41. 闇魔法レッスン
「アトリ、『闇魔法』を教えてくれないか?」
俺の頼みを聞いて、アトリはすぐにうなずいた。
「ええ、そうですね。戦術の幅を広げるためにも、セツナが魔法を使えるようになるのは有益だと思います。わたしでよければ、ぜひ協力させてください」
言って、アトリはさっそく魔力を練り始める。
闇属性の暗い魔力がアトリの体から解き放たれ、離れの室内を漂い始める。
「まず、レベル1の闇魔法からお見せしましょう」
言って、アトリはテーブルの上に落ちた影に指を触れた。
「シャドウ・エッジ」
言葉と同時に、アトリが触れた影から漆黒の刃が突き出す。
影から突き出した刃は長剣のサイズまで伸びてから、数秒してから影の中へ戻っていく。
『虚無の因子』のサブスキル『魔法強化:強』の影響で、多少刃のサイズがでかくなっているだろうから、俺が使う場合は間合いをちゃんと意識しないといけないな。
続いて、アトリは人差し指を立てて宙空を指差す。
「シャドウ・エレメンタル」
人差し指の先に、人の頭くらいの真っ黒な球体が生まれる。
それはしばらく宙空に浮かんだのち、アトリが指を鳴らすと同時に消失した。
単体では使いみちに困る魔法だが、宙空に浮かべた球体を利用してシャドウ・エッジを撃ったりもできるので、設置しておけば戦闘を有利に運ぶことができそうだ。
続いて、アトリは俺の顔に指を向けてきた。
「ブラインド」
言葉と同時に、俺の視界が暗転した。一秒ほど視界が真っ暗になってから、再び視覚が戻ってくる。
目潰しは有効な技だが、直接目に向けて魔力を放たねばならないので、命中率はかなり低そうだ。
アトリの『魔法強化:強』の効果を差し引くと、俺が使った場合の暗転時間は一瞬になるだろうか。
それでも、短剣の間合いで牽制に使うには十分な魔法だ。
「続いて、レベル2の闇魔法です」
アトリは前置きしてから、テーブルの上の影に指を添えた。
「シャドウ・パス」
言葉とともに、影の中に指が沈んだ。同時に、数センチ先の影からアトリの指が飛び出してくる。
おそらく、繋がっている影の空間を接続して、瞬時に別の場所に移動する魔法なのだろう。
これも使いどころ次第ではかなり有用な魔法だ。
影に沈んだ指を引き抜いてから、アトリは再度影に指を添え直す。
「シャドウ・バインド」
影を魔力がつたい、テーブルの上に伸びた影から影の手が生まれる。
影の手はそのまま俺の手首をつかみ、動けないように拘束してくる。
軽く力を入れてみるが、簡単には解けそうにない。
アトリにアイコンタクトで許可を得てから、振りほどく力を少しずつ強めていく。
結局、魔力を込めて全力を入れるまで、影の拘束は解けなかった。
……つまり戦闘中にこいつを食らうと、動作を止められる上に、振りほどくために更に時間を食う。
アトリの『魔力強化:強』の効果もあるとはいえ、うまく食らわせられれば決定的なチャンスを作り出すことができる。
次に、アトリは手のひらを宙空に広げた。
「ダーク・ミスト」
魔力が空間に広がり、黒い霧が室内に充満する。霧はすぐに濃くなり、対面に座ったアトリもほとんど見えなくなってしまう。
俺が使うともっと霧が薄くなるだろうが、集団戦の時にはかなり使えそうだな。
霧が消えるのを待ってから、アトリは佇まいを直しながら言う。
「今セツナが使える闇魔法は、だいたいこのあたりですね。実際に見てみてどうですか?」
「思った以上に暗殺者向きの魔法だな。使いこなせればかなり便利そうだ」
「確かに。セツナのスキルとの相性はよさそうですね。今後レベルがあがっていけば、即死系の魔法も使えるようになってきますよ」
「ますます暗殺者向きだな」
「変わり種の闇魔法だと、特定の条件を満たした時に自分を殺す魔法なんかもありますよ?」
「……なんじゃそりゃ。一体どういう用途で使うんだよ」
「スパイが拷問される前に自死するためとか、そんな感じですね。『闇魔法』のレベル3なので、一応わたしも使えますよ?」
「…………なるほど。マジで暗殺者向きだな。てかその魔法、絶対使うなよ?」
「もちろんです」
アトリはくすりと笑って応じたが、いまいち信用ならなかった。
……洞窟にいた頃と比べるとだいぶ安定しているが、今のアトリもどことなく危うい感じがする。少し気をつけておいたほうがいいな。
ともあれ、今後は『闇魔法』スキルが上がるごとに、アトリにレクチャーしてもらったほうがよさそうだな。
きちんと『闇魔法』を練習しておくだけでも、戦術の幅はかなり広がりそうだ。
「じゃあ、今度はセツナが魔法を使ってみてください」
「……おう」
アトリに促され、俺は『闇魔法』の実践練習を始めた。




