第十四章 謎の二人組
「それにしても、本当に炎を吐くクマがいるんですね!?」
「えぇそうよ!最後に吐いたあの炎、あれが奥の手ってわけよ!」
「確かに死に際のあの炎、知らなかったら危ないですね、師匠が言っていた『震えが走った』っていうのはそういう意味だったんですね!」
「いいえ、そういう意味で言ったわけではないわ!」
「えっ!?そうなんですか?ってきりあの炎のことかと・・・ではいったいどのような理由ですか?」
「べ、別にそんなことどうでもいいじゃない!」
師匠はいきなり態度が豹変し、慌てた様子だった。
「ジーナは初めて『インフェルノ・ベア』を見たときは、『可愛い可愛い』と言って『このクマ私が買うわ!』って、聞かなかったんですよ」
アリスがその時の状況を思い出して笑いながら言った。
ジーナは恥ずかくなったのか、頬を赤らめていた。
「そうだったんですか師匠!?」
「うるさいわね!そんな昔の話はもう覚えていないわ!」
そんな師匠を見ていると何だか可笑しくなった。
「何笑ってるのよ!」
「いえ、笑ってませんよ」
「どう見ても笑ってるじゃない!私のことを馬鹿にしてるわけ!?」
「そんなことないですよ!」
「馬鹿話はその辺にしておけ」
エニスが話に割って入ってきた。
「誰がバカ話よ!」
「いいから次行くぞ。そう言えば兄ちゃん、初討伐を感想はどうよ? まさかまだビビってるわけじゃあねぇよな?」
「・・・正直自分でもビビッていたところがあったのかもしれません。ただ、皆さんのサポートのおかげで何とか魔物を狩ることができ、少しは自身が付いたような気がします。」
「そうか、それなら問題ねぇ。だが次からはうち等のサポートを頼りにするんじゃねぇぞ!」
き、厳しいー! さっきまで一緒に喜んでくれたのにいきなりこの態度!
まぁ油断すんなってことなのかな?
「はい、分かりました!」
ーその後、数十体の「インフェルノ・ベア」を狩り、俺も戦いに慣れてきた。
「そう言えば、ここの樹海って村からはどれくらい離れているんだ?」
「そう言えばそうですね。シオンさんはこの樹海まで気絶していましたもんね。ここはベール村から北東の方角に徒歩一時間程度で着く『ウォルフ樹海』と呼ばれる樹海です!」
「ウォルフ樹海?」
「はい、この樹海には『インフェルノ・ベア』をはじめ多くの魔物がいますが、ほとんどの魔物は襲ってこない程大人しいです!」
「確かに、今のところ『インフェルノ・ベア』にしか出くわしていない。他にはどんな魔物が?」
「色々いますよ。オオカミやウサギをはじめ、ハチや蝶など多種多様に存在してます!」
「機会があればそいつらも狩るさ」エニスだった。
「エニスさんはやはり経験が豊富なのでしょうか?」
「豊富って程じゃねえけどな。この辺の魔物なら一人でも狩れるぐらいだな。」
な、なんと頼りになるセリフ! 一番初めに会ったあのときとは別人みたいだぜ!
・・・でもなんで最初はあんなに絡んできたんだ? それが謎過ぎるんだよな・・・?
俺はエニスに聞こえないように小声でアリスに聞いた。
「アリスちょっといい?」
「はい、何でしょうか?」
「エニスさんって昔からああなのか?」
「そうですね~。昔はもっと柔らかい感じでしたけどあの事件があってからは・・・」
「・・・事件?」
「・・・はい、ここではあれなので後でお話しますね」
「そうだね、ごめんね変なこと聞いちゃって」
事件か。やっぱり昔からああいう性格ではなかったってことか。
・・・だけど、師匠やアリスには普通に接してるんだよな~。
やっぱり昔からの仲だから違うのかな?
そんなことを考えていると、エニスが口を開いた。
「そろそろ上がるか」
「そうね、結構狩ったから今日は十分ね!」
「そうしましょうか。帰る頃には日が暮れそうですし」
よっしゃー、終わったー!
慣れないことばかりだったからか、結構疲れたな。
特に怪我もしていないし、初仕事にして上出来だろう。
俺たちは村に帰るために樹海に入ってきた方向に向かった。
「やっと樹海の入り口まで戻ってきたか」
「安心するのはまだ早いわ!帰るまで何があるか分からないからね!」
「師匠って結構用心深いんですね!?」
「あたりませよ!これが魔物狩りの基本よ、覚えておきなさい!」
「はい!分かりました!」
ー途端に俺でも分かるぐらい空気が変わった。
「・・・なんだ!?」
「しゃべるな!」
エニスが慌てふためいてそう言った。
エニスが慌てている? なんなんだいったい・・・!?
「隠れるぞ!」
エニスの指示で俺たちは近くの茂みに隠れた。
「こんな田舎にも足を運んでみる価値はあったな」
「そうね、まさかこんな上物が見つかるなんてね~!」
遠くから男女の声が聞こえてきた。
・・・こんな樹海に来るやつなんているのか?
二人組が姿を現した。一人は、前髪をかき上げた銀色の長い髪に鋭い目つきをした男。
もう一人は、金髪のショートヘアにパッチリと大きな瞳をした女。
「あれ~? ね~クラウス。誰か私達のことを見ているみたいよ」
「そうみたいだな。三人? いや、四人といったとこか?」
ー瞬間、男はそこから姿を消した。
「後ろだ!」
エニスはそう叫び、既に戦闘態勢に入っていた。
気が付くとクラウスと呼ばれていた男は、俺達の背後に立っていた。
何だこいつ!? 一瞬で俺達の背後にまわった!?
しかも何なんだこの気配!? 近くだから分かる。こいつはマジでやばい気がする。
「おや? よく気が付いたね?」
「そんな魔力をだだ漏れにしてれば、誰だって気が付くさ!」
「ほぉ~。まだ若いとはいえ、魔力を感知できるとはな。丁度いい少し試してみるか」
そう言ってクラウスは胸元から何かをとり始めた。
「エニスさん!なんかこいつやばいですよ!!」
「そんなもん、言われなくても分かってる!」
「なら、ここは一旦退却しましょう!」
「・・・退却できれば良かったんだがな」
「残念、逃がしはしないわよー」
先程いた場所からこちらに向かって金髪の女が歩いてきた。
・・・挟まれた!?
「目的は何でしょうか?」
アリスが相手の気を荒立てないように聞いた。
「君達には用はなかったんだけどね。君達を見つけた途端、少し試したいことが出来たんだよ」
何だよ、その理由は。俺達が見つかったのはただ運が悪かったってことか!?
「試したい?うちらがあんた達のお役に立てることなんてあるとは思えねーけどな」
「そんなことはないさ。偶然会った君達には悪いがここで死んでもらう」
「・・・!?」
死んでもらうって!? こいつは何言ってんだ!?
俺は訳が分からず、三人の方を見てみると皆狼狽えた表情をしていた。
・・・そうだよな。いくらこの子達が魔法を使えようが、こんなやばい奴から殺意を向けられればそうなるよな
実際俺も滅茶苦茶こえーし。しかし! 今此処で俺がしっかりしなくてどうする!?
この子達はまだ子供! 大人の俺が守らなくては!!
「あの~少し話し合うことは出来ないでしょうか?」
「話し合い? そんなもの無意味だな。何故私がお前らみたいな人間と話し合わねばいけないのだ?」
「・・・お前らみたいな人間?」
「無駄だ! あいつはな・・・・・・『魔人』だ」
エニスが俺にそう告げた。