8話
昼休憩を告げるの鐘がなりました。
「さぁ~て。終わりね。」
「じゃ、早速保管庫行きましょフェテシアさん!」
「休憩の時間はしっかり休憩をされた方が良いのでは?」
「もう!膨大に資料がある保管庫から目的の物を探すのは大変じゃないですか!私も手伝います。」
この政務館の保管庫は資料こそ長期間保存されていますが、管理体制がまるでダメで種類別に保管したり、日付もぐちゃぐちゃで目的の資料を探すのは中々骨が折れます。
王都の資料庫ならこんなことは無いのですが、地方都市ぐらいならこんなものなのかもしれません。
時間を見つけては整理しているのですが、さっきも話があった通り仕事が忙しく遅々として進んでいません。
「あっ!じゃあわたしも。」
「そうね。気になるし皆で手伝いましょうか。」
その他にも手伝ってくれる方が手を挙げて、挙げ句には執務官気長が皆で手伝いましょうかと言ってしまいました。
それに対して皆さんは特に嫌がる様子もありません。
ですが…………。
「私の私用に皆様を巻き込むわけには………。」
「フェテシアさんって何時も頼られてばかりで頼ったこと無いでしょ。」
「そんなわけは………。」
…………頼ったこと位ありますよ………えーと…………そうです!昨日はアリア様に噂話についてお願いをしました!
それ以外は記憶に無いですが…………。
「ねっ、フェテシアさんはもっと周りを頼らなきゃいけないわよ。フェテシアさんかなり優秀だから頼られるばかりで人一倍しっかりしなきゃと思ってるのかもだけど、結局人が1人で出来ることなんてたかが知れてるのよ。……それにある筈の嘆願書が無いのならうちのミスかもしれないし、ついでに保管庫も整理することにすれば業務の範囲にもなるわ。休憩時間はズラして資料の確認が終わったら休憩に入りましょ?」
「休憩時間を勝手にズラして良いんでしょうか?」
「いいのいいの。別に仕事をしてない訳じゃないし。もっと気を抜いて仕事しなさい。……まあ、あの娘程マイペースじゃダメだけど。」
「うぅ~!」
「………では、皆様の力を貸して頂けますか?」
保管庫の捜索を始めて30分程度経ったでしょうか?
目的の資料であるここ一ヶ月の嘆願書が見つかりません。
「あー無いよぉー!」
「だからあんたは飽きるの早すぎだから!」
「それにしてもここは何故こんなにぐちゃぐちゃなんですか?私は一ヶ月前にここに来たばかりなので………分からないんですが。」
私の疑問に対し執務官長が答えてくれます。
「それは……私が来たときからですね。一度は整理しようとしたんですけど、当時は今以上に忙しかったですし、資料を整理したところで古い資料を見なければいけないような事なんて殆ど無かったので……いつの間にか整理しようとすることは無くなりましたね。」
「なるほど…………。」
「あっ、フェテシアさんこんなの見つけましたよ。」
そう言って持ってきてくれたのは、ここ数ヵ月間の衛兵巡回記録です。
「衛兵記録ですか。確かにこれを見れば大体のことが。」
衛兵の男性に人には広めるなと言われたので皆様には内緒にしてますが、衛兵隊の皆さんは上に上申していたと言うことですし、この衛兵記録に何かしら情報を残している筈。
「ぇーとここ最近の記録…………。」
…………ペラ………ペラ…ペラペラ。
おかしい。
この記録に何も書いていない?
「うーん?酔っぱらいに傷害事件…まあ、事件はあるものの概ね何時も通り、……特別町に異変は無いみたいですねぇ。」
「何……で……?」
日付を確認しましたが抜けなどもない。
と言うことは実際に失踪者に関して衛兵は何も記録を残していないということ?
「あっ、ありましたよ嘆願書記録。」
「すいません見せてもらっても?」
嘆願書記録を見せてもらい確認する。
「税体系の見直し……街の拡張……あとは両替商達からの帝国への渡航制限・渡航税の緩和依頼?」
「肝心の失踪者の話は無いですみたいですよ。やっぱりただの噂話ってことですよ。」
衛兵の方には秘密にしろと言われましたが………これは明らかに…………。
「…………実はですね。衛兵の方に聞いたんですが、少なくとも確実に20人は失踪者が居るみたいなんです。衛兵隊でもおかしいと話題になっていて、領主代行官様にも伝えているみたいなのですが、中央からの騎士が来るまで表に出すなと言うことになっているみたいなんです。」
「それってつまり私達執務官を含む政務館職員にも話が広まらないように資料を隠してるってことですか?」
「いや、これは………恐らく…。」
「レルモンド王国法8条16項3号において≪国の定めによって作成が義務付けられている公文書を国王の許可なく偽造・書き換え・隠匿してはならない≫とあります。嘆願書の制度はあくまでこの都市で導入しているシステムによるものなのでこの法には該当しませんが、衛兵記録と事件・事故記録帳簿の作成は国が制定したものです。いくら都市の混乱を防ぐ為とはいえ、地方領主がこの様に偽造して良いものではありません。失礼な言い方にはなりますがこの程度の案件で国王が偽造を指示するとも思えません。ましてや衛兵隊が領主代行官様に上申してから数日の今、この事自体まだ国の中枢には届いていない筈です。普通であれば私たちにも事情を説明し、書類を部外者に見せないように管理を厳格化させるのが適切だと思います。」
「…………フェテシアさん…もしかして王国法全て覚えてるんですか?」
「……いや、それどころじゃないわよ。普通は資料作成・保管を指示したのが国か領主かなんて知ってる人間はそうそう居ないわ。私だって正確に把握してないもの。…それを……フェテシアさんって一体………?」
執務官長さんが聞いてきます
「えーと。それは秘密で良いでしょうか?」
「それでフェテシアさんが言ってたのって結局どういうことなの?」
「つまりは領主代行官様はほぼ確実にレルモンド王国法に違反してます。書類の偽造はかなりの重大犯罪に分類されている筈ですよ。」
「えっそれって。」
「もし代行者様が指示したのであれば、代行官様は男爵家次男だった筈なので………最低でも現役職剥奪・資産没収・爵位降格、場合によっては貴族位剥奪処か労働奴隷落ちすらあり得ます。国に嘘をついていることに同義ですから。」
「………もしかして、私達かなりヤバイことに気付いちゃった?」
「…ふむ………想像される単語は口封じ・監禁・殺害・肉片・遺棄………この辺りですかね?」
「っひゃぃ!………ひぐっ…やだよぉ~!じにだくなぁいぃぃ~~。」
あぁ。ちょっとした場を和ます冗談のつもりだったのですが泣いてしまいました。
申し訳無いことをしてしまいました。
でもなんででしょうそんな彼女の姿を見ているとゾクゾクします。
って!いつまでも彼女を泣かしたままではいけませんね。
「すいません。冗談のつもりでした。」
「ほらほら泣き止んで。フェテシアさんも冗談って言ってるし。」
「ねぇ。今日私は何も見てないことにしましょう。これ以上は危険だわ。」
「それが適切ですよね。私達……ただの平民ですし。」
確かにそうですね。
平民である皆様をこれ以上危険性のあるこの案件に関わらせては………。
ですが、私はこの事から逃げるわけにはいきません。
私は元貴族、しかも返上しているに過ぎません。
勿論、再び貴族に戻るつもりはありませんが、何時でも戻れる立場にあります。
政治に携わるものとしてこの事件を放置することはできません。
「さっ、昼休憩にしましょ。」