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雲枕  作者: 葱と落花生
112/158

112 見かけ倒し美女軍団

 獣医やペロン星人が解き明かした資料をそのまま信じれば、災害の発生状況が予め知れていた。

 必ずや役立つ物と思い、この巨大施設建設となった。

 どの道、台地が裂けてしまえば、底知れぬ地球の中心まで落ち込んでしまうと思わないではないが、天変地異が必ずしも地震とは限らない。

 隕石だったり雷や台風・大雨からの洪水となってくると、避難所の存在は有難い筈だ。

 人が作り出す災いなら、戦争が極となる。

 ならば尚の事、非力な一般人が避難するには打って付けの施設になっている。

 このような事態を予想し、気が遠くなる程の太古より、かの施設建設に関わってきた者が地上に居るとすれば、パックを筆頭に、地球に溢れかえっていても見えないエネさん達だ。

 となれば、久蔵が地下施設から周囲のシェルター建設の裏事情まで知っているだろう。

 それでも、正体が公になっているこの地域にあって、今後の計画を誰かに話しまわる様子はない。

 総て知っているとは思えないが、どんな理由でシェルターが妙な配置になっているかは知っている筈だ。

 分かっていても、何十年も俺の隣に住みついて関わってきたのに、最近まで真実を一切秘密にしてきた奴だ。

 もっと口の軽いペロン星人に聞いた方が、確実に情報を得られる気がする。

 ペロン星人が、あれこれ秘密を開放する薬は酒だ。

 富も名誉も必要としない彼等が、常日頃より泥棒や悪漢の真似事をするのは、人を苦役に追い込み、その糧を奪って自分が恩恵に預かろうとしているのではない。

 唯一無二の娯楽が、自分達を異星人との理由のみをもって差別してきた、地球人の困った顔を見て喜びたいだけで、根っからの無差別快楽犯罪とすべきだ。

 ある意味も本当の意味も、あいつらは手の負えない性悪星人以外の何物でもないが、煩わしい事に、地球を守ろうとする気持ちは人間以上に持ち合わせている。


 診療所は、ついついバーベキューを囲んだ宴会場に変身している。

 大酔っ払いになっているペロン星人を捕まえて、軽く疑問を投げかけてやれば、簡単に解決してくれるに違いないと踏んで、俺も何気なく焼きゝに参加してみる。

 ところが、ペロンの連中には人の心を読む力でもあるのか、今日に限って食うのは底なしにやっているのに、飲むをやらないでいる。

 元オカマの女連中が、チャンチキしていても盛り上がりに欠けている。

「今日はノリが悪いのねえー」

 親分格の釜が疑念を吐くと、ペロンの一人は飲みたそうな表情をして、デカいビールジョッキをさすりながらこう言う。

「今日ばかりは飲んで騒いでは禁止されてるんだなー。お前らだって聞いてるだろー。これからの動き方で世の中が変わるかもしれないんだろべー。これまでの総てがかかった一大事を任されているってのに、お前ら、よくもへべれけでいられるもんだなーよー」

 ただ単純にこの会話を聞くに、ペロン星人には飲酒禁止令が出されている。

 それは、こいつらが示す酒癖の悪さが原因ではなく、これから何かの一大事に関わって、一騒動起こりそうだからだ。

 これらの事を述べて、ウワバミ並みの酒好きが飲まずにいるとなると、普段は愚者の評価高き彼等にも、一生に一度の大仕事であるに違いない。

 このように、責任感の塊となった彼等を見た事も聞いた事もない。

 ここは自分の気持ちが変わらぬうち【正直言って、君達が何かに本気で向き合う事があるとは、まるで夢でも見ているようだ】と、拍手して褒めてあげるべきだろう。


「何にそこまで真剣になっているのかは分かんないけど、お前らがそこまで気合を入れてるのは、見ていて素晴らしいばかりだー」

 釜達にも強制して、拍手の嵐を浴びせまくってやる。

「俺達だって、やる時はやるもんだー」

 地球に来てから、一度も褒めてもらえなかった生活だったのか、ちょっとおだてたら揃って緊張の糸が切れ、骨抜きのだらしない面体になる。

「いやいや、そんなに照れる事はないよ。偉いものは偉いんだ。どんな仕事かは知らないけど、まあ一杯。景気つけて頑張ってくれよ」

 この作戦に気づいたか、釜達が一斉にペロン星人達へ酒を持たせる。

「お仕事、がんばりまっしー。かんぱーあーい」

 釜の音頭取りで乾杯すると、それまで抑えていた欲望が一気に噴き出す。

 抑えが効かないどんちゃん騒ぎが始まった。

 思っている以上にペロン星人は危ない性格だ。

 こいつらに大事な仕事を任せた奴が悪い。


 地球の一大事であるかの如き話をしていたが、こんな事で良かったのか、いささか気になる。

 いつもの俺なら、明らかに何事をも考えず、見えても見えないふりをしている。

 慎ましくも不自然な暮らしの中で、後光が射している三つ子の一部と同化した記憶以外は、著しき変化の現れとは言えない。

 今となっては、宇宙人に妖精や幽霊とか妖怪などとされている連中が、至極当然な存在であって、危害さえ加えなければどうでも良くなっている。

 ここで、はたと思考を巡らすに、三つ子の本性を追及すれば久蔵と同じである。

 物の怪とも神ともつかない宙ぶらりんの立場にある生物で、嬉し恥ずかし気持ち良いから、好意的生物として仕分けている。

 何の対象が、人間である必要はないとは常々思っていた。

 しかしながら、世の中とは分からず屋ばかりが大手を振って生息すべしと定められているかの如く、異種間チョメチョメにおいては、紀元前よりタブーとされてきている。

 もとより、ニョヘペコが繁殖の為にのみ用意されし行為であるなら、そちらにあちらにと見境なく融合しようなどとは思えぬところ。

 さらに加えるならば、神が定めしニョロクニュと結論すると、間違っても異界であったり異種との交わりによって、新たなる生命の誕生などあり得ぬ筈である。

 ところが、猫科でも馬科でも、人間が仕分けた種に反し、別種との混成が生まれ出ている。

 明らかなる人間の勘違いによる仕分けから起きたものとするべき現象であるものの、これは同時に神が創造せし生物は、その起源より猫は猫、犬は犬でなく、神の姿さえ無かった太古の宇宙にまで歴史を遡り、全ての生物、ひいては、あらゆる物質はその根源を同一としているとの証でもある。

 これらの考察より導き出される宇宙の普遍的理論から、目の前でパーティー会場を酒池肉林に彩り、阿鼻叫喚の狂宴としたペロン星人を、人間として認めないのは許されるとしても、宇宙を構成する一因子として、我と同等に扱うべき日本語を話す物質と心得るべきである。

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