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雲枕  作者: 葱と落花生
137/158

137 俺の娘らしい小学生並みの四十路

 どういった事情かは知らないが、俺の娘らしい小学生並みの四十路は、あっちの世界から出てくる気がないらしい。

 いつでも出入り自由の身となっているからには、時たま親の真似事をしたかったら、のこのこ出向いてくれば良いからと、どっちが親だか分からないアドバイスをもらっている。

 世界の情勢がどうなろうと知った事ではないが、なんだか自分自身の環境が、根底から覆されゴロリ変わってくれると、この先どうして良い分からなくなってくる。

 分からないならば放置しておくのが俺のやり方で、きっとそのうち解決するだろうと思い込むようにしてみても、やはり家族が増えるといった画期的変化に遭遇すると、落ち着いて酒飲んで風呂入って昼寝とはいかない。

 これから俺の短い余生に、不幸のどん底辺りで終焉してくれるなと願い乍ら、とりあえずは酔っぱらってやるのに一杯飲んでいると

「猫、南の島に行って時差ボケしてるね」

 ペロン星人がアインのお頭をツンツンする。

「あんな所に時差があるか」

 猫の質問はそのまま俺の疑問でもある。

「一時間で一週間てところかな。一週間交代だから」

「何の交代じゃ?」

「燻製作り要員の交代勤務。重要任務なんだぞー。御前は食うばかりだろうがな」

 異次元か狼の妖怪だか知らないが、いかん生物に翻弄されている世界と現実には、時の経過に大きなズレが有る状態になっているまでは、猫と酔っ払いの与太話で突如不自然に分かったが、燻製作りが重大任務と言うのが、どことなく子供に聞かせるおとぎ話になっている。

 重大任務で作ったとされた燻製は、帰って来るなりロビーに放り投げたままだ。

 とても大事な物の扱い方ではなかった。

 あの寂れた観光地の、そのまた場末の土産物屋で、ほこりを被って半世紀待っても売れそうにない燻製をどうする気なのか。

 気になってきたからロビーに出てみると、近所の者が集まって来て車に乗せている。

 その場で貴方は何処其処、君はあそこと言った具合に、女将が運ぶ場所を支持すると、あっという間に全部消えた。

 宿は女将が燻製配りに精出し経営放棄しているせいで、ペロン星人任せの宴会宿に成り果てている。

 死んでまで女房思いの若旦那幽霊は、これまたせっせと湯を沸かしている始末だ。

 島から帰って来た者に、宿の者たちが生ビールだジュースだと忙しく配って回る。

 少しすると、宴会場にいた連中がエスカレーターに乗って地下道に入って行く。

 島に行って燻製を作り、一時間もすると燻製の束を持って帰って来る。            

 こっちの一時間が向こうでは一週間と言うのは、どうやら本当の様だ。

 へとへとふらふらと、足元がおぼつかない者までいる。

 燻製を大量生産、そしてコイツを千葉に残る連中に配っているのだそうで、疫病神の話から始まった宿屋の現状を紐解けば、千葉に残った者はあの広大な異世界へ自由に出入りできる事になる。

 酔ったペロン星人から更に詳しく聞けば、あの世界へ入り込む入口は世界中に散らばって有ったのだが、遙が管理責任者である狼と話し合って、千葉周辺に集中させていた。

 千葉から人を追い出して、世界から孤立して他国への出入りが出来なくなったら、狭い千葉県型宇宙船での生活を強いられた住民にとって、房総半島は精神衛生上好ましくない世界になってしまう。

 少なくとも、狭っ苦しくて息も出来ない霊廟の様な環境にならんようにとの計らいであるらしいが、妖怪としか思えない奴の体内である事は、千葉県民には内密にとの御達しが出ているらしい……。

 代償なくして秘密の保持が不可能な連中ばかりが関わっている燻製づくりだ。

 どうせ明日には千葉県中に知れ渡っている。

 何はともあれ、県内には婆の病院以外に入口が無かったのが、そこら中から異世界に出入できるとなると、無人島など無くなってしまう。

 娘が密かに別荘としていた島も、誰でも遊べる所になってしまうと思うと些か残念だ。

 

