101 戦場は未知との遭遇でいっぱい
そんなこんなとしていると、公園で【暴徒鎮圧平和維持軍結成記念式典会場兼作戦会議室】成る立て看板を設置している。
今頃会議室を作ったからと、どうなるものでもないだろうに、暇人もいたものだ。
設置が終わると、要所ゝに展開していた部隊の長が集まり会議が始まった。
俺も医師団の代表として呼ばれたが、特別参加したい会議でもない。
隅っこの方で、ビールを飲みながら話しだけ聞いてやった。
現場を視察してきたシロが意見を言う。
「暴動なのかなー、パニックの方が正解かな。元々凶暴な奴が多い地域だったからな、そこらじゅうで喧嘩してるし、どいつが何の為に暴れてるのか訳わかんないよ、行ったってしょーがないと思うけど」
投げやりだが冷静な見方で、途中動員された北山が拳銃を磨きながら「暴動の理由がわかんねえよ。正義の戦いってやつか祭の続きかもしんねえべ、この村の場合はよ。だもん、片っ端からぶちのめすって作戦はいかんべ、まずは話聞いてやんねえと」
ついさっきまで自分がやっていた事と、真反対の意見を平然と言っている。
最も性質の悪いタイプだ。
遙はいつでもはっきりしている。
「何が正義よ、嫌な奴は悪なの。正義の理由なんて後からどうにでもなるの。勝った方が正義。これ世界の常識でしょ」
この極論に対して、南部は少しだけ慎重になる。
「でもよー、それって正義イコール力って理論だろ。ものは言いようで、営利誘拐は募金活動だし、抗議集会は暴動とも言うだろ。それじゃどっか国と同じじゃないかい」
「そのならず者国家が世界を仕切ってるの。そのルールに従ったら問題でもあるっての。あんた、テロ」
ボディーガードとガードされている者の口論で、険悪な雰囲気になった所へ、有朋組の若い衆が飛び込んできた。
「組長どこに行ったか知りませんか」即刻放り出された。
会議の席には、現場を写し出す大型画面が設置されていて、科学的に説明不可能な生物がウロチョロしている。
この異常現象に、会場の誰も気付かない。
この異変を見過す盆暗ばかりが集まった会議室で、いかん現象の象徴的画面を見ていても何の解決にもならない。
最前線に飛んで、もっと詳しく現場の状況を知るべきだと考えていると、紛れ込んでいたアインがすっくと立ち上がった。
猫が二足歩行している。
実に珍しい眺めなのに、俺しか見ていないのが残念だ。
遙が俺を呼ぶと「最前線の情報はこれで見られます」小型モニターを渡された。
「これより現地の状況を報告する」
アインが自撮りしながらしゃべっている。
異常に早い移動だ。
もっと凄いのは、話す猫……それも日本語で……どんな事件よりも重大な出来事に思っているのは俺だけか。
これが現代の普通なのか。
俺が科学の進歩についていけていないだけか。
他の者は平然と同じ画面を見ている。
俺だけブッ魂消ているのも妙な絵図になってしまう。
とりあえず、黙っていてやろう。
しかし、画面のこれは暴動などという生易しい状況ではない。
激しい局地戦の真っ只中だ。
そんな中でも、逃走中の有朋だけは簡単に見つかる。
何処にいても目立つ奴だ。
その隣りでギクシャク走り回っているのは、今まで一度も話題に上った事のない見慣れぬ生物。
漫画に出て来る異星人のようだ。
未知との遭遇に気付くまで時間はかからなかった。
有朋が組から持ち出した日本刀を振り回す。
「てめえら人間じゃねえ、たたっ……タコみてえだな」
どう見てもタコだが、この場合は謎の地球外知的生命体とするのが正しい見方だ。
少し先では、さっきまで隣にいた南部と遙が、素早く最前線へ出張って行ったまでは良いが、異星人の攻撃を避け蛸壺に避難している。
「プランHに変更」
南部が辺り一帯に聞こえる大声で指示するが、二人しかいない。
「プランどこまであんの」遙の疑問は当然だ。
「Wまで」
こう言っているが、逃げるしか手立てがないのは傍から見ていても分かる。
どっちに向かうかでプランが変わっているらしい。
二人が異星人の攻撃から逃げて走る。
一旦停止して、バズーカを敵に打ち込む。
四方八方から聞こえる爆発音。
アインが乗った逃飛物体と一緒になって、南部と遙が走っている。
「乗せろー‼」と騒いでいるようにも見えなくはない。
