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10話

「何で……こんなところに居るんですか?ディル様?しかもアリア様と共に………。」


そこに居たのはディル様とアリア様。


「ん?あぁ!フェテシアか?珍しいなこんなところで。アリアの買い物に付き合わされてな。」


確か………ディル様は昨日も農具を買いに街に出ていました。

つまりディル様の用事はなく、言葉通り全てアリア様の用事に付き合っているということ。


「聞くまでもありませんよね…………。」


「どうした?」


「ちょっとディル!どうした?じゃないわよ!状況分かってんの!?」


アリア様………そんなに焦らなくても。

再びよりを戻されたのですね。

そんな状況なのにこんなところまで追い縋ってきた私はさぞかし無様だったでしょう。

もしや私の告白に対する考えさせてくれ。という答えは私に気を使ったものだったのでしょうか?


「すいません。仕事を正式にやめたら直ぐに家を出ます。アリア様と御幸せに。」


アリア様が急に食事を作り出したのにも納得がいきます。

愛しい夫に料理を作りたいというのは当然ですものね。

ですが、それを理解していようとも気持ちというのは中々言うことを聞いてくれないですね。

目頭が熱くなってきました。

これ以上みっともない姿を見られるのはごめんです。


「失礼します。」


気付いた時にはいつの間にか家にある自室の中に居ました。

どうやら動揺していてまるで記憶に無いですが、無事に家に帰ってきていたようです。

家の外に目を向ければもう日は落ち真っ暗になっています。

食糧品を買うのは忘れてしまいましたが、夕食を作るのは私の仕事です。

ですが、体が言うことを聞いてくれず、ベッドを離れようとしてくれません。

こんなことは人生で初めてです。


「ああ、こんな結末になるならこんな所まで来るんじゃなかった。」


まあ、考えてみれば愛想もなく会話も出来ない私より、可愛くて愛らしいアリア様の方を選ぶのは当然です。

ましてや政務を離れ、私の唯一と言っていい長所の使い道を失ってしまった今、私はただの世間知らずのお嬢様に過ぎません。


この家はアリア様とディル様の愛の巣。

今更私が未練がましく残っていてはディル様も気を使います。

それどころか王都を離れ、真の意味で自由な同棲生活を贈ってたいたところに来た私はただの邪魔者に過ぎません。

………………ですが、私の事が邪魔だったら追い払ってくれれば良かったのに………それなら私はこの家でディル様の新たな一面に更に心を牽かれることなく、悩まずに去ることを出来たのに………。


「これからどうしましょうかね。」


爵位を返上してまで男を追いかけて辺境に行った娘が二度もフラれて帰って来たとあってはお父様も悲しむでしょう。

この際このままこの国を出て他国を旅してみるというのもいいかもしれません。

………この国に居ては未練が残ってこの気持ちを忘れることが出来そうにないですから。

そんな風に考えていると扉の向こうからアリア様の声が聴こえます。


「フェテシア。あんたに話があるんだけど。」


ビクッ!


聴きたくありません。


「…居るんでしょ?私相手に居留守使うわけ?………いいわ勝手に……開けるわよ?……!って!鍵かかってんじゃない!」


私は普段は部屋に鍵をかけております。

記憶が飛んでいて不安でしたがどうやら鍵も無意識のうちにかけていたようです。


「ちっ!スラム出身を舐めんじゃないわよ!………このくらいならねぇ………。」


…………ガチャリ。


「ふっ!開いたわ。」


嘘………鍵を開けてしまうなんて………。


「あらあら、天下のフェテシア様がベットの上で蹲って呼び掛けを無視………珍しいものが見れたわね。」


「………………なんですか………無様な私を笑いに来たんですか?」


「あのフェテシア様の自虐なんて笑えるもの…………学院のみんなに見せれないのが残念だわ。」


「それは………ただ単に自覚したと言うだけです。所詮私なんて国や家の命令通りに動く歯車としての価値しかありません。役割を見失った操り人形に、平民になったディル様が求めることなどなにもありませんよね。…………愛想もなく、料理も家事も……何も出来ない人形と、美味しい料理を作り…可愛らしくて話上手なアリア様、比べるまでもありませんよね。」


「そうね。私は貴女と違って男にモテるために努力をしてるもの。可愛いし料理だってできるわ。」


その言葉を聞いてからは体が勝手に立ち上がり、アリアに食って掛かるように捲し立てます。

眼から涙が溢れだしてきますが、それに構っていられません。


「私だって努力してきた!………………ディル様が婚約者として私を愛してないことくらい始めから分かってましたわ。……でも…私だって愛しの殿方に想いを馳せながら料理を作ったり、共に語らい合いながら愛を育みたかったです!…………ですが未来の国母としての立場が…何よりディル様の心が、けしてそれを赦してはくれない。…ならばせめて私は……勉学を重ね、教養を高めることで、愛して貰うことは叶わずとも……国母としてディル様を支え、あの方の唯一の存在として支えていくことができる。………そう確信していました!だから頑張った!ですが、貴女は………私が想いを馳せながらも諦めたディル様の想い人という立場を簡単に手にいれました。………それでも私は我慢できました。私にはまだ国母としてディル様を支えるという唯一が残っていました。」


