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雲枕  作者: 葱と落花生
100/158

100 秩序が無いのを除けば平和な光景

 村を破壊していると言うが、祭で秩序が無いのを除けば、世界の異常事態に比べると平和な光景が広がっている。

 と、思っていた矢先「有朋さんが指名手配されました」研究所の職員が遙に知らせる。

 何をやったら生死を問わない手配が回る。

 やっちゃんの時が冤罪だった。

 今度もできればそうあって欲しいと願ってはみるが、奴は根っからマフィア。

 指名手配は重罪を侵しての事だ。

 心配と確信と期待が入り混じった心境に浸っていると、外の気象状態が急激に変化してきてた。

 地震の後に雷が四方八方に落ちて火災が発生し、この影響で小規模の竜巻まで発生している。

 こんな中で警察から逃げ回っている有朋さん、御苦労さん。

 一言労ってやりたい気分になってきた。

 しかし、雷を伴った豪雨が洪水を引き起こしている時に、出かけるのはひかえた方が命のためだ。

 これが、遙の騒いでいる異常なら、とんでもない事を仕出かしてくれたものだ。

 どんな科学力を駆使したら、自然をこれほど変えられるのだろう。

 一時間もすると、地上は更なる危機的状況になり、診療所の皆も地下に避難してきた。

 急激な気象変化に、外の連中も避難した様子で、銃声の響かない夜が戻ってきた。


 雨風が落ち着きを見せると、こりずにまたもやそこら中で小競り合いが始まった。

 被災したばかりで、戦闘地域にも野営医療テントが設営されている。

 被災者ばかりではなく、地下シェルターを探っていたゲリラとの戦闘で倒れた者も担ぎ込まれてくる。

 救助チームと協力して、救護にあたる医師として参加しているが、次々搬送される患者に右往左往するばかりだ。

 皆の邪魔をしているのではなかろうか、ここは黙って見学していた方がよろしいのではと思っていると「先生お久しぶりです」声を掛ける者がある。

 港屋が噴火被災の救護所になった時、救護隊の隊長だった自衛官が敬礼をしている。

 もはや国家が国としての体裁をとれていないから、彼等が誰の命令でここに来ているのかは不明だ。

 隊の若い連中と一緒になって、闇カジノで大負けしていたのを覚えている。


「ああ、隊長さん。震災いらいですかねー。あの時はどおもお世話さんでした」

「いえ、噴火以来です。こちらこそ、コレクションまで見せていただきまして」

 言われて見れば、有朋と共有している地下シェルターを見せてやった時、組の銃火器コレクションを俺のだと勘違いして偉く感激していた。

 あれこれ説明するのも面倒だ。

 ここは体面として、秘密のコレクションだとしておけばいいだろう。

「内緒ですよ。黒岩さんのも増えましたよ」

 クロは未来科研勤務になってから、バズーカから重機関銃に戦車まで持っていると噂されている。

「南部さんがこの村に住んでいると聞いたのですが、ご存知ありませんか」

 この隊長は、随分とマニアックな事まで知っている。

 南部と言えば卑弥呼の弟。

 今は偽名の南部鉄瓶を名乗り、遙のボディーガードをしている。

 こいつの銃火器コレクションも凄いとの評判で、一度だけ未来科研に展示されているのを見た事がある。


「遙んとこの鉄っちゃんかな? 最近越して来てさー、彼のコレクションも凄いよねー」

「やはりこちらでしたか、一度お会いしたいです。我々の間では伝説のスナイパーですから」

 幼かった時の境遇が不憫だったから責められるものではないが、恐ろしい家系としか言いようがない。

 長閑に会話している最中。

 自衛隊員が駆け込んできて敬礼をする。

「報告します。南部地域で暴動発生。救助隊員が入れない状態であります」

 戦争でも、決め事を作ってやっている時代だ。

 暴動と言えども、救急隊員の出入りくらいは自由にしてやってほしい。

「どんな暴動になっているのかな、俺の知り合いも出張ってるんだけど」

 救助チームがキャンプをしている地域の様子を聞いてみる。

「キャンプ前の屋台で、有朋と組員が色々売り歩いていました」

