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51. ギャングたちの夜(3)

「勇者、だと……?」


 ラゴスのやつは露骨に胡散臭そうな顔をして、俺を睨みつけてきやがった。


 周囲を見回せば、俺とラゴス以外の戦況もすでに片がついていた。

 ラグナルはとっくにギャングどもを戦闘不能にしており、やつの周りの地面には兎耳種(ラビリス)の若者たちがうめきながら倒れている。

 武装解除されて気絶させられているものが大半だったが、中には腕や脚を斬り落とされている者もいる。

 ラグナル自身もところどころかすり傷を負っているようだったが、重傷を思しき傷はひとつも見受けられなかった。

 ……あのジジイ、マジで化け物じみてるな。


 アトリも無事なようで、ミーシャとクーファともども俺とラゴスのやり取りに視線を集めていた。

 平穏への未練を断ち切るように深く嘆息してから、俺はラゴスに向き直る。


「あぁ、そうだ。俺は異世界から召喚された勇者セツナだ」

「……てめえ、俺のことをなめてるのか? 勇者様がこんな掃き溜めにいるわけねえだろうが」

「掃き溜めって……ひどい言われようだな」

「実際そうだろうが。ギジェン帝国でも国境(ぎわ)の辺境にあるヴェラード領の、こんなひなびた居住区なんぞに、勇者様が来る理由があるかよ」


 …………言われてみると、まったく否定できないのが悲しいところだな。


 とはいえ、アトリやバルディアのことを話すつもりはまったくない。

 事前にそのことを念押しした甲斐もあってか、アトリも黙ってこちらのやり取りを見届けている。

 俺は一度深呼吸してから、ラゴスに語りかける。


「嘘くさく思えるのはわかるが、実際そうなんだよ」

「ふざけんな! だいたい、お前が勇者だとしたらなんだっていうんだよ! 俺たちが戦う理由がなくなるとでも言うのか!?」

「あぁ、そうだ」


 俺の即答にラゴスが一瞬鼻白む。その隙に、俺はまくし立てた。


「兎耳種と猫目種(キャトラス)が虐げられてるのは、はっきり言えば『お前らに気をつかうメリットがないから』だ。お前らには他の種族のように、代替不能な強みがないからな」

「……それで、勇者がいればなにが変わるってんだ?」

「わからないか?」


 俺が問い返すと、ラゴスは無言で応じる。

 やつはいまだ剣を構えたまま、凄まじい殺気を放っている。こりゃ、とっとと話を進めないと噛みつかれそうだな。


「勇者の存在は、この世界の人間にとって大きな権威になるらしいじゃないか。王族や貴族どもも勇者にすり寄ってくるし、単純に勇者自体が生半可じゃない能力を持ってる。もしそんな勇者が、他のどの獣人種(セリオン)でもなく、兎耳種と猫目種だけに肩入れしたとしたら?」

「…………」

「当然、他の獣人種は兎耳種と猫目種に気をつかわざるを得ない。勇者の機嫌を損ねて、自分や種族全体を脅かすような真似できるわけがないからな。そうなれば、兎耳種と猫目種が底辺争いのために抗争を繰り広げる必要もなくなる、ってわけだ」


 わかったか? と確認するためにラゴスを見ると、やつは無言で俺を睨み返すだけだった。

 だが俺の話に納得したらしく、やつの目にはわずかに迷いの色が浮かび始めていた。


「……それがなんだってんだ? 結局、てめえが本物の勇者じゃねえと意味のない話だろうが」

「口の利き方に気をつけろ、ラゴス」


 ラグナルは叱責しながら、ラゴスのほうへ歩み寄っていた。


「この方が勇者であることはわたしが保証する。それでも信用できんか?」

「てめえ、バカか? てめえに保証されたって、なんの意味もねえんだよ。どうせてめえら二人でグルになって、俺らを騙そうとしてるだけだろうからな」

「冷静に考えてみろ。お前は兎耳種でもずば抜けた才能を持つ戦士だ。そのお前が、二度も白兵戦で敗れたんだ。この方が只者でないことくらい、お前にもわかるだろう?」

「ハッ。二回とも奇襲でやられただけだ。次やったら絶対に俺が勝つ」

「ならお前は、なんら特別でもない相手に、得意の白兵戦で連敗したのか? 負け惜しみまで口にして、情けないとは思わんのか?」


 ラグナルの皮肉に、ラゴスは苦虫を噛んだような顔をする。

 抗弁の勢いが落ちたのを見て、ラグナルはなだめるような口調で追い打ちをかける。


「まぁ疑うのはわかるが、この方が勇者様なのは事実だ。あくまで信じられんと言うなら、わたしの命を賭けてもいい」

「命を賭けるだ? なら、ここで死んで見せてくれるってのかよ?」

「無論、ただで死ぬ気はない」


 言って、ラグナルは俺に視線を向けた。どうやら、決定的な台詞は俺に言わせたいようだな。

 俺は深呼吸して覚悟を決めてから、決定的な言葉を口にする。


「どうしても信用できないって言うなら、冒険者ギルドの鑑定員に見てもらってもいいぜ。俺は逃げも隠れもしねえ」

「……正気か?」

「ただのブラフなら、ここまでの大風呂敷は広げないだろ」


 いまだ半信半疑の顔をしているが、ラゴスはこちらをじろじろと観察し始めた。

 構えていた剣も徐々に下がっているし、冒険者ギルドを持ち出したことで、ついに戦闘モードから休戦モードに移行したようだった。


 ……正直、冒険者ギルドの『鑑定』を受けるのは、できれば避けたいところだった。

 ラグナルの保証で丸く収まるのが理想だったのだが、さすがにそこまで都合よくはいかないか。

 そもそもで言うと、俺が冒険者ギルドを避けたかったのは、アトリの素性が明らかになることを避けたかったからだ。

『鑑定』で俺が勇者だとバレても、勇者権限で強引に箝口令(かんこうれい)を敷くこともできるだろう。

 とはいえ、完全に口に戸を立てるのは難しいだろうが……勇者の身分を明かしておけば、逃亡の協力者を得るのはたやすくなる。


 ラゴスはしばらくこちらを観察したあと、脱力するように息を吐いた。


「……わかった。明日、冒険者ギルドの鑑定員を連れて来る。てめえらはここで首を洗って待ってろ」

「お前こそ、俺の言ってることが本当だって証明されたら、言うことを聞いてもらうぜ」

「本当だったらな」


 よし。これで明日にはギャングの暴走を押さえつけられるだろう。

 仲間が壊滅状態な上、俺が勇者である可能性を否定しきれないこともあり、ラゴスも明日は無茶をしてこないはずだ。

 あとは、アトリが『鑑定』されないようにだけ気を配っておけば問題ないはずだ。


 俺とラグナルは無言でうなずき合い、ラゴスがギャングたちを引き連れて去っていくのを見送った。


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