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雲枕  作者: 葱と落花生
136/158

136  宴会時間のギャップは、大型ユンボでも埋め戻せない

 元オカマ美女達の表現してはいけない宴席を眺め乍ら娘と一緒に飲んでいると、御姐さんが寄って来て「用意ができたそうですので、こちらへどうぞ」と案内する。

 一旦外に出て、薄っすら雪化粧の日本庭園に設えた藁ぶき屋根の茶室に通される。

 御姐さんが出て行くと、室内には俺と娘が残った。

「あー、きつかったー」

 ついさっきまで大人しい小娘だった表情が、突如大人びて見えてくる。

「おい、声出てるから、ダメだろ」

 俄かに伺い知った知識の結果として、この娘が声を発すると幻聴に悩む生物や霊体とか、エネルギー生命体が世界中に溢れかえって、地球全体がパニックとなる迷惑行為を恐れるのは親として当然だ。

「大丈夫です。ここは全てのエネルギーを遮断する壁で覆われていますから。朱莉さんに作ってもらいました」

 こんな部屋があるなら四の五の唱える前から、ここに入って説明してくれれば良かったと思うのは俺だけだろうか。

「最初から、ここで説明してくれれば良かったと思えるんだけど」

「まだ完成していなかったんです。つい今しがた検査が終ったって、ごめんなさい。心配かけちやって」

 心配などしていない。ただ、御前の能力に恐れ慄いていただけだ。

「俺の娘だってのは、本当なのか」

 ここで、最も大きく? が付いている問題についての回答を要求してみる。

「はい、それは本当です。ただ、ハイブリットですから、お父さんだけが父親ではありません」

 そんな言い方をされると、自分自身の出生について、何等かの不満や疑問を抱いている人の発言に聞こえる。

 しかし、この場合は語ったそのままが真実である。

 少々、混乱の方向に思考が傾いてきた。

「私が誕生してから、地球の生命体間通信事情が急変したの。それでね、何万年か前にペロンさんが地球に落ちてきて、エネさん達と協力して始めた地球の防衛システムに、一般の地球人とか妖怪とか、幽霊なんかも参加するようになったのよ」 

 聞いてもいない聞きたくもない余計な事を語りだす。

 会話に飢えていたと言うより、発言する事に異常な執着があるのは、数十年間無言でいた生態からして容易に想像できる。

 矢継ぎ早に、時系列を負って日記を読むような語り口調からして、数十年間の出来事を粒さに報告する気でいるらしいが、長い年月かけて鬱積した語りたい事全てを、ここで始められたのでは、話が終わる前に俺の寿命が尽きてしまいそうだ。

 とりあえず聞いているふりをしてはみるが、何を言われても記憶に残ってくれる気がしない。

 なにはともあれ「今日はもう遅いから」話の腰を折ってやり「続きは明日からじっくり聞くよ」と言って寝た。


 翌朝、外では無限の体力と恥力で、終焉なきグロ結婚式が続けられている。

 こっちはこっちで、どれだけ頑張っても日本のロケット打ち上げ失敗率程度の割合しか記憶できないであろう情報が、娘の口から立て続けに溢れ出てくる。

 

 茶室での生活が数日続き、やっと今日の所まで話が進むと、今回の計画とか言うのについて解説を始めた。

「千葉を宇宙船にしてね、みんなで宇宙に行って、アクエネと和平交渉するの」

 前振りに数日かけて、本編はほんの一行にも満たない言葉で終わった。

 計画性のない性格は、しっかり俺に似てくれているようだ。

 安心していいのか、逆に不安な気持ちになってくる。

 これは、どういった親心なのだろう。

「千葉を宇宙船?」

 極めて素朴な疑問と不安を解決すべく、最もこの場に適していると思える疑問を投げかけてみる。

「そう、千葉県を宇宙船にするの」

「誰が言い出したの」

「ペロンさんが地球に漂着した時から、大きな宇宙船計画はあったの。地下のシェルター型宇宙船、行ったでしょ」

「あれって、宇宙船だったの?」

「今でもね。でも、今回は飛ばさないで地球の指令センターにするの」

 なんだかとっても嫌な雰囲気になってきた。

 元々のペロン地下都市宇宙船計画が、千葉を宇宙船にする桁違いの計画に変更された理由に、俺が知っている人間が関わっているように思えてきた。

「朱莉ちゃんがね『もっと大きくできるよ』って言って、規模が変わったの」

 無責任な規模拡大だ。

 住民との事前説明も何もない。

 成田空港戦争なみの反対運動がおきるのは確実だ。

 身勝手などこかの行政など、足元にも及ばない暴君ぶり。

「それを聞いてね、遥さんが、妖怪狼ちゃんと相談して、宇宙船になった千葉に残って旅する人達の為にね、大きな世界を作ったの。その世界がここ。お父さんが病院で警護されていた時に、刺客を放り込んだ世界を、ちよっと改造してもらっているの」

 まったく理解できないし、分かりたくない言葉の羅列になってきている。

 とりあえず、俺はこの世界と千葉から出てはいけない人間に指定されていて、小学生にしか見えないアラフォー女が俺の娘で、信じたくもない計画に巻き込まれている程度の理解で良いと決め、残りの膨大な情報については、きれいさっぱり忘れる事にした。

「うんうん、御前も随分と苦労したんだな、これからは親娘、みずいらずって訳にはいかないけど、できるだけ一緒にいような」

 こう言っても、こいつは年がら年中、俺にひっついていられる立場にない人間のようだから差し支えないだろう。

「うん、いつでも一緒」

 思惑と現実が、いとも簡単に瞬時の食い違を見せる現象は俺の人生によくある事で、今更驚いたり後悔したりはしないが……困った。


 なんだかんだを狼の世界でやって、一週間ばかりしてから港屋に戻ってみれば、他の連中が作っていた燻製をロビーに置いて宴会場に向かって行く。

 いつもの事ではあるが、チャンチキ馬鹿騒ぎの声が宿中に響いている。

 まさかとは思うがあれから一週間、けじめの無い宴会をぶっ通していたのだろうか。

 上下関係が乱れた統制下にあるものの、宴席の順位はそれなりらしい配置のままで、出て行った時とたいして変わっていない。

 内臓の半分が肝臓であったにしても、七日間飲み続けていたら、死人の一人や二人出てもおかしくない。

 それが、いまさっき飲み始めたばかりとも思える勢いで、順繰り一気飲みの杯をまわしている。

「おお、猫ー早く座んなよ。肴がなくなっちゃうよ」

 一緒に別世界へ行っていたアインが、ペロン星人のお誘いに軽く乗っかって、宴席にすんなり馴染んで飲み食いを始める。

「どれだけ宴会好きなんだ御前等。何日続けて騒いでおる。宿に迷惑ではないのか」

「何言っちゃってんの猫。始まったばかりだべよ」

 猫と地球の生活にすっかり馴染んだ地球外知的生命体の会話を真に受けて聞く気は毛頭ないが、一週間を始めたばかりにされた。

 宴会時間のギャップは、大型ユンボでも埋め戻せない。

 松林の住人まで参加しての大宴会で、途中参加もありうる事からすれば、始まったばかりと一週間以上が居ても良い事になる。

 自分なりに現状の不可解を解消して、ちょびっと酒でも飲んで温泉に浸かり、適当にダラダラやってやろうと思う。

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