130 楽園の結婚式……で、良いのか?
一見ボンクラとしか解釈できないデカオ。
もう少し好意的に彼を分析しても、デクノボウかオタンコナスが限界だ。
こいつに都合の良い事だけ吹き込んで、島で待っている連中の誰かとくっ付けるのは簡単だが、人道に反するような気がしてならない。
出がけに霊から「こいつが危なっかしくなったら、これで連絡してよ」と渡されたのは、一世紀前に陸軍で使っていたらしい通信機で、紹介しちやって良いのかどうか確認をとってみる。
「デカオがさ、島の美人と結婚したいって言ってるけど、紹介しちゃって良いのか。お前の二の舞になるのが、目に見えているんだけど」
「ああ、そいつな、出すもの出せれば良いだけだから、気にしないで適当にやっといてよ」
自分に対して甘くいい加減な奴は、他人に対して非情な無責任でいられるようだ。
「先生、この島だー」
こんな時は島に着いたのを教えてくれなくても良い。
強力なエンジンを二機積んだ船で、フルスロットルのまま海岸へ乗り上げれば、誰でも身をもって上陸認識できるのを知らないのか。
三米ばかり飛ばされた砂浜から、数秒前まで乗っていたボートを見ると、生きているのが不思議な程に大破している。
「どうやって帰るんだよ」
「んー、何とかなるっしょっ」
反省より前の段階で、こいつには危機感が全く無い。
警官殺しが冤罪とは言い切れない気がしてきた。
生きたまま辿り着きはしたが、こいつからは出来る限り早く遠くへ離れたい。
こんな至近距離で生活していたら、これから先も生きていられる自信が湧いてこない。
サンサンと降り注ぐ太陽光の下、極薄ネガティブ気膜に包まれ、仰向けに気絶でもしてやるべく眩しい空を見上げると、明るい空には……太陽が無い。
「オボケ君、どうして昼間っから太陽が無いんだ」
聞いた所で明確な答が返ってくると期待しているのではないが、黙ったままこの空を見続ける勇気もない。
「んー、難しい事は分かんねえけどよ、ねえんだよ、ここには」
難しい事だけが分からないのではなさそうだ、こいつは地球の常識さえ覚束ない頭脳の持ち主らしい。
答らしい言葉は聞けなかったものの、何はともあれ絶対にここは、これまで巨大だと思っていた地下都市がミニチュアに感じられる施設か彼の世か地球でないか、この程度までは理解できた。
刹那にあって俺はこれからどうするべきか、身の振りについて一通り悩んでいると、危機感をより一層強くしてくれる刺激的な声の塊が耳の奥で何度も木霊する。
「いらっしゃいまっせー」
「先生ー。待ってたのよー」
「あーら、まー、木偶太郎君も一緒よー」
「その子ー、あれだけは御立派なのよーん。歓迎しちゃいましょー」
「これから結婚式ですってよー」
「一発やっちゃいまっしょっー」
なんて悍ましい光景なんだ。
つい数時間前、理想郷と認知した世界で数多くの島から一島選び、こいつ等は不当に占拠している。
我儘に過ごす様子が、デカオの扱いによって伺い知れる。
下手に意識があると取り扱い注意人物であるのを知っているのかボッコボッコと容赦なく、命が幾つあっても足りない程度の原始的な麻酔によって、二三日は起き上がれなくしている。
歓迎するのは御立派なものだけで本体に用事はないのだろう、今からこの島を自分達の為に桃源郷とすべく、パンツを引き剝がし身体に比例して異常にでかい〇〇を晒し物にして、神輿の上に乗せ練り歩く。
神輿の上に見えるのは、体と一緒に殴ったか〇〇たか、はたまた捩じって握ってギクシャクとやらかしたのか。
もしかしたら、こいつ等には珍しく人道的措置として、〇〇たか〇〇〇〇甚振ったか。
