11話
気付けば朝。
どんな時でも規則正しく正確に起きるこの体の事を少し嫌いになりました。
皆様に……何よりディル様に会いたくない………。
ですが、仕事があるのに部屋に籠ってサボる訳にもいきません。
「アリア様申し訳ありませんが今日の朝食は……。」
社交界でどんな相手と話しても、こんなに会いたくないなんて思ったことも無かったのに……。
鞄を手に持ち、誰にも遭遇することが無いようにこっそり家を出ます。
はぁ………?あれ?
「鞄に…なにか?」
街への道を歩く最中、心が落ち着かず何気無く鞄の中に手を伸ばしてみると見たことのない紙が入っています。
「これは………アリア様から?」
ーー昨日の件について一応報告しとくわーー
あんたどうも変な勘違いしてるみたいだし、私の話も聴かないかもしれないから紙にまとめとくわ。
例の失踪者の件について調べてたんだけど、居酒屋でやけに羽振りが良い男がいて、全く知らない新顔だったから少しあやしいとおもってね。
一緒に呑んでみたんだけどガードが固かったからうっかり薬使っちゃったんだけど……面白い話聞けたわよ。
薬はあくまでも軽く意識混濁させる程度の効果しか無かったから少ししか情報は手に入らなかったけど、その男はミルガ帝国兵で仕事の為、兵士隊の仲間と共に来ているって言ってたわ。
失踪者と関係あろうが無かろうが、仮想敵国であるあの国が兵士をこの国に集団で送り込んでくるなんてよっぽどのことでしょ?
しかも検問の騎士団が居るのにどうやって入国してきたのかも分からないしね。
情報を調べるのは構わないと思うけど、想像以上に根の深い問題っぽいわ。注意することね。
「………………手紙は以上ですね。」
まさか1日でここまで調べてくれるなんて………よっぽど一生懸命調べてくれた筈です。
それなのに私はディル様と一緒に居たことに嫉妬しあの様に当たり散らしてしまいました。
許してもらえるかは分かりませんが、今日帰ったら一言謝りましょう。
………………それにしても薬なんてなぜお持ちに?
「おはよう綺麗なお嬢ちゃん手紙を読みながら歩くなんて危ないぞぉ~?」
!?
気付きませんでしたがいつの間にか目の前に人が居たようです。
あれ?おかしいですね。
この先にあるのは民間と森くらいで、民家も私たちの自宅を含め数軒しかなく全員顔見知りです。
ですが、この男は知らない………。
手元の鞄に手を入れます。
「おっと?動くな? 」
男は銀色に輝く両刃の剣を向けてきました。
「嬢ちゃんは命が惜しいなら大人しく言うことを聞きな。可愛い顔に傷付けたくわないだろ?」
この男が噂の人拐い!?
いえ。他にもいる?
「へぇ………。近くで見ると余計に美人に見えるなぁ。」
「うひ♪今までのと比べても別格の容姿じゃないっすか?……本気でこいつ喰っていいんすか隊長。」
「壊すなよ。売れなくなる。」
後ろを見ると他にも三人の男が歩いてきました。
そして、こっちは全員剣を持っている上に全身鎧です。
これはかなりヤバイ状況ですよね?
これまでと比べてもという発言から考えてもこの男達が今までの失踪者に関与しているのは間違いありません。
しかも売れなくなるって………この国は奴隷の売買は国が管理しているので奴隷狩りなんて出来ないはず!ネテム領の何処かに裏の奴隷取引所があるということですか?
「貴女達のような男に体を許すほど安い体ではありませんわ。それに犯罪者でもない人間を襲い奴隷にしようとする行為は王国法に反します。今すぐ衛兵所に出頭してください。」
勧告する意味でも伝えましたが男達はまるで動揺する様子もなく、むしろ面白がる様に笑います。
「そんなこと知らないわけないだろ?衛兵ごときに怯えるとでも思った?」
「内心恐いのに強がってて可愛いねぇ♪」
「こういう女が心が壊れたときにどうなるのか見るのがいちばんすきなんだよ!」
これはダメですね………。
まるで話が通用しません。
それならば…………。
鞄に入れたまま動きを止めていた右手で中の物を掴んで取り出し相手を指します。
「[風よ【ウィンドバーン】]」
私が取り出したのは杖型の魔道具。
使いきりですが、上位の魔法である【ウィンドバーン】を使えるらしく、詳しい威力は知りませんがかなりの物らしいです。
値段は上等な家一軒分ですね。
「な、なんだ!」
「痛っ!」
カマイタチの様な風が相手全員を襲います。
最初に接触してきた軽装の男は体に無数の切り傷を作りダメージを与えることが出来ましたが他の三人は全身鎧だった為、鎧がへこむ程度でダメージを与えることは出来ませんでした。
「魔術師だと!?」
「このクソアマ!手足引き千切って犯すぞ!楽に死ねると思うなよ!」
相手は魔術の存在に動揺しているものの、それ以上に仲間を傷付けられたことに怒っており今にも剣を振るってきそうです。
さっきの【ウィンドバーン】が手持ちで一番の高威力だったのに………おまけに残りの使える魔道具なんてほんの少ししか…………。
「待てお前ら!」
しかしそんな状況で一人の男が声を挙げた。
「何で止めるんすか隊長!魔術師なんて三人で接近戦に持ち込めば余裕っすよ!」
「黙れ。」
どうやらあの男が四人の仲のリーダー格のようです。
事情が分かりませんが揉めているようです。
私にはまともに抵抗する手段が無い今、私の命は敵である彼の行動に掛かっています。
緊張のあまり息が詰まって苦しいです。
「こいつがさっき使った魔術の威力はかなりのものだった。ただの一般人じゃないだろう……。だが衛兵という格好にも見えない。ならば…………。奴等との協定に引っ掛かる可能性が高い。今の重要な時期に女襲ったなんて理由で内情を知る敵を作るリスクは許容できない。」
「ちっ!」
「俺らは国の為に危険を承知で働いているんだから、楽しむ権利があるんだよ。だが、ラッキーだったな。今日は逃がしてやる。」
そう言うと男達は道を離れ木々の向こうに消えていった。




