第十六章 勝機
闇色に変化した水晶玉からは、凄まじい程の邪気が放たれていた。
「ま、魔神が創りだした魔道具!?」
「知っているのか、アリス?」
「い、いいえ。あの水晶玉自体のことは知りませんが、魔神のことなら知っています!魔神は太古の昔、この世界『アラン』を崩壊寸前まで破壊の限りの尽くしたと言い伝えられています!」
「な、なんでそんなやばい奴の魔道具がまだ存在しているんだ!?」
「・・・それは分かりません。ただ・・・今分かることは『あの水晶玉は世界を崩壊させる程の力を有しているかもしれない』ということです!」
「・・・そんな!」
「あの魔道具とやらのことを見てたってしょうがねー! 全員で攻撃して、隙をみて逃げるぞ!」
エニスがそう皆に伝え、皆はそれぞれ魔法を発現しようとした。
・・・がしかし、魔法が発現しなかった。
「・・・なんだ!? 魔法が使えねー!?・・・皆はどうだ!?」
「駄目ね!私も使えなくなっているわ!」
「そんな・・・私も!?」
「兄ちゃん!てめぇはどうなんだ!?」
「だ、ダメです! 俺の魔法も消えてしまい、発現させることも出来なくなってます!」
「どうなってんだこれは!?・・・まさか!?」
「ようやく気が付いたようだね。そう、この水晶玉は一定の範囲内の魔法を封じる力があるのさ!」
ま、魔法を封じる!? この魔法の世界でチートみたいな魔道具が存在しているのか!?
「!?・・・そういうことかよ。どうりで魔法が使えないわけだ。だがお前はどうなんだ銀髪!」
・・・確かに! あいつは一定の範囲内って言っていた。だとしたら、クラウスやウルスラとかいう魔人も影響を受けないはずがない!!
「・・・ほう。やはり人間にしては勘が鋭いな。その娘が言った通り、私達も魔法は封じられる。それがこの魔道具の欠点と言うわけだ」
「・・・ならエニスさん! これはチャンスなのではないでしょうか!?」
「・・・いいや。あいつらの魔法が封じられたのはありがたいが、それでも人間と魔人では基礎能力が違い過ぎる!!」
「・・・つまり魔力が封じられていても、俺達ではこの場から逃げることも出来ないというわけですか!
?」
「そういうことだ!」
ええええ!? どうすんだよこの状況!? 魔法も使えないうえに相手の方が遥かに力が上!
戦う武器もないのにどうすれば・・・武器!
そうだ、そうだよ! 俺達には武器があるじゃん!!
「エニスさん! まだ俺達には武器があります!」
「ああ、あの魔人に効けばいいんだがな。うちの魔法「ロック・グラディウス」はかなり攻撃力がある魔法だ。だが、それをまともに喰らってもピンピンしてやがる。正直こんな武器じゃ期待は薄いな」
「でも、それでやるしかなさそうよ!」
師匠はそう言って、懐から短剣を取り出した。
「・・・作戦があります」
そう言ったのはアリスだった。
さ、さすがアリス先輩! いざという時に頼りになる。
「本当かアリス!」
「はい。相手がいつこちらに攻撃してくるか分かりませんので手短に説明します」
「ああ、宜しく頼む」
「まず現在この状況内この中で、一番火力があるのは言うまでもなくシオンさんです。」
「えええ!? 俺なの?」
「はい。工房での話はエニスから既に伺っておりますので間違いありません。ですのでシオンさんを主軸として作戦を立てました。」
俺が主軸って、責任重大だな! 大丈夫か俺で? 俺今日初めて魔物と戦ったんですよ!?
「・・・でどんな作戦なの?」
「シュ、シュ、バーン作戦です!」
「・・・シュ、、シュ、バーン作戦?」
「・・・なるほどな。それなら行けるかもしれない」エニスが納得したように言った。
「それなら問題なさそうね!さすがアリス!」
えええええ!? どういうことぉ!? なんでこの二人納得してんの!!?
なんだよ「シュ、シュ、バーン作戦」って!? 全然意味わかんないんですけど!?
なに? 俺がおかしいの!? 教えてくださいアリスさん!!
「あの~アリスさん、すみません俺勘が鈍いので分からなくて~良かったら教えてくれませんか?」
「ったく、相変わらずだらしねぇなてめぇは!」
エニスがいつもの口調に戻って俺にそう言った。
「す、すみません。」
「まぁそんなことはどうでもいい。兄ちゃんは突っ走って相手を切ればいい!それだけだ!」
「・・・それでいいんですか!?」
「ああ。いきなり難しいことやれって言ってもできねーだろ。ここはうちらに任せな!」
ま、マジすかエニスさん! 滅茶苦茶頼りになる!!
「分かりました。その役目全力でお引受けします!!」
作戦会議が終わると、エニスは背中に背負っていた大剣を。アリスは腰に差していたレイピアを抜いた。
それに続き、俺も漆黒の剣ードレインソードを腰から抜き構えた。
「人間如きが創り出したそんなものでどうしようというのか? 」
「人間様あまりなめんじゃねーぞ!」エニスが強気な口調でそう言った。
「仕方がない、少々面倒だが相手をしてやるか・・・」
「じゃあ、みんな行くぞ!」
エニスの一声で再び戦いは、始まった。
「とりあえず突っ込めばいいんですね!」
「ああ。心配する必要はねー!安心して突っ込め!」
「分かりました!」
そう言って俺はドレインソードを携えてクラウスに向かって駆け出した。
「っフ! また同じ作戦かな? さすがに二度は喰らわんぞ!」
「魔人だろうが何だろう知らねーが、あまり調子に乗るなよ!」
エニスが俺を追い越し、魔人に向かって大剣を振り下ろした!
しかし、クラウスは片手で簡単に受け止め大剣を打ち砕いた。
「フフフ、なんだこの脆い武器は?」
そう言って笑うクラウスの左右から、アリスとジーナがそれぞれ武器ー短剣とレイピアで攻撃した。
「フハハ! 見えているよ!」
アリスとジーナの攻撃はクラウスには届かず、二人とも簡単に吹き飛ばさせた。
「これで終わりかね? 所詮は人間、大したことなかったね」
クラウスがつまらなさそうにそう言った途端に、自分が身動きが取れなくなったことに気が付いた。
クラウスの体はいつの間にか、透明な糸で抑えつけられていた。
「・・・これは?」
ジーナとアリスが吹き飛ばされる前にクラウスに巻き付けていた。
「それは、アビスドラゴンの体毛を素に出来た特注品の糸だ!簡単には切れないぜ!」
「いまだ兄ちゃん!」
「いまですシオンさん!」
「いまよ!やりなさい!」
「おおおお!!」
俺はクラウスが身動き取れないことを確認して、思い切り剣を振り下ろした。
「な、なにぃぃぃ!?」
漆黒の剣ードレインソードはそのまま勢いよく、クラウスを斬り裂いた。