聖なる部屋で朝食を
「がっ……」
その目に映った光景になんとも言えない声が飛び出た。
「うぉっほっ……」
食べた物が飛び出そうになって慌てて口を閉じた。
開かれた聖女の自室、アルフレッドは目を見開いて空いた口角がピクピク動いた。
なぜ、なぜ、なぜ、
「あ、おはようアル、早いわね。」
チラリと横まで見た乃愛は、大好きなマスカットを口に入れた。
「これはっ、、、どう言う事だっ……ぉおぃ!!ロビアン卿!!!!!」
呼ばれてアレクサンダーは即座にその席から立ち上がった。
「ハッ!!殿下!!っ…おっ、っ…おはっ…ごほっっ、、おはようございますっっ!!!」
畏まって腰を折るアレクサンダー。
乃愛はまるで気にもせず、マスカットをもぐもぐしながらそのおかしな光景を見ていた。
「おい……恐れ多くもっ…聖女とっ……」
「あのっ…これはっですね……殿下…っ」
アレクサンダーの額に汗が吹き出す。
「あたしが誘ったのよ、あんたも食べる?」
マスカットを更にもう一個口に入れてまたもぐもぐ。
アルフレッドは乃愛を軽く睨みつけるように見た。
乃愛は相変わらずこの世界に来た時の制服に袖を通している。
乃愛の着る物はたくさん用意したはずだった。
にも関わらず乃愛はこの調子だ。
「ノア、君にはたくさん服を用意したが?それに護衛と食事なんてあり得ない!」
「してるじゃない、何が悪いの?アルも食べれば?いっぱいあるし。」
「ぐっ……そう言う事じゃない!俺は、この国の常識をだなっ!」
「あんたの常識をあたしに押し付けないでよ、鬱陶しい。」
アルフレッドから、フンっと顔を背けて乃愛はまた大好きなマスカットを一粒口の中に入れた。
手を止めたアレクサンダーはそろりとゆっくりと椅子から立ち上がりテーブルから遠退いた。
最初から味などしなかったのだ、今更とて何の意味もない。
そのアレクサンダーの行動を横目に見た乃愛も気にしなかった。
アルフレッドもアレクサンダーを横目にじろりと睨みつけた。
コホンっと咳払いをした。そしてアレクサンダーが座っていた椅子に腰掛けると鋭い目つきで乃愛を見た。
乃愛の好物のマスカットを一粒自身の口に入れたのだった。
「・・・食べるんじゃない。素直に言えばいいのに、アレクだって食べてる途中だったのよ?」
「そんな事は私には関係ない。」
「出た。王子様の横暴。」
「なっ・・・横暴だとっ?」
「何も言わずに、アレクにはダメだと言いながらあなたは何も言わずに食べ出した。横暴よ。」
「護衛騎士が食べて私が食べて何が悪い?」
「食べてるのにそんなに睨まないで。」
何を言っても言い返してくる乃愛に敵う事はなかった。
アルフレッドはムキになって目の前の食事に手をつける。
「何、腹ペコ?」
「違うわ!」
アルフレッドは大きな声で否定しチラリとまたアレクサンダーを見る。
じわじわと沸き立つアレクサンダーへの嫉妬の炎。
「ノア、君の護衛騎士は今後交代制となる。」
「・・・・ふーん。まあアレクだけじゃ無理よ。
ていうか、そもそもいらないけどね。」
「そういう訳にはいかない。君はこの国の聖女。それも、神殿が言うには歴代のどの聖女よりも優れた力を持っている。
そんな君をただ放って置くわけにはいかないんだ。」
「ま、なんでもいいけど、煩わしいのは嫌よ。あと交代とあなたはいうけど、メインはアレクで変わらないのであればあたしは構わないわ。今更他の人寄越されるのもしんどいわ。
せっかく覚悟を決めたのに、鬱陶しくさせないでくれれば。」
「うっ・・・」
アルフレッドは息が止まりそうになった。
先手を打たれた。交代制にするからアレクサンダーをメインから外すつもりだった。
だが、悪魔の囁きに思いついた計画はあっさりとこの聖なる人にあっさり打ち砕かれた。
それくらいに、彼女はアレクサンダーへの信頼し始めたのだ。
「・・・・いらないって言うくせに。」
ほんの小さな声でアルフレッドは呟いた。
「え?なに?」
「なんでもないっ・・・・。」
乱暴に作法も無視して目の前にあったロールパンを口に千切った。
「・・・・・・・」
それを聞いていたアレクサンダーはぽかんと聞いていた。
真夜中の葛藤は聖女の言葉に浄化されていく。
自分を主として考えてくれたのがとても胸に響いた。
爵位のせいだとか、荒だった心で過ごした数時間は無意味となった。もちろん交代制には変わらないがこれ以上の救いはない。身分の低い自分を軸と考えてくれるだなんて。
心が解れていく。ふわふわと軽くなる身体。
少しニヤけてしまいそうな口をぎゅっと閉じた。
「ご馳走様。」
そう言って乃愛が手を止めた。
アルフレッドもそれに合わせて席を立った。
「昨日言っていた聖の間へ案内したいのだが。」
膨れっ面のアルフレッドがそう言った。
「あー・・・・はいはい。」
乃愛はヒラヒラと手を降り席を立つ。
「服はそのままで構わない。このまま行っても構わないか?」
「ええ、別に。」
乱暴な足取りで歩き出すアルフレッドに乃愛は首を傾げた。
「なんであんな不機嫌なわけ?なに、あたしが悪いの?」
ぽつりと呟いてアルフレッドの後に続く。
そしてアレクサンダーもその後ろを守るようについて歩く。
広い王城の中、どこを歩いているのかも一度では覚えられない程だった。
すれ違う従者達が首を垂れる。
そんなことには目もくれずアルフレッドは不機嫌に歩いた。
乃愛もさほど気にしてなどいない。
やがてたどり着いたその場所は城の高い塔の最上階だった。
銀色の扉で出来たそのいかにもの扉をじっと見つめた乃愛。
冷たい空気を密かに感じた。
「・・・ここが・・・・」
アレクサンダーもこの場所に来るのは初めてだった。
限られた人しかこの塔には上がらない。
今まで自分は無縁の場所だった。
アルフレッドがその扉を開いた。
乃愛をその部屋に招き入れ、そして扉の前でアレクサンダーに振り返る。
「ここはお前が入れる所ではない。お前はこの扉の外を守っていろ。」
鋭い視線と口調でそう告げる。
その気迫にアレクサンダーは少しだけ後退りしたものの、自分の使命を心に刻む。
「畏まりました。殿下。」
そう言って目線を下に向けた。
「・・・・・・」
使命に従順で真面目な男のアレクサンダー。
その誠実さにもモヤモヤとした気持ちを抱いて扉を閉めた。
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