102 勢力予想ダービー
異星人からの攻撃が収まり、夜になって焚き火の前で遙とコーヒーを一緒する。
「さっきさ、ペロン星人の一人に聞いたんだけど、この異変て、君の実験で起きた異変じゃないみたいだよ」
自分の実験が異変を招いているのではないかと気にしている遙の、気持が和らぎそうな情報だったので教えてやる。
「どう言う事ですか」
「彼らとは別のタイプの異星人がさ、やってるらしいよ。長ーい地球生活でストレスたまっちゃったみたいだね」
「そんなー、勝手過ぎませんか、それって」
「勝手って言ってもねー、基本的に生物って勝手だから。君の実験で、奴等の計画より異常現象の規模、かーなり縮小してるみたいだよ」
「そういう問題じゃなくて、被害を最小限に食い止める必要があるんじゃないですか。私に心当たりがありますから、相談してみます」
「あの地球防衛軍みたいの、頼りないなー。僕なんかもう手配しちゃってるもんね。まあ枯れ木も山の賑わいって、そっちはそっちでやってみれば」
病院を出る時シロに会ったので、困った事態になったねと立ち話をしていた。
シロは「状況が詳しく分かれば、それなりに対応できると思います」と、看護師・薬剤師三姉妹を指して平然としていた。
噂によれば、長女のメイサは何でも石にしてしまう恐ろしい能力を持っている。
彼女の力を発揮すれば、何とかなりそうな気がしないでもない。
夜の戦闘が始まって三時間ばかりすると、事態が落ち着いてきた。
何が起きたのか未だに誰も分からない様子だが、俺の処にシロが来て、もうこれ以上被害が拡大する心配はないと報告してくれた。
タコ星人はメイサが片っ端から石にして、旦那である石屋が運んび、店に並べて売り飛ばす気でいる。
ほっと一息いれてテレビを見ると、逃げていたアナウンサーが帰って来て、いつものテレビになった。
隊員も医師も患者までも、勢力予想ダービーなる番組にクギヅケになっている。
まだテレビ画像のあちらこちらに、自由の戦士スタイルスタッフが残っているが、いたって平和的にニコヤカな番組放送になっている。
「はいはいはい、帰ってまいりました。今日も元気に天国へでお馴染み、超高速道路協会提供【ハイウェイトゥヘブン・村を制するのは誰だ】始まりましたよー。大本命の知的地球外生命体同盟がこけちゃってねー、大変な事になっいてますけど、片田舎村征服レース。先が見えなくなってまいりましたー」
地球の一大事を賭け事の対象にするとは、ブックメーカーよりも逞しい博徒魂だ。
これはもう俺がどうこう言える段階ではない。
一つ張ってみるか。
局地的な異星人侵略の大事件はそっちのけで、世界の情勢は災害の頻発から切迫した事態が続いている。
世界中に展開するテロ組織は、自称【人民解放軍】だが、徒党を組んで一般人から略奪するまでに統制が乱れてくると、もはや人民の敵だ。
取り締まっている政府軍もまた、一般人と反体制勢力の見分けが出来ないまま、罪の無い人まで捕えて拘束している。
拘束された者達はやがて政府に不信感を抱き、反体制側へと傾いてゆく。
正に、過激派エネが書いたシナリオで演じさせられている人達だ。
彼等は総て仕組まれている事に気付く為の判断力を失い、自然の猛威に不安を掻き立てられ逃げ惑っている。
物不足で不自由な生活の不満が、世界のいたる所に満ち溢れているのに、むやみやたら逮捕して権力を誇示し過ぎた政府軍は、多くの人民から反感を買っている。
それでも、彼等がいなくなっては、それこそ世界に秩序がなくなる。
略奪した物資の再配給で、同志を引き付けている人民解放軍も正義の味方を謳っている。
どっちもどっちの攻防だが、人民解放軍のバックには過激派エネがついている事を考えれば、粛清しなければならない勢力は決まっている。
しかし、彼等には高い志があり、正義と信じて命がけの戦いに挑んでいる。
