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雲枕  作者: 葱と落花生
133/158

133 出てきちゃったのは、娘……でいいのか?

 この疑問にも増して、二本の脚と二本の腕を神輿の四方に括り付けられた恰好からして、貼り付けにされた尖人にしか見えない奴は、本日の主役であるべき新郎の筈だ。

 もう一基、一緒になって練っている神輿の上で、ふんどし一丁になって大団扇を振っているのが、きっと新婦なのだろう。

 確かに、そんじょそこらでは見掛ける事の出来ない別嬪さんだ、いや、容姿端麗ではあるが、貴賓に絶大なる問題が無い訳ではない。

 したがって、別嬪と表現してしまって良いものかどうか。 ふんどしで隠れている部分は、僅かに一本の帯でしかなく、本来ならばもっこり〇〇んでいた頃の感覚でいるのだろうが、かなりの深さに〇〇込んでいるのが、実に卑猥だ。

 二人を夫婦とし、世間に知らしめる為の挙式であるなら、あの一団が来るべき所はここではあるまい。

 たとえ一糸まとわぬ美女軍団の来訪でも、原形を知っている者にとっては恐怖以外のなにものでもない。

 デカオの腫れあがった〇〇は、道中ありとあらゆる障害物に遭遇してきたのであろう。

 神輿の傷、道筋に生茂っている熱帯植物、臨戦・激戦だったのがひしひし伝わってくる。

 先を行く者が両側から伸びた小枝を払い除けると、後ろでピンと〇〇いきり〇〇ところへ、鞭の様にしなってからビシバシ当たる。

 ところが、当たった小枝は途端にしおれて元気を無くす。

 一緒に神輿で練っている新婦には、小枝鞭攻撃が行き届かない仕掛けになっているらしい。

 つまらない所で女房思いの男は、かくして美女軍団の黒一点として、格別の扱いを受けている。

 お姉さんが、よだれの出そうな口元から一言発する。

「どこまで本物ですか。あのテカテカ具合、見てくださいなー」

 なるほど、別の意味で膨れ上がっているとは言え、みれば見る程、血行よろしく健康的な色艶だ。

 いつ爆発しても不思議でない秒読み段階に入っている。  

 それでも、耐えている意識不明のデカオに、気付け薬でもかがせてやろうか。

 あの〇〇ちょに、はっと熱い一息をお姉さんがかけたなら、瞬間沸騰して辺り一面を迷惑な液体塗れにしてくれそうに思われる。

 特筆すべきは、意識が無いのにらんらんとした輝きを失わず、見開きっぱなしでいるあの目の色だ。

 眼球の殆どは白い部分が真っ赤に充血し、上陸前までは黒かった瞳が白くなったり青くなったり、絵具箱をひっくり返したかの如く凄まじい勢いで変化している。

 遠くからでは、この異変を監察できないだろうと、神輿の前には彼の眼球を映した画面が設置されている。

 派手に上下左右と揺さぶられる台上ではあるが、この色具合の移り変わりを、とっても正確に把握できる仕組みにしてある。

 無駄に手の込んだ親切か、それとも何か意味があるのか、有ったにしてもどうせデカオの目ん玉だ。

「全部本物だよ。ここに来た時からずっとあの状態だ。腫れぼったいのは後から小枝鞭攻撃でなったらしいけどね。でかい固い長持ちとなったらヨダレも出てくるわな」

 目の事は素直に忘れるとして、お姉さんの疑問に答えてやる。

「それはゝ結構なものです事。見ているばかりでは私が気の毒ですわ。触りに行ってもよろしいでしょうか」と言いながら、既に腰がふわふわと落ち着かないでいる。

「良いも悪いも個人の自由だろ」

「先生に聞いているのではありません。御嬢様にお伺いしているのです」

 娘はこの家に現れてから、一言も発していない。

 この期に及んでも穏やかな笑みを浮かべ、大きく数度うなづくと、お姉さんの手を取って一緒に外へ出て行く。


 粉雪がちらちら舞っている庭先から十米ばかり行くと、その先は急に熱帯の景色に変わっている。

 神輿の上で上下しているのは、見方を変えれば御神体に見て取れるが、生々しさが際立っている。

 雪景色の手前で立ち止まった一団は、神輿を荒々しく地面に叩き付け、娘の前に並び深々と御辞儀をする。

 躊躇しない娘が、神輿の上で御神体のふりをして腫れあがっているのをペタペタスリスリやると、シュンっと縮んで標準サイズになる。

 これをお姉さんが手に取ってフッと一息かけると、またもやすくすく育って元気な姿へと変貌する。

「御有難う御座いますー」

 美女軍団が揃って一礼し、今来た道を引き返したかと思ったら、幾らもしないで晴れ着に身を包み戻ってきた。

 流石に際物中の際物でも、素っ裸で真冬の景色に溶け込む気にはなれないらしい。


 強かに無遠慮な連中は俺を無視して家に雪崩込むと、用意された酒を一杯注ぎ「カンパーイ!」と三回ばかり繰り返す。

 空きっ腹に入れた冷酒は、ずっと後から効いてくるのを知らないか。

「御嬢様ー、今日は随分と御機嫌が良いみたいねー」

 親分格の元オカマの美女と言うややこしい立場の奴が、俺の娘とされているこれまた不可解な子供らしい者に声を掛ける。

「お父様に会えて超ゝゝゝー、御喜びの真っ最中です」お姉さんが娘の代わりに答える。

「そうよねー、何十年ぶりー? よく今まで待っていたわよねー」

 どうやら娘が自分達よりもずっと年上であるのは、元オカマの美女軍団全員に知れているようだ。

 ついでに俺の娘と言う不確かな個人情報まで、すっかり公開されている。


 荒れそうな家の中に何時までもいる気はない。

 折角、熱帯雨林の真ん中で日本庭園に雪の積もった不自然な自然があるのだ。

 これでバーベキューをやらないで、いつやる。

 他の連中はどうあっても良いが、俺は絶対焼きゝするんだとお姉さんにねだれば出てくるバーベキューセット。

 お頭の都合で今日が何月何日か不明になる事がよくあるものの、絶対に元旦ではない。

 それが証拠に、昨日の晩は年越し蕎麦を食っていないし、除夜の鐘も聞いていない。

 それでもここの正月だと言われると、ケルト人のか旧正月か、はたまた未知の文明では今日が正月なのかもしれないと納得したくなってくる。

 外は些か寒いが、家からちょっと離れればすっかり南国楽園熱帯園が広がっている。

 境界線辺りまで出張して、あっちとこっちを行ったり来たりすれば、寒さなんかなんのその。

 ところで、ここに来てから随分と色んな事を経験しているが、夜に成る気配がまったくない。

 本来ならとっくに熱帯夜になっている頃だ。

 白夜の国でもあるまい。

 太陽が無い事から推測するに、人工の灯りで昼間になっているだけで、性質の悪い奴が管理していたりすると、いきなり「夜ー!」もありうる。

 用心の為に、懐中電灯とカンテラと松明を持って、一人寂しく境い目でバーベキューを始めてやる。

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