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雲枕  作者: 葱と落花生
110/158

110 生体エネルギーは不滅

 三つ子婆ぁの孫の様に、妖怪とも化け物ともつかない、生物かどうかさえも分からない久蔵の親戚より、絶対に信じて良い女に思える。

 帰ってきたら、勇敢なる彼女達の功績を称え、ヘコから貰った【危ない地上の飯屋プラチナカード】で、たんまり御馳走してやろう。

 ところで、プラチナカードを貰ったはいいが、ここのところ使える店に行っていない。

 これから下見に行くにしても、しゃべくり倒して五本指で飯を食い、二本足でウロチョロする猫と一緒の朱莉ちゃんとでは、気絶してくれる店員がいるに違いない。

 かといって、毒見役も付けずに、ヘコがオーナーの店で飲食する勇気はない。

 ヘコの知り合いは、つまり俺の知り合いでもあるから、大抵はカードを貰っている。

 わざわざ俺を誘わなくても、タダ食いが出来る。

 したがって、店に行って偶然出くわさなければ一緒になる事はない。

 甚だ扱い難いカードで、週に一度使うか使わないか程度の価値しかない。

 だが、無いとなると寂しいのも事実だ。

 しかも、最近は外食に飽きたのか、知り合いに道で行き合っても、飯に誘ってもらえない。

 そればかりか、地上から地下への宅配弁当流行りで、地上には人がまばらだ。


 さて、俺は何を考えていた。

 そうだった。

 朱莉ちゃんが、やけに呑気に構えている事について考察していたところだった。

 アクエネはこちら側兵士の数より多いと報告を受けても、一向に動じる気配すらさえない。

 それより、嬉しがっている風にも見える。

 激務に耐えて一段落ついたからか、地上にいる時と同じに今はヘラヘラしている。

 このままずっとの毎日が続き、心の片隅にあった緊張の糸がすっかり消えて無くなったら、いったいどこまで盆暗になる。

 試してそのまま戻って来なかったら、それこそ地球の一大事だ。

 危機感がまったく無くなった者が、危機管理の職についているとロクな事にならない。

 土偶の増幅効果によって、ある程度は賄えるとしても、地下の人体保存装置は百五十万機だ。

 宇宙のダークエネルギーを取り込み力を千倍まで増幅しても、少し多い程度のエネルギー体にまでしか成長できない。

 玉砕の覚悟を持ってあたっても、アクエネには数で勝てない勘定になる。

 まして、地球人が持つ船は、ペロン星人の家となっている宇宙船だけだ。

 地下施設総てを宇宙船に改造したとしても、報告にあったアクエネ宇宙船とたいして変わらない。

 おまけに一機では、大球体の中で更に小球体と成って分かれているアクエネ総てに対抗するのは困難だ。

 一小球体でも残っていれば、地球を死の惑星にできる程の威力をもった者達を相手に、どんな作戦があって勝算を弾き出しているのか。

 俺には、朱莉ちゃんの脳が、猫並に退化していないのを願う事しかできない。


 とやかく考えを巡らしていると、「朱莉ちゃんが千年に一度の大発明ー」ペロン星人が騒いでいる。

 しかし、この発明があって良いのか悪いのか、判断ができない。

 千年に一度とは大げさではと思ったが、聞いてみれば成る程その様だ。

 人類が物の本質を引き出す錬金術で作った発明時代は、有史以来数千年有るが、機械を使って物質を変換する発明はなかった。

 つまり、人類史上と言うばかりか、地球の歴史が始まって以来の大発明となって、困ったが二乗の三倍になっている。

 ところが、作った朱莉ちゃんは、この大発明をペロン星人の宇宙船と久蔵が作った土偶をくっつけただけの実用新案だとしている。

 使ってから何らかの不具合があった時に備え、微妙な責任逃れの理由を今から作っているとしか思えない。

 誰もが大発明とする実用新案は、如何様な物か説明すると、俺が一口に解説するのは無理。

 人並の知能を有した人でも、ボンヤリ理解するのがやっとだと思う。

 これを説明しろと言われると、真面な解説になるはずがない。

 しかし、分かっている事だけでも伝えないと話が先に進まない。

 これより、認識に大幅な不安要素を含む事柄を伝達するが、まったく理解していない者が、人類には理解不能の発明について解説する事を、予め了承しておいていただきたい。


 さて、朱莉ちゃんが創った機械だが、猫のクロが宇宙に旅立つ時、飛行燃料としてダークエネルギーを蓄えるのに必用とされた土偶を、一つ粉々に粉砕する事から始めている。

 八つ揃わなければ完璧なエネルギー変換装置とならない土偶の重要性を、誰よりも知った科学者が、後先考えずに微粒子に成るまで粉砕したとは思えないが、やる事が思い切っている。

 土偶の製造者である久蔵が、今現在此の世に存在している。

 何かの拍子に必要になったら、再び作り出す事が可能とは言え、作った当初は理由も使い方も効果さえ知らずにいた者が、まったく同じに作れるとは限らない。

 それでも、一部を削って実験するのならまだ可愛い。

 それが、全体の強度や特性を見る為にと言って、煮たり焼いたり叩いたり凍らせたり。

 やりたい放題やってから、一体そっくり粉ひき器にぶち込んだのだ。

 回りの迷惑など全く考えていない。

 一体でも診療所周辺の半径五キロ圏内に防護バリアを張れる程の力を持った土偶を、水車で回る粉ひき器にかけるのは並の人間なら心臓が口から飛び出る程の勇気がいる。

 結果として判明したのは、土偶の効果はどうしたら発せられるか。

 久蔵が作ったとしているこの機構は、誰がどんな形に作っても効果を期待できる金属だった。

 どこで手に入れたかまでは不明だが、例え金属の粒が元素にまで細分化されても、一個体の許容エルネギー量が小さくなるだけ。

 金属と同化した生体エネルギーの意志を受けてダークエネルギーを吸収し、強大な力を製造するのに変わりはなかった。

 そして、ペロン星人の宇宙船が飛べる原理も、土偶の金属特性と酷似している。

 ペロン星人の小型宇宙船を一機スクラップにし、砕いた土偶の微粒子を混ぜて作ったカプセルに、生体エネルギーを納め乾電池の様にして、ロボットにセットする。

 驚愕のアンドロイドが作れるのだそうな……。


 生体エネルギーは不滅だが、何等かの個体に憑依して体を持った疑似体験をする事によって、その力を保持している。

 エネルギー体だけの生物として長く居ると、消滅はしないものの、衰弱して終いには一番大事な個性の意識が失せてくる。

 そうなると、生きているような幽霊になってしまう。

 この状態を予防する意味もあって、エネさんは人間に限らず、色々な者に憑依して疑似体験を繰り返していた。

 そこで得た元気の元の様な【経験】と言う個性の御礼に、生命エネルギーを憑りついた者に御裾分けしている。 

 アクエネも同様で、暴れまくって逃げて行ったタコを船団に定住させている。

 船のロボットやタコの他にも、自分達のエネルギー強化の為、侵略した星の生物を利用して疑似体験しているのだろうとの仮説を立てている。


 極めて難解な話の一部、理解できた様に思える所だけでもこう言った内容だ。

 これまでの経験が、根底から覆される理屈には付いて行けない。

 俺はこの件に関して、理解不能のままでいた方が幸せでいられると強く感じた。

 とりあえず「なるほどね」と言って、地上の診療所に戻った。

 地上に帰れば、朱莉ちゃんは妙な科学者から何処にでも居る十代の娘に戻る。

 何となく安心していられる。

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