父はVS銀行で多くの修羅場を潜り抜けて来た。

 交渉のプロだ。

 相手方はもっといい条件でと粘るが、最初からこの上ない好条件だ。

 こちら側が折れる理由はない。

 一歩も譲らず交渉成立し、親父は理事長に収まった。


 観光地には違いないが、海の家一軒の海水浴場と、ビニールハウス二棟のいちご狩りしかない地域に建つ病院。

 海外からの旅行者で、傾いた屋台骨を修復しよう計画は使えない。

 客の数と危険度は、真冬の剣ヶ峰をしのぐ勢いだ。

 立て直しはセオリーどおり、設備の充実、医師の確保、医療サービス向上でいくしかない。

 医師は順調に集まっている。

 設備は機械マニアの親父の方が詳しいから、重粒子治療施設を造るなどと言い出さないかぎり好きにやらせる。

 何もかも見切り発進だが、基盤となる山武第一病院の収益は表向き安定している。

 後はじっくりのんびりやっていけばいい。

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