第十二章 不安
「ではこの基本隊形を保ちつつ、いま説明した作戦で行きます。宜しいですね、シオンさん!」
いまアリスが説明した作戦とはこうだ。
【アリス作戦】
前衛:シオン・エニス 近接攻撃 シオンがメインで戦闘
中衛:ジーナ 状況によって前衛・後衛で戦闘
後衛:アリス 遠距離攻撃・サポート
ー以上ー
「皆さんの戦闘スタイルを考慮しましたので大丈夫かと思います!」
「さすがアリスね!これなら完璧だわ!」
「ああ、問題なさそうだな」
いや、問題あるわーー!!俺初めて戦うのに前衛やるの!?しかも前衛のメインは俺かよ!
最初は様子見とかないんですか!?
「自分が初めから前衛で大丈夫でしょうか・・・?」
「大丈夫よ!あんたなら出来るわ!」
いやー、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどね師匠!
その根拠はどこからくるですか!!
「てめぇの魔法だと、前衛しか出来ねぇだろうが!あんまり文句言ってるとはっとばすぞ!」
「どこか不安なところがあるのでしょうか?あれば遠慮なく言って下さい!」
んー、それがね。不安だらけなんだよね。
どこをどう説明すればいいのやら・・・
俺は元いた世界のことを思い出していた。
ーサラリーマン時代の頃の記憶ー
「よし!これで準備は万端だな!」
俺の会社の先輩だった。
「先輩すみません。ここが少し不安なのですが・・・」
「あ、あぁそこな。まぁ何とかなるだろ!」
「そうなのでしょうか?この資料だとここら辺が突っ込まれそうな気がしそうなんですが・・・」
「そんな細かい所気にしたってしょうがないだろ。大丈夫だって!俺が何とかするよ!」
「そ、そうですよね!すみません自分なんかが口出しなんかしてしまって!」
「良いってことよ!それより今日は飲みに行くぞ!」
「はい分かりました!」
プレゼン当日
「ここ少し気になったんだけど、何でこう思ったんだい?」
先輩は専務から質問をされた。
「そこですか?そ、そこはですね・・・」
「ん?どうした、何か根拠があったのではなかったのか?」
「こ、根拠はですね・・・」
「しっかりしてくれよ。会社の存亡が関わってるのだよ。これでは話にならないよ。」
「す、すみません。リサーチ不足でした。また一から作り直します・・・」
先輩の顔は真っ青になり、今にも泣きそうになっていた。
「そこの君も一緒に作ったのだろう?」
「は、はい。」
「人任せにしてはダメだよ。君もしっかりしなさい」
「はい・・・申し訳ありません・・・」
ー以上ー
先輩しばらく元気なかったな。
それはそうだよな、俺もあんなにきついこと言われるとは思わなかったし。
そしてこれから行う魔物狩りは、あのときの似たような状況だ。
このまま行けばあの時の二の舞だ。
どうする?どうすれば防げる?考えるんだおれ!
そんなことを俺が考えているとエニスが痺れを切らしたように言ってきた。
「てめぇ、もしかして怖わいのか?」
「いえ、そんなことは・・・」
「ならさっさと行くぞ」
「し、しかし・・・」
「ならなんなんだよ?」
「まだ不安材料が山ほどあります。このままでは上手く行くかどうか・・・」
「そうやって行く前からビクビクしてっからダメなんだよ。行けば直ぐに慣れる」
「・・・しかし今回は生死に関わります。自分が危険にさらされるのは構いませんが、自分が足を引っ張ることで皆さんに危険が及ぶ可能性がある以上、簡単には決断できません」
「ああん?うちらがお前のせいでやられると思ってんのか!?」
「い、いえ、悪魔で可能性の話です」
「可能性って・・・はぁー、ったく面倒くせぇ奴だな」
「アリス、悪いがそいつ抑えててくれ」
「わかったわ」
エニスに頼まれたアリスは気が付くと俺の背後にまわっており、俺が逃げだす前に羽交い締めした。
えっ、なに!?
いったい何をするつもりなんだ・・・?
「覚悟は出来てんだろうな!」
「覚悟ですか!?」
「ああ。その腐った根性叩き直してやるよ!」
「えー!!腐った根性も何も自分は準備は念入りと思ってるだけですよ!!」
俺の言葉なんて聞いている素振りもなく、エニスは唐突に詠唱し始めた。
「大地よ、力を貸せ!」
エニスの右手に魔力が集まっていく。そして数秒もしない内に右手は土色の光を帯びていた。
「・・・何だ!?」
瞬間にエニスは俺の方に駆け出し、一瞬で俺の目の前まで間合いを詰めた。
「ま、まさか!?ちょ、ちょっと待って!!」
「寝言はな!寝てから言えってんだ!!『グランドナックル!!!』」
エニスは思い切り振りかぶり、「土色の光を帯びた右手ーグランドナックル」を俺の腹目掛けて放った。
ー気が付くと俺は樹海の入り口にいた。
「・・・こ、ここは?」
「ようやく気が付いたわね!」
「師匠俺はいったい?」
「あんたわね、エニスに殴られて気絶したってわけ!そして気絶したあんたをここまで運んできたってわけね!」
・・・そっか、そういうことか、って納得できるかー!!
「何故俺はエニスさんに殴られたのでしょうか?」
「自分の頭で考えることね!」
師匠はそう言って俺に教えてはくれなかった。
「起きたな、んじゃいくぞ」
「・・・エ、エニスさん!ちょっと待って下さい。まだ状況が飲み込めていません!」
「これからこの樹海に入る!魔物を狩る!以上だ!!」
なるほど!なんと分かり易い!!
ってそんなんで状況が分かるかーい!!
「わ、分かりました。しかし一点だけ確認したいのですが・・・魔物って言ってもどのような魔物を狩るのでしょうか?」
「そうだな、今日の狙いは・・・」
「今日の狙いは・・・」
「クマだ!」
「ク、クマ!?」
俺たちは樹海に入るのだった。