兎に角、これ以上のものには滅多な事では御目に掛かれないないと確信を持てる〇〇だけが、ブンブン風を切って唸っている。
気絶した状態でも膨らませていられるとは、デカオも妖怪の仲間なのではなかろうか。
だとすれば、恐怖を覚えるウスラボケ加減も説明がつく。
俺を待っている者が居るからと、あの鈍つくに案内されるままここまで来た。
しかし「先生、待っていたのよ」とか言っておきながら、目前で恥晒しに余念の無い所からして、あの一団を指し待ち人していたとは思えない。
こんな世紀末を絵に描いたような場所で、誰が俺を待っているのか不安心になってくる。
白砂の海岸に建てられたロッジのテラスで、揺り椅子に揺られデカオに対する元オカマ美女軍団の鬱陶しくも卑猥な結婚式を観察していると、ホワイトブリムの御姉さんがワゴンにフラッペを乗せて現れる。
「御待たせー」
俺の記憶に劣化がなければ此の人は、病院の近くに有ったぼったくりバーで、店に務めていた娘達の世話をしていた女だ。
同一人物ではなかろうが、数十年前と同じ容姿は彼女と似過ぎている。
当時から勘ぐっていなかった訳ではないが、あの家に居た女達は一通り全員が妖怪の類であったような気がしてならない。
怪しい世界に引き込まれ、にっちもさっちも行かなくなっているからには、美味そうなフラッペだって中身が何だか分からない。
しかし、行くも帰るもできない所まで来てしまっては、観念するしかなさそうだ。
出されたグラスを取り、ストローで中に満たされた酒の味を確かめる。
「梅酒……」
この味の正体を確認しようと横に立っている御姉さんを向くと、何も言わずにそのまま揺り椅子の前にかがむ。
このような状況を、病院の一室から見ていた記憶がムラムラ蘇ってくる。
あの時は、美津子さんが俺と同じ立場で横になっていた。
ひょっとしなくても、このままあんな事へ猛ダッシュで突き進んだ後は、そんな事までと淫らな妄想と一緒にいろんなものを膨らませる。
「準備はよろしいでしょうか」
既にすっかりその気になっている〇〇を、しなやかな指で引っ張り出して上下にのんびり〇〇始めている。
ここまでやってから、わざわざ確認しなくても良さそうな態度だ。
瞳が大きくて小さな丸顔の御姉さんは、童顔なので何歳か見当も付かない人だ。
唇は下の方が少し厚く、美津子さんと同じ艶のある薄桃色のルージュに彩られ、右の口際に薄く小さなホクロがある。
あの頃から比べれば俺のはだいぶ成長しているというのに、そいつが小さな唇の中にすんなり〇〇込まれてしまう。
彼女の仕草は何時も何かの儀式のようで、俺が子供の頃から変わらない動きをしている。
大人になって、この手の悪戯には慣れていそうなものだが、鮮烈な〇〇が衰勢する事はなく、彼女の熱情も変わりない。
俺が抵抗できない精神状態になったのを見計らって、御姉さんは動きを一旦終えると、丁寧に出してあった〇〇を元の場所に戻す。
「御部屋を御用意してありますの、あちらの方へどうぞ」
立ち上がって向き直した目先は、島の中心を見ている。
「随分と長い事会っていなかったけど、あれからどうしていたのかな。それよりも若いままだよね」
歩き始めた彼女の後から、どうせ真面な答えなど返って来ないであろう質問をしてみる。
「御嬢様と一緒に世界中を旅していましたの。それから、もう一つのご質問にはお答えできませんの」
美津子さんはアンチエイジングに莫大な投資をしていると言っていたが、もしかしたらバンパイアの研究でもしているのか。
とりあえず俺に危害を加えるとか、吸血鬼にしようと言った素振りは無いようだ。
根拠のない判断を下し自分を根柢から騙して、すぐに対処しなければならない〇〇の問題解決に集中すべきと決断した。