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雲枕  作者: 葱と落花生
121/158

121 疫病神と貧乏神に死神

 ここまで奇跡が続いたら、絶対にこの星は壊滅したりしない。

 妙な安堵感が全身を包んでくれるのは、実に困った現象だ。

 この際だから、知っている理由などどうでもいい。

「やはり朱莉ちゃんなのか、訳の分からない避難計画の首謀者は」

 避難所とした地下都市最高責任者と言う立場にある者として、一科学者の暴走が千葉県全域に混乱を招いているとなると、見過ごす訳にはいかない。

「だから……違うって言ってるでしょ! 違う朱莉ちゃんなのー」

 生態が難解なのは、生まれや育ち等の影響が大であると勘弁してやっても、発言が無責任なのは容認できない。

「もう一人、朱莉ちゃんがいるとか、実は三つ子だったとかって話なら付き合ってやらなぞ」

 父親はヒットマンとして、いたって人間的な行為を生業としていた。

 キリちゃんが妖怪でもない限り、朱莉ちゃんは分身したりしない。

「彼女は一人なのー、でもねー、頭脳が二つあるのよー」

 十一面観音やケルベロスでない人間に、二つの頭脳では一つの脳体積が常人の半分か、頭蓋が二倍でなければならない勘定になる。

 それなのに見た目は小顔だし、定期検査の画像も当たり前に映っている。

「君達の御話しは、いい加減を飛び越えて、ほらにしか聞こえて来ないのだが、どうしてくれるのかな」

 まずは、噓八百の作り話に感動する前に、できれば本当の事を教えてほしい心の内を、誰にでも分かるように表現してみた。

「パックが見えているのに、あの子は見えないのね。先生ー」

「あの子って何? パックと関係あるのか」

「ひよっとしてー、疫病神の事も知らないのかしらー」

「それなら知ってると言うか、辺り一帯の神社で元締めをやってるあおい君が居ても、どうにもならないんだから、諦めるしかねえだろ」

 疫病神と貧乏神に死神だったら、随分と前から診療所に居候を決め込んでいるんじゃないかと勘ぐっている。

 そんな奴らは、それこそ神話の中の事で、知っていようがいまいが俺には関わりのない事だ。

「どうやら、知らないみたいねー」

「私達ってー、宇宙に行って帰ってきたら、超能力って言うのー? いろんなものが見えたりー、好き放題操ったりーが出来るようになったのねー」

 だからどうした、本当に神がいるならば、こんなふざけた連中に自分と同等かそれ以上の力を持たせるのは、異星人が攻め入って地球を滅ぼすより、遥かに高いリスクが伴うくらいは察しがつく筈だ。

