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理想の聖女

 乃愛がベルを鳴らすとメイドが2人やってきた。


「とりあえず、お水が欲しいんだけどお願いできる?」


 乃愛は、真顔でメイドに告げる。

 メイド2人はアレクサンダーが部屋の中にいる事に驚いた。


「ねぇ、聞いてる?」

 乃愛が少し眉を顰めて再度告げた。

 するとメイドはハッと顔を強張らせて頭を下げた。


「承知いたしました。聖女様っ」

「聖女様っ、あのお食事をご用意してもよろしいですか?」


 乃愛はハァとため息をつき前髪を掻き上げた。


「あー、なんか軽くていいわ。ご飯の前にシャワー入りたい‥」

「しょっ‥承知しました。準備して参ります。」

「お願いします。」


 メイドの方は見ずに乃愛はベッドにポスっと腰掛けた。

 アレクサンダーはぼーっとしたまま乃愛を見ていた。


 メイド達は頬を染めていそいそと出ていった。

 パタンと扉が閉じた音でアレクサンダーは正気になる。



「あっ‥‥俺とした事がっ‥‥」

 アレクサンダーは片目を覆った。

 膝から崩れ落ちそうだった。


 今のメイド達から、きっとこの事はたくさんの人達に知られる事だろう。


「なんでそんな顔してるの?」

「何故って・・・私の軽率な行動で・・・この聖女様と私の護衛任務は伏せられているのに・・・」

「別にやましいことした訳じゃないのに。そんなの気にするんだ。」


「なっ‥‥当たり前です!あなたはこの国の尊き聖女様でっ‥‥」

「だから何?聖女と護衛が朝一緒にいちゃダメなの?訳わかんない。伏せなければいいことじゃない。

 知られたら一斉攻撃でも受けるわけ?どうせ知られるのに。気にするだけ無駄だわ。」



 気怠げに乃愛は返事をした。



「聖女様っ‥‥」

「あんまりしつこいと追い出すわよ。シャワー入ったらご飯食べるから、アレクサも食べよう。」


 アレクサンダーは、先程の表情と一変させた。

「とんでもございません。私はお側に控えております。」

「‥あそ、別にいいけど‥」



 乃愛は、アレクサンダーの返答に涼しい顔で返事をした。特にどちらでも良かっただけだ。

 そうこうしているうちに、メイドは水差しとグラスを持ってきた。


「先程、アルフレッド王太子殿下がいらしておりました。聖女様に朝のご挨拶をと。お取次してもよろしいですか?」


「シャワーもご飯も終わったらにして。寝起きにくるなんて冗談じゃないわ。」

「は、ではその様に‥‥。」

「あなたも下がってて、意味のなくそばに居られるの落ち着かないの。」

「いえ、私は護衛で御座います故‥‥」

「ぁぁ‥‥‥もう‥‥‥1人にもなれない‥‥。」

 綺麗な表情を歪ませて乃愛は水を一気に飲み干した。



「‥‥私がそばに居るのは、不快ですか?」


 アレクサンダーは、少しばかり悲し気に言う。だが、乃愛は何も気にしていなかった。


「会ってすぐの人と四六時中一緒にいるのって疲れるでしょ。恋人だって疲れるのに。」

 その言葉にアレクサンダーは驚き目を見開いた。


「!!‥‥聖女様‥‥には、心を寄せる方が‥‥?」


「前のことだから。だから経験談よ。彼氏でも疲れるんだから、昨日会った人とずっとなんて無理よ。せめてしばらく1人になる時間が欲しいのよ‥」



 長い髪を靡かせて乃愛は、入浴支度をして戻ってきたメイドとバスルームへと消えた。


 呆然としたアレクサンダーは、バスルームの扉の前に立った。護衛対象に対する行動は思考回路が止まっていてもその体は動く。




 ‥‥聖女様には、恋人がいらっしゃったのか?‥‥



 だが前のことだと言った‥‥



 では、今は‥‥‥




 でも、聖女様にも、心を寄せ合う人がいたのだ。





 聖女様の世界は、一体どんな世界なのだろう。






 アルフレッドに声が掛かったのは随分と後のことだった。

 乃愛の部屋にやってきたアルフレッドは顰めた顔だ。その顔を乃愛に向けていた。

 乃愛の後ろではアレクサンダーが目を伏せて控えている。



「・・・ノア、おはよう。」

「おはよう。アル。」


「・・・まあ、朝の挨拶をするには随分と遅いがな。」

「朝の挨拶が出来なかったからってそんなしかめっ面であたしの前に?」

「いいや。」

「だったらなんなの。苛つくわね。」


 とうとう乃愛はアルフレッドから目を逸らし脚を組んだ。


「ノア、仕立て屋にいくつかドレスを用意させたはずだが?」


「・・・・・・・」

 乃愛は黙った。

「君は、なぜその服を着ているんだ?」

「これ、あたしの服よ。なんの文句なの?聖女は着る服まで文句を付けられるのね。」


 乃愛が着ているのはセーラー服だ。シャワーを浴びた後、メイド達が沢山のドレスをもってやってきたが、乃愛は何の迷いもなく制服に袖を通した。

 短いスカートの裾から細い素足を見てメイド達がどよめいていた。



「ノア、この世界を好きになれないと言ったな。だが、当てつけのようにその服を着ることないだろ。」

「・・・当てつけじゃないわ。あたしの意思よ。どうせ仕立てるならこの制服を仕立ててくれたら着るわ。」


「ノア!」

「あたしは、あたしが着たいと思うものを着るわ。あたしが気に入ったものだけよ。

 あなたに指図される覚えはないわ。気に入らないならあたしを追い出せばいいのよ。」


 乃愛は鋭くアルフレッドを睨みつけた。

 乃愛の言葉にアルフレッドも更に顔を顰めることとなる。


「昨日きたばかりの君がこの世界でどうやって生きる?君は聖女だ。王族で守るべき存在だ。」

「だったら服ごときで口出ししないでよ!だからあんたは嫌いなのよ。」


「きっ・・・きらっ・・・・。」

 その言葉にさすがにアルフレッドは怯んだ。

 嫌いだという言葉を向けられたことなど一度もない。


 昨日も散々言われたが、どうして彼女はこの待遇に文句ばかり言うのだろう。

 食事も、高級な服も、部屋も用意し愛称まで許した。


 乃愛はアルフレッドに背を向け、嫌気がさしながらアルフレッドを横目に見た。


「・・・もう帰ってくれない?」


「・・・いや、この後の話をしなければならない。その前に一つ確認したいのだが。

 アレクサンダー・ロビアン。」

「ハ、殿下・・・・。」


 アレクサンダーは少し腰を折り頭を下げた。



「そなた、聖女ノアの部屋を無断で開け、ノアの体に触れそれをメイド達に見られたのか?」

「・・・へ?」

「は?」


 アレクサンダーと乃愛は目を見開いた。

 アルフレッドは頬を染めて二人を睨みつけた。


「先ほどビリーから報告を受けたぞ!聖女の部屋に騎士が居て二人はとても親密そうにしていた。とな・・・いつからだ?俺が来た時は扉の前にいたよな?アレクサンダー・ロビアン、メイドが入る前にノアの部屋にいたのか?正直に言え。」


