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  作者: 滋賀ヒロアキ
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プロローグ

階段を文字通り勢いよく落ちた。

世界が回り、頭がどっちかわからなくなる。段差に体をぶつける度に速度が上がっていき、地面が急速に迫ってきた。

意識を失わなかったのはいらぬ奇跡だった。階段を落ちきってからも数回ほど視界が回ってようやく止まった。痛みに呻きながら目を開けると、グラグラの視界の中であらぬ方向へ曲がった自分の左手が見えていた。

その後、僕を落としたいじめっ子たちを教師がちゃんと裁いてくれなかったのが、僕が決定的に『いじめ』に絶望し、ついに解決を諦めた話。






個人的な見解だが、人間というのは突き詰めれば大きく二通りに分けられる。

いじめっ子と、いじめられっ子にだ。

そして僕こと、落錠(らくじょう) 淘辞(とうや)がそのどちらに属するかと聞かれると、それはもう0.1秒の迷いもなく後者だと断言できる。

小学校の頃から、僕はどうにもイジメの標的になることが多かった。叩くと面白いのか、面白くないから叩かれるのか。そのあたりはわからないが、とにかく僕はずっといじめられていた。

上履きを隠されるのは日常茶飯事だったし、雑誌の懸賞で当てたノートを破かれたり、提出した宿題をどこかに隠されたり、顔を殴られて鼻血を出したりするのもしょっちゅうだった。

なぜ僕がそんなことをされるのか。他の人は普通に生活してるのに、なぜ僕だけ。

訳がわからなくて、服の袖を涙で濡らした。


やがて、僕は誰かに相談することを検討し始める。独力で解決するのは不可能だと遅まきながら気づいたのだ。

誰に相談しようか。先生、母さん、兄ちゃん、ロクちゃん、マーくん……。


色んな人が浮かんだが、一先ず親はすぐ却下した。

『他人に突っかかられたら、自分に非がなくてもとりあえす謝っときなさい』と息子に教育するほどの事なかれ主義の両親には、伝えたところで効果は期待できない。あなたが謝りなさい、といつものように言われるだけだ。

だから、考えた末に担任の先生に相談することにした。

当時の担任は、ギャグが面白くて昼休みに生徒と遊ぶなど、距離感が近く親しみやすい先生だった。

そんな先生だったから、僕は勇気を出して相談することができた。それに、低学年の頃の先生っていうのは神様のような、何でもできてしまうような人間という偏見があったから、きっとなんとかしてくれるのだと思っていた。


「……そんなことを、されていたのか」


話を聞き終えた担任が腕を組んで下を向く。

そのまま五秒ほど唸ったあと、担任は客と接するときの店員みたいな笑みを浮かべて言った。


「よし、先生に任せとけ。色々調べとくし、あいつらにも言っとくから。だから今日はもう帰りなさい」


軽く頭を撫でながらの言葉に、胸がスッと軽くなったのを感じた。子供ながらに、この人を頼って良かったと思えた。


それ以降、その担任といじめについて話すことはなかったし、いじめは止まらなかった。






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