表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/14

1話

窓の外がほんのり明るくなってくるのを感じて彼女は眼を醒ましました。


2階にあるこの部屋の窓の外を見ると、手前には畑、その奥には地平線まで森があるのが見えます。

森の自然と明け方の雰囲気も相まってとても良い景色ですね。


「さて、気合をいれましょうか。」


鏡台の前に座り蝋燭に火を灯して、髪を整えます。

化粧も整える程度の最低限、ほんの1ヶ月前は毎朝一時間ほど時間を掛けて準備していました。

以前の私では考えられないことですがこの最低限にも少し慣れてきました。

そのまま服も茶色や白色の地味目な服を着ます。


「こんな物で良いのですかね?」


こんな地味な姿でも自分の想い人にみすぼらしと思われたくはありません。

不安になって何度か鏡の前で何度か顔の角度を変えて確認しますが、今一つ不安はなくなりません。


「もう、陽が出そうですね。」


窓の外はかなり明るくなっている。


「そろそろご飯を作らないと。」


名残惜しいですが、朝日が出るまでにはご飯を作り終えないといけませんね。

鏡には別れを告げて自室を出てキッチンまで向かいます。


「パンは取り置きのもので良いとして………あとはサラダとスープですかね。」


食料庫から野菜を取り出して洗い、適当に切っておきます。


「さて、難関のスープですが…………。」


ふむ。

取り敢えず鍋に水を張ってタマネギとキャベツ・ニンジン・ジャガイモ・ソーセージを入れて……あっ、塩も入れないと!

いい加減塩を入れないと味がないこと位分かってきましました。


「さて、蓋をして読書でも。」


読書をしながら10分程待って味見をします。


「あれ?キャベツが………。」


キャベツとタマネギがグジュグジュになって無くなってます!

そのわりにジャガイモは少し硬い………。


「う………まだまだ道のりは長いですね。」


はぁー。

失敗してから作り直していては、初めてここで料理をしたときに起こった微妙不味い料理大量発生事件の再来になってしまいます。

仕方ありませんが今日はこれを頂くことにしましょう。


「朝からご苦労だな。」


「あら、お早う御座いますキュルェ様。毎朝御苦労様です。」


「そっちも朝から大変そうだな。」


あー。

大変ですよ。

料理なんて産まれてこのかたやったこと無かったものですから。

誰も手伝ってもくれないですし………。

まあ、口には絶対に出しませんけど。


この方は近衛騎士団長の父を持ち、元侯爵家で今は平民のキュルェ様。

夢は王国近衛騎士団長だとか?

