12話
「………っ!!はぁっ!はぁ!はぁ~はぁ~………はぁ~………。」
相手の姿が消えた瞬間に緊張の糸が切れてようやく息が出来るようになりました。
過呼吸気味になりながら、崩れ落ちるように道路にへたり込みます。
「協定?奴等?内情?」
あの人達はただ金や性欲を満たすためだけの為に女を拐っている訳では無いと言うこと?
鼓動が落ち着かず思考が纏まりません。
あのまま戦っていれば、私は確実にあの男達の性欲を満たす道具として扱われる結果になっていたはず………その事実に恐怖し、思考が乱れます。
一度休憩を挟み、街への歩みを再開しながら思考を整理します。
まず気になるのはあの男達の正体。
どう見てもただの盗賊には見えませんでした。
そこで一つ気になるのはあの男達が着ていた装備………………王都に居たときから何度も見たことがあるこの国の騎士団の装備……、おまけに「国の為に危険を承知で働いている」という言葉……つまりは王国の騎士だということ?
だけど前も考えたけど、この国の騎士が集団で犯罪行為をするのは不可能なはずです。
そして、アリア様からの手紙の情報を考慮するともう一つの可能性が浮かび上がります。
それはあの男達が王国騎士団に偽装した帝国兵士である可能性。
思い返してみれば、男達の話す言葉には独特の訛りがありました。
………あれは確か……………かなり前に社交界で出会ったミルガ帝国貴族も似たような訛りだった気がします。
…………男達がミルガ帝国兵士である可能性が高まりました。
最後に敢えてあの男がアピールするように国を守っていると告げてきたのも、王国騎士であると誤認させる為のブラフであったという事になります。
ただ、そうとするならば気になるのは、男達の入国方法や持っている装備の入手方法。
国境には騎士団が居る筈なのに………おまけに騎士団の正規装備まで………。
もし、王国騎士を殺害し装備を奪ったのであれば少なくとも4人は殺していることになります。
もしそんな事があったなら元々緊張状態にあった両国が戦争に突入していないと言うのは考えにくい。
そして、もう一つ気になるのは男達が話していた奴等、協定という言葉。
その言葉が真実なら帝国兵士達はなんらかの組織と協力関係にあり、その組織に都合の悪い人間を拐うと協力関係を失ってしまうかも知れず、私がその組織に関係がある可能性があるので襲うのを止めたということ。
帝国側の組織ならば王国民に配慮する必要は無い筈………とすれば帝国兵士達に協力している組織はレルモンド王国側の組織。
つまり………国を裏切っている!
そして、一番の候補は領主代行官。
政務館の資料を秘密裏に偽造して失踪者の真実を隠蔽しようとしていたことは明らかに明白です。
代行官が協力者だとすれば私を襲わなかった理由にも説明がつきます。
恐らく、貴族として産まれ生活してきたので、貴族の気配が私から滲み出ていたのでしょう。
私を貴族と勘違いしたのなら、代行官に近い人物であると考えて拐うのを止めたというのも理解できます。
………………あとは何か証拠を見付けて王都の貴族にこの情報を………。
お父様を仲介すれば直ぐに国の中枢まで情報が届きますが、ミフェル領はここから真反対です。
早目に証拠を見付けなければ捕まっているであろう他の女性達がどうなるかわかりませんし、どんどん新たな被害者が続出してしまいます。
証拠…………何か政務館に手掛かりが無いでしょうか?
男達に襲われたことにより動揺していたこともありかなり早足で政務館へ急ぎました。
「おはようございますフェテシアさん。って!どうしたんですか!?」
「へ?」
「汗でビショビショですよ!?」
「えっ!」
自分の姿を見回してみると汗で服が肌に貼り付き、体の凹凸がくっきり見えてしまっています。
そう言えば何時もなら必ず話し掛けてくる城門の衛兵さんも今日は顔を背けて直ぐに通してくれました。
………焦っていて気付きませんでしたが、こんなあられもない姿で街中を歩いていたなんて………。
恥ずかし過ぎて顔が赤くなってしまいました。
「何があったにせよ早く着替えましょうよ。風邪引いちゃいますよ。」
「は、はい。」
急いで服を脱いでからタオルで汗を拭い、仕事着に着替えます。




