6話
アリア様の説明に対して疑問を感じて質問します。
「どういう事ですか?男爵家とはいえ貴族なら、それなりの回復魔術師との伝もある筈、結婚することが出来るほどの体力があるものがそんな短期間で死ぬことがあるんですか?」
「そうじゃないわよ。母は父親と結婚した時点でもう死にかけだったのよ。それに父親は母に対して回復魔術どころか治療する事すらしてないわ。」
それはどういう意味ですか?
アリア様の母親がもう手遅れで死にかけだから最後に喜ばせようとして結婚したと言うことですか?
………逆に…そんな優しい男が自分の娘とその母親を過酷なスラムに10年間も放置するでしょうか?
「何を考えてるか知らないけど、あの男は母に対して一切の興味はなかったわ。あの男は良家出身第一婦人との間に子供が出来なくて後継ぎに困っていて、昔気紛れに手を出して孕ませたメイドの事を思い出し、その子供を手に入れたかった。ようやく見つかった母子は都合が良いことに母が死にかけ、父親は形だけの結婚をし治療を施さず死ぬのを待った。そして、母が病死して私は正式に父親のドモレ男爵家の娘となったわけ。」
………………。
「母は自分が都合が良い道具として扱われているのを理解してて、夫婦らしいことも一切していないのに「あの人と一緒になれるなんて……夢みたい」なんて言いながら死んだわ。そんな母親を見て…………私は惨めな最後だと思ったわ。」
「そんな言い方………。」
「他に何かあるの?愛した人間には一切の想いを抱かれること無く、ましてやその愛してる感情を利用され、死ぬことを期待される。…………惨めな人生以外の何物でもないでしょ?それを見て私は思ったわ。私も利用してやる側になるって。」
利用してやる側………………だからこそディル様や他のお三方を?
「まあ、幸か不幸か………まあ、少なくとも私にとっては不幸だけど、その2年後に父親と第一婦人の間に男児が産まれたわ。元々第一婦人にとって私は夫と身元も分からないような下女との間に産まれた穢らわしい女として扱われていたけど、一応唯一の後継ぎとして最低限の世話はされてたわ。だけど正当な後継ぎが産まれたら穢らわしい生まれの女である私の存在価値は消える。………父親も第一婦人も私の事をゴミのように扱ってきたわ。可能ならば直ぐにでも家から追い出したい。……でも社交界での御披露目をしている私を今更追い出したりなんて周りの貴族達がなんて思うかわからない。結局私は、あの人二人のストレス発散の導具として扱われてたわけ。」
そう言いながらアリア様は上着をはだけさせ、胸元を見せてくる。
「っ!」
そこには切られたような跡が幾つか見える。
「だからいつか私の事をゴミの様に扱ったあいつらを見下す為に勉強を怠らなかったわ。厄介払いとしてあの学院に入れられた後、同級生に王子がいると知った時利用してやろうと思った。かつて母を利用して目的を果たしたあの男の様に、私も王子を利用してあの男や第一婦人を叩きのめしてやろうと思ったわけ。だから人間の感情や恋愛、男を都合よく操れる方法まで、人心掌握に役立つ物なら何でも勉強したわ。」
…………。
アリア様にそんな過去が。
だからこその王妃でだからこそ、あんな無茶苦茶な方法で…………。
思い返してみれば、学院居た頃のテストは、成績上位者の殆どが金と時間を掛けて勉強している者ばかりなので、必然的に侯爵や伯爵・公爵なんかが上級貴族ばかりなのに、男爵家であるアリア様が学院のテストで順位10位以内を安定して取ってました。
…………それもかつての努力の証だったというわけ……ですか…………………………。
「ちょっ!あんた泣いてんの?」
指摘されてから目元に手を当てると指先に冷たい感覚があった。
「すいません。………泣くつもりなんて無かったのですが………何故か。」
今まで人前で泣いた覚えなんて無いのになんででしょう?