ですが、あのパーティーの際、結果がどうあれディル様はアリア様を後妻にするのではなく、正妻として国母にしようとした。

つまり、アリア様はディル様に私という人間を捨てさせる事を決断させた。

それは、私が産まれて努力してきた全てですら、ディル様にしてみればアリア様と比べてみて、切り捨てて問題ない程度の物だったということ。

私の努力が間違っていた?

勉学だって楽しいわけじゃなかった。社交界で見ず知らずの大人と腹の探り合いをするのは怖かった。

睡眠時間、友達と遊ぶ時間、全て投げ打った。

心が折れそうになったときに支えになった存在はディル様だった。

あの方が国の為にと私より幼い頃から努力をしてきたと聞き、将来は国一つ動かす立場になるというその重責を少しでも軽くしてあげたい……そう思った。

私が頑張ることがディル様の為になる!その事実のお陰で頑張ってこれた………。

………ですが、ディル様がアリア様と仲睦まじくしながら私の事を煩わしく見てくる(さま)を見て、ようやくそれが無駄な努力であったと理解することができた。

だからこそ、あのパーティーの後にもう一度努力し、女として自分を磨き、今度こそ愛してもらおう……そう思うことができた。


「あのパーティーの日にディル様が何かしら仕掛けてくるのは始めからわかっていました!もし、ディル様が失態をし、王族としての立場を失うことになれば、それの権力を求めていたであろうアリア様は消えて………今度こそディル様の隣に寄り添い、愛し合えるような関係に成長する…………。そのはずだったのです!それが蓋を開いてみれば、アリア様が再びディル様の唯一を手にいれている。」


私がディル様の婚約者であった学院時代ならいざ知らず、今のディル様と私にはなんの関係もありません。

ただ追ってきただけの私が今の二人の関係に文句を言うのは間違っている。

ですが、理屈では納得していても心がそれを認めれません。


「アリア様には他にも幾らでも居るではないですか!私には……私にはディル様しかいないのです。私の諦めた全てを容易に手にいれた癖にそれを簡単に捨てて………ならば、私もと再び夢を見させた後………………なぜこうしてその夢を奪うのですか!…………私はただ、愛が無くても王であるディル様を支えて行けたならそれだけで幸せだったのに……………私は何を頑張ればよいのですか?何が足りないのですか?私はまた再び努力の方向を間違えているのですか………?どうすれば貴女を越えられるのですか?」


すがり付く様に泣きながらアリア様にもたれ掛かりながら質問します。


「ふーん。やっぱりあんたでも国の為だけにってだけで頑張るのは限界があったわけね。…………でもそんなこと言われても知らないわよ。でも一つ教えてあげる。私は権力も持ってないディル程度の男に興味は無いわ。王子だった頃からあの男は偏見ばかりでめんどくさかったのよ。」


「で。ですが今日…………。」


「あれは失踪者の話を聞いて用心棒に連れてきただけ、買い物の件も明日の朝食の食材が思ったより量が多くなりそうで荷物持ちに使っただけ。」


「…………そう………なんですね。」


ならアリア様とディル様の間に特別な感情はない?

なら再び私は夢を見てもいいの?

…………いえ。もういいです。

期待して裏切られるのも、努力が無駄になるのも、………頑張るのも疲れました。

期待して裏切られるのはとても辛い。

それならもう何も私は期待したくない。

それにアリア様以外にも市井の中には私より優れている人なんて幾らでもいます。

ディル様の容姿と教養を持ってすれば選り取り見取り。

私を敢えて選ぶ理由はありません。


「ふーん。まあなんでもいいけどね。あのフェテシアがそうやって自暴自棄になってるのが私のせいなんだと思うと優越感もわくし、ずっとそうやって諦めてればいんじゃない?前のあんたなら自分に自信を持ってて周りに振り回されたりなんてせず、自分の想いを貫き通してたわ。………言いたいことはそれだけ。じゃあね。」


顔を地面に向けながら倒れ込んでいるので見えませんが、足音が遠ざかっていきました。

自分に自信を持っていた?………井の中の蛙だっただけです。

外を知り客観的に見て、爵位を失い政治に携われなくなった私自身になんの価値も無いことを知りました。

あぁ………こんな想いをするのであれば恋なんて知りたくなかった。

ただの政略結婚……そのままであれば今のように私自身の気持ちに振り回される事は無かったのに。


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