パーティー前
夜7時から始まる新たな聖女誕生のパーティー。
城に戻った乃愛は慌ただしかった。乃愛の部屋に沢山のメイドが代わる代わるやってくる。
入浴、マッサージ、アルフレッドから贈られたドレスの着付け、メイク、ヘアセット。
装飾品選び、乃愛はただドレッサーに座ったままだった。
アレクサンダーは乃愛の部屋の中で護衛中。
「‥‥‥‥」
アレクサンダーは、衝立の奥の乃愛を思った。
聖女が、自分をアレクと呼んだ。
その変化は何を意味するのか、少々分からなかった。
ただ、『サ』がとられただけだったが、ここへきてすぐに聖女はすぐにそう呼んだのだ。
相変わらず、乃愛の考えてることは分からないが、
神殿からここに来るまでの引いた手がポカポカと温かい。
胸が痛い。ムズムズしてる。
自分はただ、聖女を守ればいいだけ。
この役目がいつまでかも分からない。
そばに居られる間は‥全力で。
見つめる先の聖なる女性は、
ダイヤモンド‥‥
あんなに輝く存在を自分は知らないから、
どうしていいか分からないけど。
月日が経てば、分かる日が来るかもしれない。
この気持ちに、意味がつくかもしれない。
衝立を見つめながら物思いに耽っていた。
そして、扉の向こうに人の気配を感じた。
緊迫した様な気配だ。
「俺だ。」
扉の外から声がした。アレクサンダーは丁寧に扉を開けた。
「王太子殿下。」
「ああ、アレクサンダー、ご苦労。
ノアの準備が終わったら頃かと思ってな。」
「あ、そろそろ。」
振り返ったアレクサンダーが、光を見る。
それはやってきたアルフレッドも同じだ。
「あ、来たのアル。」
何事もない顔で乃愛は2人に身体を向けた。
ぽかんと2人は口を開けたまま。
「アホ面すぎて草生えそう。」
乃愛は真面目な顔で2人にそう告げた。
「ぁ‥‥ごめん、意味わかんないけどとりあえず阿呆と言ったか?」
アルフレッドが正気に戻り乃愛の言葉を聞き直す。
「マジで草」
「ノアの国の言葉は少々意味が‥‥」
「あーうん、知らなくていい。」
そんな乃愛だが、上から下までゆっくりと見たアルフレッド。
「すごく‥‥綺麗だ、ノア。」
アルフレッドは頬を染めて嬉しそうに笑った。
「‥‥‥‥」
乃愛を彩るドレスはレッド色と銀糸の刺繍でバラが大きく左胸で咲くデザインだ。黒いレースのロンググローブと相まって妖艶でツンとした彼女にとても似合っていた。
アレクサンダーは、そのドレスの意味が分かる。
自身の髪色と同じドレスを贈る意味は明白だ。
いつから準備していたのか分からないが、アルフレッドの想いを悟った。
「‥‥‥‥」
ああ、このお方は聖女へ特別な感情を抱いている。
天地がひっくり返っても自分はこんな高価なドレスを贈ることも出来やしないだろう。
なんだか、ムシャクシャした気持ちが沸いた。
こんな気持ちもきっと不敬だろう。
心ぐらい、勝手じゃないか。
何も分かって居なくても、なんだか気持ちがスッキリしないんだ。
そんな時だった。
「ねぇ、あのさ、言っちゃ悪いんだけど、エスコートってアルがするんだよね?アルの頭とあたしのドレスが被っててなんか、隣に並ぶと違和感じゃない?」
「‥‥‥へ?」
アルフレッドが固まった。
いや、その場にいる全員が固まった。
乃愛は、鏡の前であちこち見回しながらさらに続ける。
「いや綺麗だけど、てか、アルのその衣装だって黒に赤入ってるし、お揃コーデにも程があるっていうか‥‥カレカノみたいじゃん、なんか気分的に重いんだけど‥‥まじでこれで出るの?」
アルフレッドの身体が小刻みに震えていた。
乃愛には、この合わせた衣装が重い。
重い‥‥。
「俺が‥‥エスコートするんだから、これは普通だよノア‥‥」
子犬のように震えながらアルフレッドは、目頭が熱くなっている。
メイド達もどうしていいか分からずドギマギするばかりだ。
「そーいうものなの?まぁ‥‥こんなに綺麗にキメられちゃったらもうどうしようもないんだけどさぁ‥‥ま、いっか‥今夜だけだし‥‥。」
鏡の前で仕舞いには諦めのため息だ。
「‥‥‥‥」
アレクサンダーは、下を向いた。
聖女は衣装を揃える意味を知らないし、
そのドレスを贈られる意味も知らない。
異世界ではない文化なのか、重いというのは乃愛の性格のせいか。
ダイヤモンドの矢がまた胸に突き刺さるアルフレッドがなんとなく気の毒になってきた。
だが、アレクサンダーの心が少し軽くなる。
乃愛はあまり乗り気でない。
何も言わずに衣装を合わせ、自分の髪色の衣装を贈ったのは、失敗だっただろう。
「なんと‥‥本当なら打首にしたいところだ‥‥」
一部始終見ていた側近のビリーは怒りで震えている。
この好き勝手で罰当たりな言動。
王太子から贈られるドレスの意味も、その光栄さもわからない聖女。
こんな者に振り回されているアルフレッドにも苛々は募る。
このドレスを贈るべきではなかったのだ。
人の好意を踏み躙るような女のどこが聖女だと言うのだ。
聖女でなければその辺でくたばっていたはずだ。
なぜ召喚されたのがこの女だったのか。
ビリーの顔が般若のようになっているのを他所に、
アルフレッドは僅かなHPで堪えている。
乗り気ではない乃愛へ贈ったドレスが似合っているからこそ、余計にダメージが大きかった。
どんな悪いことをしてこんな痛手を負っているのか、罰か。
「よ‥‥用意が出来たならそろそろ‥‥」
か細い声で、アルフレッドは乃愛にエスコートの手を差し出した。
「あ、うん、ちゃっと終わらせてね。」
「努力する‥」
アルフレッドの手に温もりが灯る。
素直に手を取ってくれてHPも僅かに自然回復してくる。
部屋を出て連れ歩く彼女をチラリと見た。
キリッとしたような、だが不満げなその美しい顔。
いつかきっと笑顔にしたい。
こんな事でパンチを喰らって瀕死になっては王太子など務まるものか。
王太子として育ったアルフレッドの努力の賜物で、
アルフレッドは堂々と歩くのだった。
並んで歩く2人の後ろ姿を追い、アレクサンダーは続いた。
アレクサンダーのマントはまだほんのりと温かい。
読んでくださりありがとうございました。




