表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

映画や小説みたいに

作者: 野中 すず


「えっ…………」


 初めて顔を合わせた二人は同時に声を出した。

 正午の駅の入り口。SNSサイトで約束した待ち合わせ場所。周囲は大勢の人々が行き交っている。

「若いイケメンに殺されたい」と願っている若い女と「若く美しい女を殺したい」と願っている若い男。


 更に二人は同時に同じ事を思った。


 ――――()()()じゃない。


 男はイケメンではなかった。

 女は美しくなかった。


「えっ……と……」

 男は口ごもる。「あなたは殺したくないです。理由は美しくないからです」なんて言えるわけがない。

「…………」

 女は何も言わない。「あなたには殺されたくないです。理由はイケメンじゃないからです」なんて言えるわけがない。


 人と接する事が苦手で、地味に静かに生きてきた二人。

 早々(そうそう)に自分の人生に見切りをつけてしまった二人。

 歪んだ欲望、自暴自棄、最期くらい許して欲しいわがまま。



 無言の時が過ぎる。やっと女が口を開く。

「そこのマック入りませんか? 私、お腹減りました」

 女が提案した。

「そうですね。僕も朝から何も食べてないんです」

 男は応じた。


 ――――――――――


 店内のテーブルで向き合い、二人はビッグマックのセットを食べている。


 二人とも今回の「約束」は守られないと理解している。

「今から死んでいく女」にビッグマックの高カロリーは不要だろう。


 そんな事より、二人は同じ事を心配していた。


 ――自分と一緒にいることで、周りから「底辺カップル」とか思われていたら申し訳ないな。


 二人は無言でビッグマックもポテトもコーラも食べきり、飲みきった。


 会計を済ます。財布を出そうとする女をとめて、男が二人分支払う。


 ―――――――――


 再び、待ち合わせた駅入り口に戻って来た。


 ――映画や小説だったら、この人と付き合い始めたりするんだろうか。


 そんな事を二人は思う。


 ――バカバカしい。


 そんな事を二人は思う。




「今日は、ごちそうさまでした。ありがとうございました」

「僕、人と一緒に何か食べたの何年ぶりか分かりません。少し楽しかったです」


「じゃ……」

 男が別れを告げた。「()()はなかった事に……」などと言う必要はない。

「あっ……、あの……」

 女が男を引き止めた。

 男は悪い予感がした。

 ここで「私と付き合ってみませんか?」などと言われたら、全て台無しだと思った。


「なんですか?」

 女は時間を掛け、言葉を絞り出す。

「えっ……と……。もし、もし私が……、銀行強盗……したくなったら……、一緒に行きませんか?」


 男は表情一つ変えない。

「バカバカしい」などと思わない。

 数秒後、静かに返事をした。


「もちろん」


 女に背を向け、男は足を踏み出す。



 ――あの女性(ヒト)となら警官隊に蜂の巣にされるのも楽しいかも知れない。



 映画や小説みたいに。



 最後まで読んで頂けて嬉しいです。

 御感想、評価頂けたら有り難いです。


 御感想には必ず返信させて頂きます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
空気感がいいですね! お互いの不完全さを認識してるのがイジらしく、そのままならなさがエモい! 別れの台詞も社交辞令のような本心のような、独特な空気感が好きでした!
[良い点] なんか、この作品。感想を書こうとすればするほど無粋な言葉しか出てこなくなりますね。 なので素直に思ったことをつらつらと書きます。長くなるかも。 彼ら二人にとって、死ぬのに理由が必要なのと…
[気になる点]  結局この二人,ほんとに強盗とか やっちゃわないよね?  「たとえば」ですよね?? [一言]  ネットで出会った主人公たち,こういう感じで顔を合わせていくうちに 信頼が生まれて,胸筋を…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