暫くして、二人が怪我をしているとかで、俺の所属している野戦病院までアインの飛行艇に便乗してきた。
しかし、猫が飛行艇を操縦している姿を見て、ここの連中は誰も騒がない。
やはり、現代科学はここまで進歩していた。
俺は今までしっかり、文明科学から取り残された生活をしていたらしい。
「これって普通?」クロに聞く。
「未来科研ではもっとすんごい事になってますよ」コソッと教えてくれる。
治療をしながら「鉄っちゃん、隊長が会いたがっていたよー」隊長からの伝言を伝えていると、いきなり上空からレーザー砲の照射を受けた。
ルール無用のタコ似異星人が絡んでくると、病院も安全ではない。
逃げながら話だけは続けてやる。
「で、さっきの話だけど、家柄に問題でも」
うちの家系が幾分危ないとか何とか訳の分からない事を言うもので、聞き直しついでにクロを突っついてみる。
「家柄じゃないです、悪魔だったら魔力を使ってあんなのやっつけちまえって言ったんです」
悪魔とは俺の事か。
自分が疫病神ではなかめろうかとは以前から薄々感じていたが、悪魔ではないだろう。
「神にマージャンで負けちゃうんだよー。あんな化け物に喧嘩で勝てる訳ないでしょー」
俺は今、私生活と失神している時の状態がごっちゃになって混乱しているらしい。
酷く危険な状態な発言をしている気がしてならない。
だが、これ以上悪化する要素が見当らないのは何故だろう。
「最近なんか仕入れてないですか」
「そーねー、戦車買っちゃったかなー」
金の使い道がなくなって、つい勧められるままに戦車を買ってしまったのまで知られている。
「君は最近入庫が無いよねー」
「死んでたもんで、すいません。何で戦車出動しないんですか」
「えー、まだ新品だよー。払い下げじゃないんだよー。TK-Xだよー」
新品は非常事態に遭遇するまで綺麗に飾っておきたい。
逃げ隠れバタバタやっているうち、一回りして野戦病院に戻にってきた。
治療テントに、昭和会の爺婆が招待したマスティマ・ベリアル・ベルゼブブ・アザゼルがやってきた。
治癒能力があるので呼ばれている。
他にも同じ能力を持った人が、大勢集まっている。
医療テントに準備された弁当を、人数分と言いながら大量に持ち出しているが、本当にそんなに来ているのかは不明だ。
戦場を走って来た俺の白衣はボロボロで、戦闘経験豊富な南部と遙も治療を手伝っている。
「来てくれたー、ありがたいねー。久ぶりだねー、心臓の無い天使達ー」
元はぺロン星人だから心臓も肺もなく、特に治癒能力を持った者を、天使と呼んでいると聞いた。
男の代表はむさ苦しいのでよけて、女性の方にハグで感謝の気持を伝えてみた。
「元は私達の力不足から起ってしまった事、できるだけの協力はさせていただきます」
「いやー、本当に助かります」
どういった力不足かは気にしないとして、とりあえずハグできたのは喜ばしい事だ。
あちこちで手術が行われている。
あおい君が多臓器不全だった子供の頃、震災で脳死状態になった母親からの臓器移植を受けた事を思い出したか、ボーとしている。
「先生、こんな場面……」ボソッとあおい君が問い掛ける。
「君の記憶は確かだねー」
俺の記憶はたいしてあてにならないが、きっと辛い想い出として蘇っているのだろう。
「臓器密売」
「違うでしょー。君の移植手術でしょうにー」
あおい君の記憶もかなり劣化している。
この際だから御互い過去の事はすっかり忘れ、一から出直した方がよさそうだ。
「麻酔きいてましたから」
「俺が執刀したのよ。大変だったんだから、これより酷かったよね、あの時は、たぶんそうだったって聞いたから」
手術が終わって痛みを訴える患者に、天使が痛み止めの治療をしている。
「あの人達みたいな能力者はね、ずっと昔から世界中に住んでいたんだよねー」
「先生もそうなんですか」
自身も能力者であるあおい君が、以外な質問をする。
「俺はただの医者だよ、特別な能力なんてないよー」
「でも、天才って言われていましたよね」
「運が良かっただけだよ。天才なんていないよ。失敗もするし、んー、しょっちゅうね……悪魔に取り付かれなかったから患者を治せた、それだけだよー」
たぶんそうだと思う。
自信はない。