これ程まで人類を思っている人達を、無差別に撃破してしまっていいのだろうかとも思う。
人間同士の戦いとなれば、やる事は殺し合いだ。
どちらも弱者の為にと戦っているのに、今更正義も悪も無い。
誰もが自分こそ正義だと信じて戦っている。
悪いのは、この純粋な人達を操っている奴なのに。
テロの鎮圧に、ペロン星人と各国の警察機構が協力体制を取った。
ペロン星人は、これ以上貴重な人材を失いたくないゆえの行動だとしている。
そのわりにやる事は無差別の一網打尽で、盗賊もゲリラも強盗も詐欺師もチンピラも痴漢も変態も、とりあえず検挙して地域の監獄に送り込む。
囚人の大量生産を始めた。
放り込んでは幾つか質問して、ピックアップした囚人を日本に連れてくる。
どんな基準の人選かは全く不明だが、この繰り替えしで数千人が日本の収容施設に連れて来られた。
共通しているのは一本筋が通った人間のようで、完成された変態や見境の無い凶悪犯は含まれていない。
考えもしないで盗賊になったロクデナシもいない。
無人に近くなった診療所周辺地域が、大がかりな収容施設になってきた。
比類なき過疎地帯だ、囚人が大勢やって来たからとて抗議活動が起こったりはしない。
人が増えたと喜ぶ者までいる。
廃屋の学校を改築した刑務所らしき施設で、ペロン星人が彼等の再教育を始めた。
話し合えば分かる人だけを連れて来たのか、説得の仕方が上手いのか催眠術なのか、危ない薬でも飲ませたか脳の手術をしたか。
ペロン星人が貴重な人材と言った意味が、基礎体力造りと称したしたサバイバル訓練で分かった。
並の体力・精神力の持ち主なら半日ともたない訓練に、連日耐え抜いている。
彼等は本気で、この地球を救いたいと願っている。
訓練中の彼等に悲壮感は無く、厳しくはあるが戦闘訓練とは違う。
ひたすら体力をつけるだけの毎日だ。
脱落者も無く屈強な精神と強靭な肉体の人格形成が完了すると、施設の周囲に張られていたバリアが解除された。
彼等は囚人ではなくなった。
ペロン星人の独断で捕えられ囚人となり、耐え難い訓練に耐え罪を償い解放された。
集落から外への移動は制限されているが、範囲内なら行動は自由だ。
自由の身にはなったが、シェルターからの援助は無い。
彼等は徹底したサバイバル訓練を受けている。
過酷な自給自足の生活に耐えられる者だけが生き延びられる。
何も無い。
零からの地域再生部隊の誕生だ。
彼等が短期間で地域の生活基盤を整えていく。
自然災害が治まって地域の復旧が進むと、一度は集落を捨てた人達が帰って来た。
集落に住民が戻ってくると地域再生部隊は解散し、それぞれの母国に散っていた。
彼等は組織のリーダー格だった重要人物ばかりだったらしい。
帰った彼等には、母国で地域再生の同士を増やして行く任務があった。
診療所の地下に創られたシェルターから、地上への物資補給が認められた。
多くの避難所を見て来た俺が、怒りに任せて地下施設の連中に喚き散らした結果だ。
代表だ総代だ組長だと持ち上げるだけ持ち上げておいて、いざと言う時に蚊帳の外では納得が行かない。
「俺がここで一番偉い人じゃなかったのかい」言ってしまった。
これまで頑なに否定していた代表の肩書を、自分で認めて権限を行使してしまったのだ。
やっちゃった状態で、この発言から決裁資料が毎日の様に届けられる。
朱莉ちゃんが手伝ってくれなかったら、きっと俺は決済データーの重圧に耐えられなくて圧死している。
朱莉ちゃんはどこで教わったのか、仕事が堂に入っている。
診療所が暇な時は、あおい君も手伝ってくれる。
彼女が今までやっていた仕事だ。
手慣れたもので、表示された内容を見ているのかいないのか。
俺が一時間かかっても理解出来ない報告書の内容に、可・不可の判断を一瞬で下してしまう。
超能力を使っているのかもしれない。
きっとそうだ、あおい君はズルをしている。