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ちょっとそういうのは他所でやって

 

 絢爛豪華なパーティー会場にアルフレッドにエスコートされ乃愛は足を踏み入れた。


 盛大の拍手で耳を覆いたくなって眉間に皺が寄りそうだった。

 儀式でいた貴族と呼ばれる人々なのだろう。

 だが、顔など少しも覚えていない。

 カーペットを歩いた先、玉座に座る王のカーチスとミリア王妃だけ分かる。


 カーチス王は満足気な顔でこちらを見ている。

 アルフレッドの歩く速さに合わせて連れて行かれるこの先。もういいや、全部任せよう。


 後ろにはアレクサンダーが居る事も知っている。

 隣と後ろが安全なら問題ないだろう。


「聖女ノア」

「!?‥はぃ」

 笑顔のカーチス王に呼ばれ、乃愛は少しビクっとして返事を返した。


 ニコッと笑ったカーチスが、会場にいる人々に向けて声を張る。

「皆、今宵は新たなる聖女誕生の祝いのパーティーだ。この国の益々の安寧と繁栄を皆と喜びを分かち合いたい。我が王太子アルフレッドが召喚した聖女と未だかつてない素晴らしい聖女を召喚した王太子に乾杯だ!心ゆくまで楽しんでくれ。」


 やたら王太子のアルフレッドを強調してないか?

「‥‥‥」

 乃愛はポカンとその小さな唇を開けた。


 そしてなんだ、この、宴だ。みたいな品のいい海賊みたいな。


 ちょっと隣を見上げればその聖女を召喚した王太子は自慢げに微笑んでる。なんだ、眩しいな。


「ノア、ここに座ってくれ。」

「ぁ?」

 アルフレッドが指したのは、王と王妃の席の隣だ。

「んー‥‥あんたの席じゃないの?」

「鋭いな、だがこれからノアへ挨拶にやってくるから君はこの席に座るに値するよ。」

「いや、いいです‥‥」

 顔面蒼白になりながら乃愛は仰け反った。



 王と王妃の隣に座らせられるなんて聞いてない。

 まして王太子のアルフレッドの席じゃないか。

 なぜわざわざそんな席に座らせるんだ。

 嫌がらせか。


「ちょっ‥‥一旦持ち帰らせて。」

「なに?なにか欲しいものがあった?」

「ちがう、ちがうから、ちょ、まじで勘弁。」


 わたわたし出した乃愛だが、アルフレッドは乃愛の両腕をしっかり掴んで前へと押した。


「ちょっと怒るわよっ?!」

「あはは!もう怒ってるじゃないか。ここは人目があるんだ。黙って従ってくれ。」


 アルフレッドは笑顔だ。そうここは人前だ。

 王太子として乃愛に押される訳にはいかないアルフレッド。


 ぽすんっと座り心地抜群の王太子の椅子に座らせられ、聖女はキッとアルフレッドを睨んだ。

 だが、人前ではアルフレッドも立場というものがある。

「ははは、さぁ、私もここにいるから。皆に一言返してくれればいいよ。」

「マジで聞いてない‥‥」

「聞いたなら来ないだろ?」

「当たり前よ。この腹黒王太子。」

「ははっ、もう言いたいだけ言ってくれ。」

 すべての不満をアルフレッドは受け流した。

 先程のドレス事件に比べれば、痛くもない。



「はぁ‥‥もう好きにして‥さっさと終わって。」

「理解してくれて感謝するよ」

 アルフレッドはにこやかに乃愛の隣に立った。そしてアレクサンダーは少し離れた場所で乃愛を見ている。ちらりとアレクサンダーに目をやれば、アレクサンダーはビクッと顔を強張らせたようだった。