 さて、千葉を宇宙船にしてアクエネとの平和的交渉にあたろうとの企みは理解してやるとしても、磯の連中がやってきた事は社会通念上の倫理感とやらからかけ離れた行為ばかりだ。

 世界中から手段を択ばず御宝をかき集め、しっかり囲われた安全な世界となるであろう千葉型宇宙船で、悠々のんびり暮らす気でいるに違い無い。

 千葉をかような宇宙船にして、土偶のバリヤーで囲い、狼の力でだだっ広い空間を手に入れたらば、今後何ら不自由なく暮らして行ける。

 何年間宇宙に出ているかは、アクエネと行き会った先での交渉期間次第となると、これから俺の命があるうちに帰って来られるとは限らない。

 もっとも、地下シェルターの冬眠装置に体を預ておけば、その間は生命維持装置で生きていられる。

 行って来いの時間は、考えなくても良い勘定になる。

 それに、あの地下に設置された装置だけでは不足するのが目に見えている。

 千葉の人口を全てカバーする為の装置を作る工場まであるらしいから、健康なままの延命は千葉が宇宙船になってからでも十分間に合う。

 どれだけの人員が和平交渉計画に参加するかは聞いても忘れたが、とにかく大勢が一斉に動いた後には、何かと不埒な輩が蔓延ってしまうものだ。

 それを監視して、世界情勢が異常に緊迫しないようにとの計らいから、地下都市を含む千葉の一部を、世界組織の本部として残すとしている。

 やっちゃんが残って、地下の病院で研究を続けると言っていた。

 まさか、あいつを代表にするような愚行には走らないだろうが、地下の巨大シェルターは地球を監視する基地にすると口で言っていても、やっているのは計り知れない科学力と財力をもって地球を征服しているのと同じだ。

 それならそれで、皆でもっと仲良くしなさいと一括してやれば、優しさ溢れる世界政府と見てやれなくもないのに、外部の混乱を収めようなどという動きは一切なく、放置しているのだから始末に悪い。

 どれだけ人間が頑張っても、どこかに残虐な悪の芽が生えてしまうのは、人類史上始まってから今日まで変わっていない。

 今更何を言っても結果は同じと諦めて、隔離された地域の中で、一部の人間だけが平和に暮して行ければ良いとしているようにしか思えない。

「私達は世界の治安を良くし、平和な社会を作ります」などと政治家の二枚舌を上回る方便で包み隠しても、やっている事は神と呼ばれて有頂天になっているボケ茄子共と同じだ。


 そんなこんなの無慈悲を意見してやろうと思いつき、宴会場に戻ってみると、俺は今現在でも疫病神に占有されていると勘違いしているのか、パックが暇そうにしている。

 診療所では、元オカマの美人達に囲まれて喜んでいたのが、ここに来てからは誰にも姿を認知してもらえないらしく、宴会に参加したくとも相手にしてもらえない。

 娘の言う事が本当ならば、パックはかなり深い事情まで知っている筈なのに、今日の今までしらばっくれていやがった。

 ここは一つ、娘の話では理解できなかった事を、じんわり解説付きで聞き出してやるのに近づくと、アインには見えているのか、ひそひそと話し込み始めた。

「どうやったら、おぬしは酔うのだ?」

「誰かに憑りついて酒飲めば酔うよ」

「ヤブの体は暫く開かんぞ、その辺のペロン星人に憑りついて一緒に飲まんか?」

 俺の体がどいつに憑りつかれているか、俺の存在に気づいていないアインが知る筈ない。

 適当にパックを騙す算段のようだ。

「それもそうだなー。暇だしー。酔っ払っちゃおうかなー」

 簡単にひっかかって、アインが指定したしっかり酔っていそうな奴に憑りついた。

 すると、俺が知りたかった事も含めて、何でもかんでもベラベラしゃべくり倒し始める。

 これには驚いて、回りにいた貧乏神やら疫病神にペロン星人から関係者その他大勢まで、興味深々聞き入る。

 アインは何処まで行っても御間抜けとばかり思っていたが、朱莉ちゃんの作った機械の御かげだろう、やる時はやる猫になってきた。

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