第十三章 初戦闘
ー樹海に入り二十分程度経過していたー
「師匠、俺にクマなんて倒せるのでしょうか?」
「そうね、ただのクマだったら何とかなるかもしれないけど、魔物ってなると正直倒せる保証はないわね!」
「えええ!?倒せる保証ないんですか!?じゃあ尚更慎重に行った方がいいのでは・・・?」
「まぁ話しは最後まで聞きなさい!倒せる保証がないってのは、あんた一人で戦った場合の話よ!」
「・・・では、師匠達もサポートしてくれるってことですね!?」
「そういうことよ!」
よ、良かったー!どうやら勝算はあるみたいだな!
「だけど何故クマを狩るのでしょうか?」
「普段はこの辺で大人しく暮らしているのだけれど、この時期になると食べ物を求めて人里に降りてくるのよ!」
「なるほど!で、魔法を使える俺たちが相手をするってわけですね?」
「そういうことよ!因みにこの辺のクマは気性が荒いから気をつけなさい!!」
「そ、そうなんですか!?」
「はい。この辺のクマは『インフェルノ・ベア』といって炎を吐き出してきますので気を付けて下さい」
アリスが話に割って入るように言った。
「えええ!?クマが炎を吐き出してくるんですか!?」
「はい。何故かは分かっておりませんが、強敵ですので油断は禁物です。」
いやいや、やばすぎじゃん!
インフェルノってなんだよ!地獄じゃん!!めっちゃ強そうなんですけどぉぉ!?
それに初回から戦うレベルの魔物じゃないよね!?もっと野兎とか小鳥みたいなやつにしようよ!?
「確かに私が初めて相対したときも震えが走ったわ!」
ほら師匠もこう言ってるし!
そんな話をしていると、近くの茂みから「ガサガサッ!」と音がした!
「まさか!?」
「ついに来たわね!」
「皆さん戦闘準備を!」
「ようやく現れたか、腕が鳴るぜ!」
ついに現れるのか!?まだ心の準備が出来ていないというのに!!
「ガオぉぉ!」
と威嚇して茂みから現れたその魔物は、体は褐色の毛皮に覆われ、触れただけでも危険だと分かる鋭い爪!
まさにクマそのもの!!
「こ、こいつが!?」
しかしなにより一番特長的だったのは、大きさが「子犬サイズ」であったことだ。
いや、マジで!!すっげー弱そうなんですけどぉ!!
どう見てもクマだけど、このサイズはちょっと・・・
いやもしかしたら、こいつではないのかもしれない。きっとそうだ、うん。
「し、師匠。もしかしてこの魔物が先程言っていた『インフェルノ・ベア』ですか?」
「早くそいつから離れなさい!そうよ、その魔物が正真正銘『インフェルノ・ベア』よ!!」
「ええ!?この魔物がですか!」
「シオンさん、油断は禁物です!気を抜けばこちらがやれますよ!」
「油断も何もこのサイズなら・・・」
そ、そういうことか!?
サイズ惑わされてはダメなんだ!いくら弱そうに見えても、実際の力はどれ程かはまだ分からない。
何やってるんだ俺!目の前の敵に集中するんだ!
俺は深呼吸をして、目の前の「インフェルノ・ベア」に集中した。
「師匠!どうします!?」
「そうね!これ程の強敵は久し振りだけど安心しなさい!」
「さすが師匠!ってことは何か作戦があるんですね?」
「当然よ!私に任せなさい!」
そう言って師匠は詠唱を始めた。
「炎よ、捕らえろ!」
ー「インフェルノ・ベア」の足元に紅色の魔法陣が描かれた。
「フローム・プリズン!!」
そう師匠が叫んだ途端に魔法陣から炎が発生して「インフェルノ・ベア」を囲うように炎の格子が形成された。
「いまよ!これであいつは動きがとれないわ!」
「シオンさん今です!『インフェルノ・ベア』に止めを!」
「えっ!?俺ですか!?」
「てめぇ以外に誰がいんだよ!いいからさっさとやれ!」
「は、はい分かりました!」
「我が手に宿れ、エスパーダ!」
俺は「エスパーダ」を発現させ、「インフェルノ・ベア」に向かって剣を振り上げた。師匠はタイミングを見計らい「フローム・プリズン」を解除させた。
俺はそのまま「インフェルノ・ベア」に向かって剣を振り下ろした!
「ガオぉぉぉ!」
「インフェルノ・ベア」の断末魔が辺りに響いた。
「やったのか・・・!?」
「安心するのはまだ早えぇ!そこから離れろ!」
エニスにそう言われたので、直ぐに離れた。
ー途端に「インフェルノ・ベア」がこちらに向かって炎を吐き出した。
「ほ、本当に炎を吐いた!?」
「アリス!」
「わかっているわ!」
アリスはエニスに呼ばれる同時に詠唱を始めていた。
「水よ守れ!アクア・キューブ!」
アリスの周囲に蒼色の魔法陣が描かれ、そこから大量の水が出現ーその後、俺達全員を囲うようキューブ状に形を変えた。
これがアリスの水魔法か!
「インフェルノ・ベア」の炎は、「アクア・キューブ」によって防がれ、消えてしまった。
「・・・さすがアリス先輩!お見事です!」
「なんとか防げたみたいですね!」
「インフェルノ・ベア」の方を見てみると最後の力を振り絞ったのか、地面に倒れ動かなくなった。
「今度こそやったんですかね!?」
「どうやらそうみたいですね!」
「やったじゃない!さすが私の弟子ね!」
「やったじゃねーか!」
師匠とエニスが俺を叩いてきた。
「いやー、何とか皆さんのおかげで!」
とは言いつつも、俺ただ近づいて剣を振り下ろしただけだしな・・・
何か倒した感じがしないな。
・・・でもいっか、初戦闘で怪我だってしてないし、何より皆の足を引っ張らなかったんだ。
これはこれで十分だな。うん。
こうして、俺の初戦闘ー「インフェルノ・ベア」戦は勝利に終わった。