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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

積みあがるもの

作者: Hora

 私は東京都に在住の刕千(りち)朱美(あけみ)、高校3年生です。東京都とは言っても伊豆大島です。静岡県伊豆半島から直線で25km程なので高速フェリーだと本州から35分程の距離です。東京都は首都でありながら330の島を抱え、沖ノ鳥島や南鳥島などの小笠原諸島も含むので日本最南端、日本最東端を有します。ただこれらの島で暮らしていると東京在住という感じはしませんが、東京に住んでいると言いたいんですよね。言う相手はいないんですけど。ただ来年には大学進学で本土の東京に4年間は住むことができますので今から楽しみにしています。


 ここ伊豆大島を扱った映画・ドラマ作品は数多くあります。私は映画〇ジラでゴジラが三原山の火口に落ちる→火口から復活がシュールで好きなんですけど、島の人達が言うには

「映画のリ〇グの舞台になったのが観光客増に繋がった」

リ〇グは呪いのビデオを見ると1週間後に貞子が目の前に現れ、必ず死ぬという映画です。ラストに近い場面、貞子が井戸から這い上がった後にゆらゆら揺れながら画面に向かって歩いてくるシーンは有名ですね。その貞子とその母である志津子が伊豆大島の出身という設定なのです。呪いのビデオにも出てくる母の志津子が伊豆大島にある三原山の噴火を予知しますが、住人から信じてもらえずに三原山に投身自殺をする場面があります。だからか聖地巡礼として三原山を訪れる観光客が多く見られます。ゴジラの聖地巡礼の人もいますよ。


 私はこの島で代々女系に引き継がれている霊能力を持っています。ここ数百年に1人の高い能力があるということを私の母から毎日のように聞かされています。だからなのかこの島でどのような事が起こったかの歴史も母を含め方々から聞かされるのです。


【三原山】現在ではこのように表記されていますが、これは極々(ごくごく)最近であり長らく【御腹山】という字で書かれていました。これも噴火の様子が出産を表す生命の誕生、という風に解釈されていますが逆なのです。生きたままの人間を火口に食べさせていた事が語源となります。


 この島は1万5千年前に入植が進み、三原山に対する火山信仰のある島です。島そのものが火山活動による堆積によってできたから…とか、そういう生易しいものでなくひどく狂信的な信仰であり、現在までその系譜は続いています。

 縄文時代後期から弥生時代。狩猟から農耕へ。定住を始めた日本には文字が無かったこともあり資料は残されていませんが、本土では作物や条件の良い土地、川の奪い合いによりおぞましい数の戦闘と死者を出していました。争いの激しい西日本から逃れるように伊豆半島に人々が移住し始めます。気象条件が揃うと伊豆半島から伊豆大島が見えることから本州から伊豆大島へ偵察の人物がより良い環境を求めてやってきます。本州での血で血を洗う争いを知った当時の伊豆大島の人達は、その偵察の人物に侵略の意図が無かろうと本州に帰す訳には行きませんでした。それから来る人来る人を三原山の火口に投げ込み、その行動が正しいことであるかのように信仰を積み上げていったのです。


 日本に国家なるものが誕生し始めた黎明(れいめい)期から、伊豆大島は流刑(るけい)の地として機能しました。本土と大島の利害が一致したのです。本土側は犯罪者が二度と本土の土を踏めないように。大島は信仰の餌を三原山に捧げるために。流刑(るけい)という名の人身御供(ひとみごくう)でした。火山活動を抑える目的ではなくむしろ活発な胎動(たいどう)を望みます。ただ皆が皆、流刑者(るけいしゃ)が火口に投げ込まれた訳ではありません。改宗とも言える三原山への火山信仰に同調した人物に関しては寿命による死を迎えることが許され、その方針が周りを海に囲まれた孤島に更なる狂気を生み連鎖するのです。


 古墳時代、奈良時代、平安時代、室町時代、戦国時代、江戸時代、歴史は流れていきますが大島の活動は変わりません。本土の犯罪者が運ばれます。取り押さえ、微毒を与え、火口に放ります。延々と何千年も変わりません。御腹山はいくらでも飲み込みます。この島そのものを生み出した大元(たいげん)なのですから。

  

 時代は流れ明治。本土が暗黙の了解としていた伊豆大島に査察が入ります。流刑(るけい)による犯罪者が送られなくなったことから、伊豆大島の中から生贄として積極的に戸籍の無い人間を生み出すことになります。

 現代の感覚からすると逆ですが、村での地位が高い人の子供が生贄として選ばれます。三原山に身を投げる事は選ばれた人間のみ行える尊い行事になっていたのです。しかし量が足りなくなります。そこで本土からの自殺志願者を集め、三原山への火口へ飛び込ませるという自殺ブームを巻き起こします。これには大島出身で新聞社に就職した人物が一躍を担います。1933年には自殺者944人を。さらにその観光客でごったがえし年19万人の来島を達成します。ただ軍事クーデター、国家総動員法など戦争に国が傾くにつれて再度、本土から手が入り、島内に軍事拠点を作られます。日本側は小笠原諸島への輸送や、本土への空襲を伝え食い止めるために伊豆大島に拠点を作ったのですが、結局空襲そのものを止めることはできず、東京や静岡は繰り返し焼かれてしまいました。しかし伊豆大島は一度も空襲されていません。ここに手を出すと何が起こるのかアメリカ側には分かっていたのでしょう。


 1950年には曾祖母が、1986年には祖母が、命の火で噴火を引き起こして(・・・・・・)います。

次は母であり、私は2053~2055年になるそうなので、まだ先の話です。


 高校からの帰り道。私は歩きながら左手側に綺麗な夕日と三原山を毎日見ることができます。標高758mらしいですがとんでもない。有史以来の数多の、、おびただしい数の死体が山頂から上に折り重なっています。どこまでも上に上に。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 以前、伊豆大島を舞台にした拙作を書いたこともあり、非常に惹かれました。 伊豆七島にお詳しいようなので、ご存知でしょう。――物忌みの夜にやってくると信じられている『海難法師』です。 鈴木光…
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