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雲枕  作者: 葱と落花生
102/158

102 勢力予想ダービー

 異星人からの攻撃が収まり、夜になって焚き火の前で遙とコーヒーを一緒する。

「さっきさ、ペロン星人の一人に聞いたんだけど、この異変て、君の実験で起きた異変じゃないみたいだよ」  

 自分の実験が異変を招いているのではないかと気にしている遙の、気持が和らぎそうな情報だったので教えてやる。

「どう言う事ですか」

「彼らとは別のタイプの異星人がさ、やってるらしいよ。長ーい地球生活でストレスたまっちゃったみたいだね」

「そんなー、勝手過ぎませんか、それって」

「勝手って言ってもねー、基本的に生物って勝手だから。君の実験で、奴等の計画より異常現象の規模、かーなり縮小してるみたいだよ」

「そういう問題じゃなくて、被害を最小限に食い止める必要があるんじゃないですか。私に心当たりがありますから、相談してみます」

「あの地球防衛軍みたいの、頼りないなー。僕なんかもう手配しちゃってるもんね。まあ枯れ木も山の賑わいって、そっちはそっちでやってみれば」

 病院を出る時シロに会ったので、困った事態になったねと立ち話をしていた。

 シロは「状況が詳しく分かれば、それなりに対応できると思います」と、看護師・薬剤師三姉妹を指して平然としていた。

 噂によれば、長女のメイサは何でも石にしてしまう恐ろしい能力を持っている。

 彼女の力を発揮すれば、何とかなりそうな気がしないでもない。


 夜の戦闘が始まって三時間ばかりすると、事態が落ち着いてきた。

 何が起きたのか未だに誰も分からない様子だが、俺の処にシロが来て、もうこれ以上被害が拡大する心配はないと報告してくれた。

 タコ星人はメイサが片っ端から石にして、旦那である石屋が運んび、店に並べて売り飛ばす気でいる。


 ほっと一息いれてテレビを見ると、逃げていたアナウンサーが帰って来て、いつものテレビになった。

 隊員も医師も患者までも、勢力予想ダービーなる番組にクギヅケになっている。

 まだテレビ画像のあちらこちらに、自由の戦士スタイルスタッフが残っているが、いたって平和的にニコヤカな番組放送になっている。

「はいはいはい、帰ってまいりました。今日も元気に天国へでお馴染み、超高速道路協会提供【ハイウェイトゥヘブン・村を制するのは誰だ】始まりましたよー。大本命の知的地球外生命体同盟がこけちゃってねー、大変な事になっいてますけど、片田舎村征服レース。先が見えなくなってまいりましたー」

 地球の一大事を賭け事の対象にするとは、ブックメーカーよりも逞しい博徒魂だ。

 これはもう俺がどうこう言える段階ではない。

 一つ張ってみるか。


 局地的な異星人侵略の大事件はそっちのけで、世界の情勢は災害の頻発から切迫した事態が続いている。

 世界中に展開するテロ組織は、自称【人民解放軍】だが、徒党を組んで一般人から略奪するまでに統制が乱れてくると、もはや人民の敵だ。

 取り締まっている政府軍もまた、一般人と反体制勢力の見分けが出来ないまま、罪の無い人まで捕えて拘束している。

 拘束された者達はやがて政府に不信感を抱き、反体制側へと傾いてゆく。

 正に、過激派エネが書いたシナリオで演じさせられている人達だ。

 彼等は総て仕組まれている事に気付く為の判断力を失い、自然の猛威に不安を掻き立てられ逃げ惑っている。

 物不足で不自由な生活の不満が、世界のいたる所に満ち溢れているのに、むやみやたら逮捕して権力を誇示し過ぎた政府軍は、多くの人民から反感を買っている。

 それでも、彼等がいなくなっては、それこそ世界に秩序がなくなる。

 略奪した物資の再配給で、同志を引き付けている人民解放軍も正義の味方を謳っている。

 どっちもどっちの攻防だが、人民解放軍のバックには過激派エネがついている事を考えれば、粛清しなければならない勢力は決まっている。  

 しかし、彼等には高い志があり、正義と信じて命がけの戦いに挑んでいる。

 これ程まで人類を思っている人達を、無差別に撃破してしまっていいのだろうかとも思う。

 人間同士の戦いとなれば、やる事は殺し合いだ。

 どちらも弱者の為にと戦っているのに、今更正義も悪も無い。

 誰もが自分こそ正義だと信じて戦っている。

 悪いのは、この純粋な人達を操っている奴なのに。

 