 善なる神は何等かの良い思いと引き換えに、悪魔に地球の平和を売り飛ばしたか、もしくは生死を賭けた戦いに破れて絶滅したか。

 ひっとしたら、親類縁者をそっくり人質にとられ、悪魔の言いなりになっているとしか思えない世の中だ。

 まかり間違って、本当にそんなに悍ましい力を手に入れたのならば、能力開花の手伝いをしたのは、絶対に大魔王だと言い切れる。


「超能力とやらで、何が見えてるってんだよ。幽霊とか宇宙人だの妖怪だったら、俺だけじゃなくて千葉に住んでいる殆どの生物に見えてるぞ」

「困った先生ねー、神様よー。貧乏神が久蔵さんでー、死神が相南さん。そんでもってー、先生は疫病神なのー」

 言われてみれば、久蔵の顔は昔から貧相で、少なからず貧乏バンドをやっていた頃は、俺達を援助しているふりをしている貧乏神なのではなかろうかと疑った時期があった。

「確かに、あいつは妖怪の亜種だから、貧乏神と言われて文句もないだろうがなー、本物じゃないだろう」

「久蔵さんに憑りついているのよー。貧乏神が! 先生の所にも分け前が有ったでしよ。一億ドル」

「そうよー、あの方が有朋さんのカジノに潜伏していた時期にー、金持ち連中を貧困のどん底に突き落としてせしめた御金よー」

 元オカマの連中が、烏合の衆となって説明するが、当然の成行で内容が理解できない。

「その辺の所は、まあ、何だ、ない話でもないような気がしないでもないが……」

 久蔵には、まだ解明しきれていない事がありそうだと、琴音が手記に残していた。

 あいつが貧乏神まで背負った妖怪との仮説が成り立つなら、相南には死神が憑りついていると解釈できる展開になってきた。

「そうなってくると、相南が救急で連れてくる仏さんってのは、あいつが搬送中、あの世に送ってるって理屈になってこないか」

「そうねー、そうともとれるけどー、本人の名誉の為に言っておくとねー、相南さんは、その事を知らなくてよー。先生と同じでねー」

 知っていてやってるなら、御立派な連続殺人犯だ。


「相南が知らなくて、誰が知っているんだよ。まさか解離性同一障害とか言わないだろうな」

 あいつが人格を変えて、殺人鬼になってもおかしくない事件を、おれは一件だけ知っている。

 クロを肥料爆弾で吹き飛ばした事実からして、余罪が有っても不思議ではない。

 放火を失火と偽って、長年市長としてこの地域を支配してきた男が父親なら、それなりの教育を受けて育ってきたとするのは強ち筋違いでもあるまい。

 しかし、こんな過去を何等かの方法で調べて、その犯罪のみをもってして、奴が死神だとしてしまうのには賛成できない。

 もっといい加減な発言に、俺が疫病神だとの一句がある。

 複数の疾患や事故だとか災害に加え、やりたくもない権限のない代表に持ち上げられて、すっかり疫病神に憑りつかれていると感じないではない。

 しかし、本当に疫病をまき散らす神が、この世に存在するとは信じたくない。

 信じる信じないは個人の勝手。

 結局、見えないものは信じ難いと言うのが現実だ。

 ところが俺の障害は、画像に映らないから誰の目にも見えない。

 神経学的な検査を幾つもやって、最終的に辿り着いた確定診断だった。

 今まで、目に見えないからと言って、それが無いのではなく、気づけないだけだと力説してきたが、ここにきて、信じていない神だ仏だが存在して、宇宙帰りの元オカマ連中には見えていると証言されている。

 ここで、こいつらの言う事を、頭ごなしに「ありえねー」と否定しては、今まで俺の障害について訴えたその都度、屁理屈にもならない理由で否定してきた最低の人種と思っている連中と同じ人間になってしまう。


 見える見えないは別として、そんな輩が無遠慮に周囲をうろついているとしたなら、とっても気になる事がある。

「俺には疫病神が憑りついているって事らしいけど、そいつって、俺に対して危害を加えるつもりで乗っかってるのかな? それとも、誰か他の人間に対して、俺自信が疫病神になっているって事なのかな、どっちよ」

 子供の頃にパックが憑りついて、延命できているような人生らしい俺に、更に乗っかって何の得がある。

 疑問がどんどん噴き出てくる。

「あーら、嫌だー。疫病神はー、自分では何もしないのよう。人が厄で困っているのとかー、病気で苦しむのを見て喜んでいるだけなのー」

「先生に、何か悪さをするのに居るんじゃないわよーん」

 自分達こそが疫病の団体である事に気づけないからか、今現在、俺の身にはいかなる厄難も降りかかっていないかの如き発言。

「おーい、お前ら、それってよ、妙な話になってないか。疫病を見物したくてうろついてる奴がだ、どうして、病気を治す医者に憑りつくんだよ。得がまったくねえだろ」

「そこよねー、お馬鹿の度合いが行き過ぎているからー、聞いてやったのー」

「お前ら、神とか言う連中と話ができるのかよ」

「当然でっしょー。私達って、ヒーローなのよー」

 超能力を身に着けたのと、ヒーローとちやほやされたのが祟って、完全にのぼせ上っている。

 ここまで自分を賛美する一団に遭っては、神も恐れ入ったとなってしまうらしい。

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