「・・・・殿下!!私が部屋に入ったのは殿下が挨拶にいらしたすぐ後のことで!扉を開け入ってしまったのは事実ですが!その身体に触れるなど!!」


「誠か?」

「殿下に嘘など申しません!!!」


「ノア、事実か?」

 アルフレッドは乃愛に向き合った。



「・・・事実だけど、なに?今だってこうして一緒にいるじゃない。あんたが寄こしたのよ?」

「あっ・・またあんたってっ・・・部屋で男女が二人になるなんて言語道断なんだからな!?」

「・・・・なんの心配なの?意味不なんだけど。」


 長い髪をクルリと指に巻いて、さして興味なく返答した。


「報告が誤りなら・・・それでいい・・・。」

 そうつぶやき、アルフレッドは肩の力を抜き、表情をやわらげた。


「これからの、ノアの予定だが、二日後に神殿でお披露目式を執り行う。

 ノアの力を証明する儀式だ。ノアの力がどんなものか君自身もわかるはずだよ。」


「・・・力・・・・ねぇ・・・・。」



 本当に興味ないと言いたげに、乃愛は小さくつぶやいた。



「・・・君の着る物に・・・文句は、まぁ・・・言わない、ようにするけど・・・


 儀式の日は、聖女の装束を着てもらうよ。それは絶対だから。」


 アルフレッドの真剣な瞳が乃愛に向けられる。

 だが、乃愛は目を伏せて長い髪を背に払った。


「お披露目の儀式って、誰がくるの?」

「我々王族と、貴族達、そして執り行う神殿の者達がそれを見届ける。」

「あたしが聖女の力を発揮出来なかったら?」

「いいや、俺が召喚した。君が聖女である事は揺るぎない事実。歴代の聖女はそれぞれ力は違えど、

 どれもこの国を守る為の力が宿っている。


 君にどんな力があるかは、儀式でわかるだろう。」


「‥‥あたしには何も無いわよ‥‥バッくれたい‥‥」

 頬杖をついて乃愛は面倒くさそうにため息をつく。

「ば‥?」

「はぁ‥‥伝わらない‥‥」



 乃愛は、席を立ち大股で勢いよく歩き、窓の扉を開けた。



 暖かな春風が、窓の外から流れ込んでくる。


 その春風が、乃愛の髪を優しく撫でた。

「・・・・・・」


 その優しい風を、乃愛は睨みつけた。




「Screw you!!!!!!」



 大声で叫んだ。腹の底から出た。

 その大声にアルフレッドとアレクサンダーは目を丸くした。


 何を言ったのかはわからない。だがそれは怒り言葉だったはずだ。



 ハァッっと息を吐いた乃愛は、そのあとは何もしゃべらずにサイドテーブルの椅子に腰かけ窓の外を見続けた。


 どうしたらいいか分からなくなった二人は、黙って乃愛を見ていた。




 この聖女はとても扱いに困る。普通の令嬢がこんなに大声を出すところも見たこともない。

 アレクサンダーのことに怒り人情深い部分もあるかと思いきや、はっきりと自分の意見を言う。

 というか押し通す。何にも染まりたくないその頑なさ。冷たい視線。



 氷のように冷たい聖女だ。




 慎ましい淑女しか見たことない二人。

 誰が彼女の心を溶かせるだろう。




 しばらくして、ビリーがアルフレッドを迎えに来た。ビリーの姿を見て、アルフレッドは戻る時間だと悟った。そして勇気を振り絞り控えめにアルフレッドは乃愛に話しかけた。

「・・・の、ノア」



「・・・・・・・・・」


 黙って外を眺めている乃愛。扉の外で無視されたアルフレッドを見てビリーは眉をピクリとさせた。


「・・・ノア?」

 情けない声で再度アルフレッドは声をかけた。

「・・・・・・・・」


 ビリーは顔を顰めた。

 王太子であるアルフレッドが彼女の機嫌を伺うようにオドオドと声をかける姿。

 気まずそうにそこに控えているアレクサンダー。


 王太子と、男爵位とは言え王国一を謡う騎士を無視する。