 商魂逞しく売り声を張り上げていて、組員総出の客引きをしている。

 売っているのが困った奴だから、売られている物もいかん物が多い。

 売り声は「漢方草入り焼きそばいかがっすかー」だったようだ。


 のんびりした地域ならば漢方薬も売れようが、ここまで状況が悪化した戦場では、漢方より鎮痛剤とかコーラの方が良く売れそうだ。

 それ以前に、この手の薬は救護所に大量保管されていて、騒ぎに紛れて管理がずさんになっている。

 わざわざ買わなくとも、入手が容易だ。

 子分もいかん物を売っているらしく「蕎麦いかがっすかー、薬味には薬草が乗ってマース」張り上げる声を嗄らしていたとか……。

 好きなら何でも薬味にしていいが、薬草は毒をもった物が多い。

 それは売ってはいかんのだよ、子分君。

「タバコいかがっすかー、ニコチンゼロ、タールゼロ、松脂たっぷりの五葉松タバコいかがっすかー」

 いつか骨折した腕が治っていないのに、脱走同然に退院した若いのまで参加しているとか。

 鎮痛剤と松脂煙草の影響で治ったと勘違いしているようだ。

 今更こんなせこい商売をしなくても、十分御宝は持っているだろう。

 勤勉な奴等だ。

 しかし、あいつ等は商売物を何処から仕入れている。

 こんな御時世に、危なっかしい物を作っているのは、知る限り第三病院の屋上しかない。

 確認の為、管理責任者に聞いてみた。


「ああ、俺よ。俺が卸してやってるやつよ」

 やはりそうだった。

 山城親分の頼みとあって、断るに断れなかった証人保護プログラム第一号が、よりによって山の温泉で一緒になった霊だった。

 日本に帰って来る時に、名前を変えたまではよくある話しだ。

 よりによって源義経などと、恐ろしく目立つ名前にしていた。

 あそこまでいくと、人生を九割方捨てているとしか思えない。

 今回は、どうせ出来ても緊急指名手配と射殺命令が出されている有朋の死体だけ。

 特に事を慌だてる必要もないだろう。

 それよりも、地下病院と野戦病院に皆して出張ってしまったので、地上の病院がどうなっていねのか気になるところだ。

 第三病院の敷地内には、証人保護プログラム用のアパートがあって、逃げ出す前に義経はここに住んでいた。

 監視カメラの映像では、屋上ハウスのガラスは割れ、二重ハウスになった中側は風でちぎれたビニールがバタついている。

 まだ育つであろう薬用植物が、わんさか植わっている。

 きっとこの中から、手頃なのを採って卸しているのだが、黒岩が葉っぱをちぎって騒いでいる。


「ここで畑仕事始めちゃったの、君?」

 聞かずとも、既にめぼしはつけているだろ。

 ちょいと横を見れば、御間抜けにも義経が捕まっている。

 何時でもいい加減に生きているからそんな事になる。

「いよいよ保護する価値ねえべ、この野郎」

 北山が義経を引き回し、拳銃を頭に突きつけ怒っている。

「お馬鹿でも。元マトリで現役やくざの上に、マフィア犯罪の証人になるなんて奴は絶滅危惧種ですよ。撃っちゃったらまずいでしょ」

 こう言いながら、クロはバッテリーコードで電気火花を飛ばしている。

 これは明らかに拷問である。

 この様にして得た証言は、裁判のさいに証拠としては無効となる。

 とりあえず、録画だけはしっかり保存しておいてやろう。

「でも、主犯は吐いてもらわないとね。僕ちゃん」

 サイボーグになってから、クロは魂まで失ったゾンビになってしまった。

「おめえ、拷問して吐かせたって証拠になんねえぞ」

 まだ北山の方が刑事らしい思慮を残している。

「報告する気ないですから」

 容赦なく、義経の乳首に電極を当てて喜ぶクロ。

 それを、たまたま屋上へ遊びに来た子供が見ていた。

「うらガキャー、見てんじゃねえ。この場面はR指定だべ」

 すっかりR指定だが、怒りながら加担している。

 北山……その手に持った電極の説明をしてみろ。

 拷問の途中、二人に呼び出しが掛かった。

 救助隊が入れない南部地域への応援要請。

 これは、俺が遙に屋上の様子を見せて、急遽取ってもらった拷問回避措置だ。

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