第3話 影身
ハークらは、眼前に立ちはだかるただならぬ気配に、身構え目を凝らした。
ただし、ひどい逆光のため、目が眩み、しばらくは暗い影として認識された。
背後の建物群の一様に白い壁が、余計に光を反射していたためだ。
「あんたら。少し話を聞かせてもらおうか」
低く通る声は、街のざわめきのなかでも、不思議とはっきり聞こえた。
その人物は、フードを深く被り、全身を覆い隠すようなケープに身を包んでいた。
その傍らには、もう一人、それこそ影そのものとしか例えようのない人影が。否、「それ」には本当に足元の影がなかった。
むしろ、そちらのほうに異様な気味の悪さを感じるのだ。
目が慣れてくると、男性の声の主は、片青眼の青年だということがわかった。
ますます、警戒してしまう。
ハークは、これまでの反射でロゼを背後にかばった。
実際、それよりも先にアルフレッドがそれを果たしていたが。
「その女は獣使いだろう。国の正式な許可はとっているのか」
ハークもアルフレッドも、押し黙った。
これまで幾度となく、繰り返されてきたやりとりではあったが、今回は事情が違うようだった。
少なくとも、公権力というだけではなさそうだ。
重大な局面では、ロゼの出方をうかがうのみ、というのは暗黙のうちに決まっていることだった。
しかし、緊迫した空気の中、背後から意外にもあっけなく彼女の答えは出されたのだった。
「いいわ。ここだと邪魔になるから、場所を変えましょう」
ハークは正気かよ、と拍子抜けした。
「おい、ロゼ。あいつら見りゃわかるだろ。絶対おかしいって」
というか、以前フィルに疑いをかけられたときは、あんなにむきになっていたのに、と。
しかし、ロゼの声は、すっかり「いつも通り」のそっけなさに戻っていたのだ。
ロゼは前を向いたまま、小さく呟いた。
「フィル。適当に説明、頼むわよ」
「あ、いや、ううむ」
歯切れの悪いフィルの態度に、アルフレッドも無言の目くばせで念を押す。
過酷な旅の中で、利用できるものは骨の髄まで、という二人であった。