 テロの鎮圧に、ペロン星人と各国の警察機構が協力体制を取った。

 ペロン星人は、これ以上貴重な人材を失いたくないゆえの行動だとしている。

 そのわりにやる事は無差別の一網打尽で、盗賊もゲリラも強盗も詐欺師もチンピラも痴漢も変態も、とりあえず検挙して地域の監獄に送り込む。

 囚人の大量生産を始めた。

 放り込んでは幾つか質問して、ピックアップした囚人を日本に連れてくる。

 どんな基準の人選かは全く不明だが、この繰り替えしで数千人が日本の収容施設に連れて来られた。

 共通しているのは一本筋が通った人間のようで、完成された変態や見境の無い凶悪犯は含まれていない。

 考えもしないで盗賊になったロクデナシもいない。

 無人に近くなった診療所周辺地域が、大がかりな収容施設になってきた。

 比類なき過疎地帯だ、囚人が大勢やって来たからとて抗議活動が起こったりはしない。

 人が増えたと喜ぶ者までいる。


 廃屋の学校を改築した刑務所らしき施設で、ペロン星人が彼等の再教育を始めた。

 話し合えば分かる人だけを連れて来たのか、説得の仕方が上手いのか催眠術なのか、危ない薬でも飲ませたか脳の手術をしたか。

 ペロン星人が貴重な人材と言った意味が、基礎体力造りと称したしたサバイバル訓練で分かった。

 並の体力・精神力の持ち主なら半日ともたない訓練に、連日耐え抜いている。

 彼等は本気で、この地球を救いたいと願っている。

 訓練中の彼等に悲壮感は無く、厳しくはあるが戦闘訓練とは違う。

 ひたすら体力をつけるだけの毎日だ。

 

 脱落者も無く屈強な精神と強靭な肉体の人格形成が完了すると、施設の周囲に張られていたバリアが解除された。

 彼等は囚人ではなくなった。

 ペロン星人の独断で捕えられ囚人となり、耐え難い訓練に耐え罪を償い解放された。

 集落から外への移動は制限されているが、範囲内なら行動は自由だ。

 自由の身にはなったが、シェルターからの援助は無い。

 彼等は徹底したサバイバル訓練を受けている。

 過酷な自給自足の生活に耐えられる者だけが生き延びられる。

 何も無い。

 零からの地域再生部隊の誕生だ。

 彼等が短期間で地域の生活基盤を整えていく。


 自然災害が治まって地域の復旧が進むと、一度は集落を捨てた人達が帰って来た。

 集落に住民が戻ってくると地域再生部隊は解散し、それぞれの母国に散っていた。

 彼等は組織のリーダー格だった重要人物ばかりだったらしい。

 帰った彼等には、母国で地域再生の同士を増やして行く任務があった。


 診療所の地下に創られたシェルターから、地上への物資補給が認められた。

 多くの避難所を見て来た俺が、怒りに任せて地下施設の連中に喚き散らした結果だ。

 代表だ総代だ組長だと持ち上げるだけ持ち上げておいて、いざと言う時に蚊帳の外では納得が行かない。

「俺がここで一番偉い人じゃなかったのかい」言ってしまった。

 これまで頑なに否定していた代表の肩書を、自分で認めて権限を行使してしまったのだ。

 やっちゃった状態で、この発言から決裁資料が毎日の様に届けられる。

 朱莉ちゃんが手伝ってくれなかったら、きっと俺は決済データーの重圧に耐えられなくて圧死している。

 朱莉ちゃんはどこで教わったのか、仕事が堂に入っている。

 診療所が暇な時は、あおい君も手伝ってくれる。

 彼女が今までやっていた仕事だ。

 手慣れたもので、表示された内容を見ているのかいないのか。

 俺が一時間かかっても理解出来ない報告書の内容に、可・不可の判断を一瞬で下してしまう。

 超能力を使っているのかもしれない。

 きっとそうだ、あおい君はズルをしている。

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