「失礼ながら、よろしいでしょうか。」

 ビリーは冷淡な声でその身を部屋に入れた。コホンッと咳払いを一つして口を開く。


「聖女様、いくら聖女様とは言えこの王国の王太子の言葉を無視なさるなど言語道断。

 あなた様の態度によっては、いくら聖女様と言えどすべてが許されるわけではありません。

 あなた様が傲慢な態度を王太子殿下になさるのは、私は見過ごせません。」

「おいビリー・・・。」

 アルフレッドは気まずそうにビリーを見た。


「あなたの目の前にいるのはこの国の王太子殿下です。この態度を見る限り、心を閉ざしているという表現に当てはまらないのでは?

 そんなお可愛らしいものには思えませんが?」

 ビリーが乃愛のそれでも動かぬ姿を睨みつける。


 一筋縄ではいかないとアルフレッドは言っていた。

 確かにそうだったから、今こんなことになっており、自分の主はこの聖女の機嫌を取るような声を出しているのだろう。


 聖女と呼ばれ、傲慢になっているのだろう。


 ビリーの乃愛の印象は最悪なものとなった。



 その時だった。







 聖女は頭だけで振り返り、ビリーを見た。



「誰が入って良いって言ったのよ。」

「!!!!!!」



 乃愛の禍々しい雰囲気と声がビリーを凍り付かせた。



 散々言ったはずなのに、部屋に足を踏み入れたこと自体を言われるとは。

 そう言われたらビリーは黙るしかなかった。




 アルフレッドはため息をついて髪をガシガシと掻いた。



「ビリー‥‥」


 アルフレッドの横でビリーがわなわなと震え出した。

 言い返せない。ここは乃愛の部屋だ。



 延々と言った言葉もかき消すほど。


 その一言だけで、乃愛はまた外に目線を向けた。

 ハァっとアルフレッドはため息をついた。


「私はこれで失礼する。2日後の儀式は10時からだ。あと、アレクサンダーと部屋で2人きりになるのはダメだ。」



 乃愛はアルフレッドを見ない。

 アルフレッドはしゅんと肩を落とした。だが・・・その後ろ姿から少し寂し気な声色が届けられた。


「そうしてほしいなら、アレクサは外に出して・・・

 あたしは1人になりたいの。予めそうしたなら、あなたの禁止事項も要らないわ。あなたがここに連れてきたのだから。部屋くらい・・・・自由にさせてよ。」


 アレクサンダーは、乃愛を見て眉を下げた。


「‥‥わかった。必要な時はメイドを呼んでくれ。あと何かあれば外のアレクサンダーに。」

「ありがとう。」


 乃愛が振り返る事は無かったが、礼を口にした。

 アルフレッドは名残惜しくもビリーを連れて部屋を後にした。



「では、私も部屋の外で待機しております。」

 アレクサンダーも部屋から出た。



 扉が閉まり、3人がぼーっと床を一点見つめで黙り込む。



「‥‥‥あれが‥‥聖女だと?」


 先に口を開いたのはビリーだった。

「ビリー、一筋縄ではいかないと言っただろ‥‥火に油を注ぐような事を言って‥‥」


「なっ‥‥私は!王太子殿下への態度が!」

「わかってる!だが、彼女はこの世界の人ではないのだ!」

「なんて人だっ・・・聖女とは・・・」


 ビリーは小さく舌打ちした。聖女とはもっと心美しい人間ではないのか?

 こんな相手と目も合わせずに返事をするような、人の言葉を無視するような人間が聖女?



 沢山ある書物の中の聖女は、神々しい姿で心美しい優しい女性。

 そのような女性が聖女と呼ばれるに相応しいのではないのか?


 ビリーの想像していた聖女はいなかった。


読んでくださりありがとうございました。

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