「あんた………いつの間にワインボトル空にしたのよ?それが原因でしょ………。まあ、あんたに泣かれても困るわよ。………………それに結局ディル達の四人を落としたものの、あんたを排除しようとしたあのパーティーであんたに負かされてから罰として実家の男爵家はお取り潰しになったし、まあ多少鬱憤も晴れたしね。」
ん?ワインボトルを空?
「あれ?いつの間に?……………そういへば、少し視界が歪んでるような?」
「はぁ。初めての飲酒のくせに飲み過ぎ。………………今考えてみれば学院時代にやたらと貴女を貶めようとしたのもそれが原因か…………、王子を狙う上での障害というだけじゃなく、国に、親に、家に、王や王妃に、ディルに、貴族・平民に、色んな人達の為に貴女は人生を費やすことを強いられてるのにそれを理解しながらもその一切を受け入れ、当然の様にこなしてる貴女がなんとなく死ぬ前の母の姿に重なって見えて動揺して、その事実に反発して、それで貴女を陥れようとしてたのかもしれないわね。」
「ふぇ?何か仰いましたか?」
うーん?
アリア様が何か言ってるのは分かるのですが、何故かその音を言葉として理解できないというような感覚です。
「あぁ~聞かなくても分かったわよ。あんた酒弱いのね。もう目の焦点合ってないわよ?」
「んーん♪」
アリア様が面白そうにニヤリとされています。
「まあ丁度いいわね。私も話したんだからあんたも過去の話をしなさいよ。」
「私のお話ですか?」
「そ、あんたも話さないんじゃ不公平でしょ?…………思考もフワフワしてるみたいだし、あんたの秘密話でもうっかり話してくれれば良いわね。正気になったあんたに言ってみたらどんな反応をするか………。」
私の話を……私の………。
あぁ!以前から私の忠告やマナーの指摘を一切聞いてくれなかったアリア様が私の話を聞きたいって仰ってます!
「私の話ようやく聞いてくれるんですね!……あぁ……。それならば早速貴族としての気品ある優雅な姿をアリア様が出来るような所作の勉強を!」
「え?いやそういうのじゃなくてあんたの過去の話を聞きたいんだけど?そもそも私達はもう貴族じゃないでしょ。」
貴族じゃない?
何を言ってるのでしょうか?
「男爵家だからって…………そんな嘘ついて逃げようなんて許されませんよ?そんなだらしない姿ではアリア様のお母様が天国で悲しんでしまいます。そんな事があっては申し訳無いです。」
「この女……酒に酔ったらとんでもなくめんどくさくなる女だったのか………記憶どっかに飛んでってるんじゃないの…?………そもそも私の母はそんな事気にする程細かくないわよ。生きてりゃそれだけで喜んでる筈よ。」
「あんな品の無い態度では折角こんなに可愛いアリア様が嫌われてしまいますし、アリア様を隣に置かれているディル様の品格が疑われてしまいますわ。私と一緒にディル様を支えていくならそのくらいの事はしていただかなくては………。」
「はぁ?あんた何言って………………。まさかあのパーティーの時に言ってた私の事を側室になっても構わない。ってやつまじで言ってたの?」
「?パーティー………なんのことですかぁ?……よく分かりませんが、悔しい事にディル様の心は心は私には向いていないので私が政治面で、アリア様が心の面でディル様を支えていくんですよね?私がディル様に出来ることなどその程度ですし………。」
話していて少し悲しい気分になってきましたが、色恋はなくともディル様を支えていけるなら私は報われます。
しかし、目の前ではアリア様が呆れたような表情をしてます。
それにしてもさっきから思考がはっきりしませんね……。
「まずは姿勢から、後はその甘ったるい猫の様な喋り方も………喋り方?あれ?。」
アリア様ってこんな喋り方でしたっけ?
そんな事はどうでもいいですね。
「そもそも貴族とは民からの血税で生活している人間です。その意義は民に尽くすこと、その為に色々するのでしたら気品もマナーも必要なのですよ!」
「いや………もう遅いって…………。」
「ダメですよ!まずはそのアリア様の考え方をですね。そもそもマナーというのは・・・・・・・」