毎日剣を降っては休んで剣を降っては休んでと仕事もしてないです。

まあ、私には剣のなんたるかは分かりませんが、私の様な抵抗も出来ないか弱い女性に振るった剣です。所詮大した剣では無いでしょうし、過ぎた夢でしょう。

こう見えても私は根に持つタイプなので!謝っても来ない相手を赦すつもりは毛頭ありませんよ。


「おはようフェテシア。」


「おはよーす。」


「おはようございますフェテシア様。」


そしてそこへ新たに三人の人影が。

順番に最初の方がディル様、以前までこの国の第一王位継承権を持っていた元王子、今は農家の真似事をしていて男性陣での唯一の働き手。

次の方はライシュ様でこの国の宮廷魔導師長を父に持つ元侯爵家長男、時々ディル様の手伝いをしていますが何かとサボって街に遊びに行くしょうもない所があります。

そして最後がアリア様、この国の男爵家出身の元令嬢。

この人は……………………何というか棒読みでわざとらしく様付けの丁寧口調で話し掛けて来てますが、私に向かってケンカを売ってるだけです。

ここで口論を始めればアリア様の思う壺なのでスルーです。

慣れました。


「おはようございますお三方。レレーシュ様はいつも通りですか?」


「いつも通り応答なしだ。」


はぁ。


「仕方ありません。また部屋にでもお持ちしましょう。」


今話題に出たレレーシュ様と言う人はこの国の宰相を父に持ち、代々大臣を歴任してきた歴史的な公爵家の長男。

他の人と同様に今は爵位を無くしていてただの平民です。

たまには一緒に朝食を取ることもあるのですが、基本的には別行動が目立ち当然仕事もせず、部屋に籠り本を読んだり研究をしたりしている様です。

勿論私も本は好きですが、そればかりで仕事もしないようでは本末転倒と言うものです。

そして最後に私はフェテシアと言い、父がこの国の外務大臣で侯爵家、そして私の爵位は返上中です。

必要があれば私は再び爵位を戻せますが、今のところその予定はございません。


さてさて、そろそろなぜこうも田舎の畑しかないような場所に沢山の元貴族が集まっているかをそろそろ語るとしましょう。

まあ、端的に言えば、王子であるディル様の政略結婚の対象として私と言う婚約者がおり、それにも関わらず男爵家のアリア様に惚れて私を邪魔に感じ、他の男三人もアリア様に惚れて追従。

そしてアリア様は未来の王妃の立場に憧れ、その位置にいる私を陥れるべく、ディル様達に私のアリア様に対するイジメ行為を有ること無いこと(ほぼ無いこと)吹き込み、それを鵜呑みにして社交パーティーの場で私を断罪しようとして私に嘘をバラされ叩きのめされ、四人揃って爵位や継承権を失いこんな僻地に飛ばされてます。ディル様なんかは今後の世代に悔恨を残す危険性があるからと世間的には死んだことにされていますし、他の人たちは実家の爵位を降格されたり取り潰されたりしてます。

因みに同じ家に暮らしているのはせめても四人が自分の行いを反省するようにと言う王の想いが反映された結果で、四人はここから別の場所に移り住むことを許されていません。

そして、私はディル様を追って貴族の位を返上してここまで来たという訳です


まあ、私は既にディル様の婚約者じゃないですし、王や王妃や父には国の重要ポストに入れるから残ってくれないか?と頼まれましたけど、幼少期よりディル様の婚約者として生きてきた私です。

今更他の生き方なんて出来ないですし、困ったことにあんなことがあってもあの人の事を嫌いにはなれないんですよ。

だから、こんな片田舎まで追い掛けてきて産まれて初めて気持ちを伝えたと言うのにそれに対する答えは「気持ちは嬉しいが……僕はそう易々と気持ちを切り替えれない。少し考えさせてくれないか」と言う最低な答え。

どう考えてもキープされてるだけですよね?私!

客観的に見ればどう見てもダメ男な筈なのに………恋心というのはどうにも困ったものです。


朝一番のディルの顔を見ながらフェテシアがそんな風に過去を振り返っているとテンションの低い声が食卓に響く。


「ねぇ。これ不味いんだけど。…………いつもいつもグチャグチャだったり味無しだったり進歩無さすぎない?」


声を発したのはアリア様。

王子を含め国の将来を担う筈だった四人を落とし、未来の王妃を目前としたところで私に論破されたので、やたらと私に噛みついてきます。

昔と違って猫を被っていない分、余計に厄介になってます。


「お、おい。折角フェテシアが作ってくれてるのになんてこと言うんだ。」


ディル様がフォローしてくれてますが、流石に私もイラッとしてしまいます。

慣れたとは言え、なぜかアリア様相手だとイラつきが我慢出来ない時があります。


「何もしないアリア様よりは幾分かマシだと思いますけど?」


笑顔でそう答えてあげます。


「何で私があんた達みたいな落ちぶれた人にご飯作らないといけないの?普通に考えて時間の無駄。」


「………私達は共同で暮らしてるんですよ?せめて全員の暮らしに貢献しようと言う気持ちは無いんですか?」


「別に一緒に暮らしたくて暮らしてる訳じゃないし、時たま様子を見に来る王の遣いが居なければ、直ぐこんなところ出るってのに…………。てか、そもそもその不味いご飯が皆の暮らしに貢献してるなんて思ってるの?むしろマイナスだから。女なのに料理も出来ないなんて流石フェテシア様ね。」


「私は………勉強中なんです!アリア様の様に只遊んでいるだけの人にそこまで言われたくはありませんわ♪」


アリア様はいつも街に行っては男に声を掛けて男から金を巻き上げています。

とても元貴族とは思えない品の無さです。


「モテない女の僻みはやぁ~ね。そんなんだから愛してた男も取られるんでしょ?」


「っ!………もう知りません。仕事にいきます!」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