 乃愛はうんざりしながら、ムスッとして足を組んだ。

「ノア、それはいかがなものだろう。」

 見ずともアルフレッドはその足組みを指摘した。

「うっさい、これくらいさせなさいよ。どうせ見えないわよ。こんなロングドレス。」

「ぅぅ‥」


 こんな、というワードにアルフレッドには小さなダイヤモンドの矢が刺さった。



 続々と位の高い貴族達が挨拶に来る。

 笑顔笑顔笑顔の貴族達が聖女に首を垂れる。

 乃愛は、少し濁った笑みを向けて流した。

 何を言われて、誰が何を言ったか、似たり寄ったりで覚えても居ない。


 そして、やがて散っていった人々に乃愛はもはやここが王子の席ということも忘れて肘をついて背もたれに頭を預けた。


「ご苦労だった。ノア。」

 従者が持ってきたグラスを手にアルフレッドは飲み物を乃愛に向けた。

「やっぱあんた詐欺師よ。あるならあるって言いなさいよ。」

 少しだけ乱暴にアルフレッドからのグラスを手に取った。


「人聞き悪いなぁ。君の性格を考えての上だよ。

 私も保たなければならない面子があるんでね。」

「‥‥しんどいわ。」

 グラスを傾けて、乾いた喉に水分が通る。

「かはっっ!」

「どっ!どうしたノア!!」

 喉元を抑えて乃愛が苦しそうに身体を折った。

 慌てたアルフレッドと、異変を察知したアレクサンダーがすぐさまに駆け付けた。

「聖女様!!まさか毒ですかっ?!」

「バカを言うな!!!」

「ですが王太子殿下!聖女様!!!お気を確かに!」


 苦痛な表情を浮かべた乃愛がアレクサンダーとアルフレッドを見上げる。

「聖女様っ?!大丈夫ですか?!」


「‥‥お酒‥‥‥」

「「へ?」」


 ふらふらと乃愛はグラスをアレクサンダーに押し付けた。

 アレクサンダーがグラスの中を匂いを確かめると、確かに赤ワインの匂いがする。


「聖女様は、お酒は苦手でしたか?!」

 その言葉に乃愛は更に眉を吊り上げた。


「あたしまだ未成年なのよ?!酒を出す馬鹿がどこにいるのよ?!」

「へっ?!あ!え?!」

 2人が目を丸くしていた。

「ノアの国では酒は飲めない?」

「お酒は二十歳になってから!!」

 怒った顔で乃愛は声を張る。

「聖女様は‥‥お歳は‥‥」

「あたしはまだ17よ!」

「ぁ‥‥‥そうですか‥‥」

 アレクサンダーはポツリと返した。


「あぁもう最悪‥‥‥」

 乃愛は手の甲を額に当てて項垂れた。

 アルフレッドは心配そうに顔を覗き込んだ。

「すまない、ノアが酒を飲めないなんて思わなかった。ノアの国の文化を知らないばかりに‥‥」

「一言言ってよ、生涯酒だけは飲まないと思ってたのに‥‥」


「本当に申し訳ないノア‥‥具合が悪いか?」

「あぁ‥‥そこまでじゃないけど‥‥もう挨拶が終わったからいいのよね?ちょっと外に出させて。」

 そう言うと乃愛は、アレクサンダーに手を伸ばした。

「アレク、どっか連れてって。」

「あ、はい‥聖女様‥」


 アレクサンダーは乃愛の手を取り、肩を抱き寄せて支えた。

「あっ、ノア!それなら俺が‥‥」

 アルフレッドが焦り声を上げようとした時だ。


「アルフレッド王太子殿下?」


 自信に満ちたような透き通る声が届けられた。


 3人はその声の主に振り返った。

 アルフレッドは眉を顰めた。

「ミレイユ嬢‥‥」


 にっこりと微笑みを浮かべたミレイユが居た。

「まぁ、聖女様‥‥お酒一口お口にしただけで‥‥意外にか弱いお方なのですね‥‥先程の淑女とは見らぬ様な横柄な態度のご様子でしたのに‥。お酒で男性方の気を引くのがお上手ですこと‥‥」

「‥‥‥」

 乃愛はミレイユの顔を見て更に具合が悪くなったような気がした。


「ミレイユ嬢、そなたには関係のない事だ。私の過ちにより飲んではならぬ酒を口にした。それ故に休ませる所だ。今は立て込んでいる。」

「まぁ、そうでしたの?では女同士私が介抱して差し上げますわ?国の宝である聖女様ですもの、王太子殿下の婚約者として‥‥」

「っ‥‥ミレイユ嬢」


 アルフレッドは眉間に皺を寄せた。変な汗がブワッと噴き出る。

 出来れば乃愛の耳には入れたくなかった事だった。

 婚約者がいる事実。

 だが、聖女が現れた今、その事は覆る事もある。


 乃愛はその話を聞いて、はぁっとため息をついた。



 いるのだ。こういうのはどの世界にも。


「ちょっと気分が悪くて外に出るだけなのに面倒ね。そういうのは他所でやってくんない?


 あたしそういうの巻き込まれたくないの。


 それに知らない女に介抱されるのも御免よ。」


「そーやって婚約者って名乗るくらいだもの、

 必死こいてバカくさい話よね。


 行こ、アレク、まじでうざい。」


 ミレイユの顔は一瞬で歪んだ。婚約者と知らしめた事に成功したと思ったのに、必死だと馬鹿にされた。


 しかもうざい?


 それは鬱陶しいと言う意味か?


 とにかく馬鹿にされたのは確かだ。

 顔を真っ赤にしてミレイユは持っていた扇子を音がなるほど握りしめた。


「聖女と煽られて生意気なっ!私は王太子殿下の婚約者ですのよ!」

「ミレイユ嬢!やめないか!」

「殿下!これは私への侮辱ですわ!」


 息を荒くしながら、ミレイユはアルフレッドに縋った。

 そんなミレイユにアルフレッドは大きな溜息をついた。


 そんな姿を見て、乃愛は呆れた顔で口を開いた。

「あなたが言った言葉もあたしへの侮辱デスワ。

 あなたが思うあたしへの敵対心は不要デスワ。

 その綺麗なお化粧が台無しデスワ。


 そういうのは人目のない所でやるべきデスワ。

 先が思いやられますワ。婚約者様?」


 ミレイユの口調を真似して涼しい顔で乃愛はアレクサンダーの手を引っ張った。

「行こ、鬱陶しいから。」


「‥ぁ、はい‥‥」


 乃愛のミレイユへの言葉に圧倒されながらポカンとしていたアレクサンダーは、また乃愛の身体を支えバルコニーへと足を進ませたのだった。



読んで下さりありがとうございました。

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