わたしの世界
迫害や軟禁といった描写が含まれますのでご注意ください。
ほろほろと涙が零れ落ちる。どうして自分が泣いているのか、彼女には分からなかった。ただ空に輝く月を見て、彼女の大きな金色の瞳から大粒の涙が止めどなく零れ落ちた。
「――ご機嫌いかが? ミリア」
黒髪と白い肌が瞳と唇の緋をより一層引き立たせた黒服の女性は、ティーセットとクッキーの乗ったトレイをテーブルの上に置く。
「……また泣いていたの?」
訝しげな表情でミリアと呼ぶ少女の顔に手を伸ばし、涙を拭ってやると、ミリアは我に返ったかのようにハッとした。
「ごめんなさい、エリーナ。何故だかよくわからないのだけれど、月を見ると涙が止まらなくなるの」
ミリアは恥ずかしそうに手でぐしぐしと目を擦るとエリーナは慌てて彼女の腕を掴んだ。
「目が赤く腫れてしまうわよ」
「そうね、擦って赤くしたところで、貴女のような綺麗な緋い瞳にはなれないわね」
「……」
一瞬鬼のような形相をしたエリーナにミリアは驚き、目を伏せて小さくごめんなさい、と呟いた。次にミリアがエリーナに目を向けると、エリーナの表情はとても穏やかなものだった。その様子に安堵し、ミリアは椅子に腰かけた。それに続いて、エリーナも向かいの椅子に腰かける。エリーナの手によってティーカップに紅茶が注がれ、ミリアに手渡される。お互いににこりと微笑んで、紅茶を飲みながらクッキーを食べる。甘すぎないクッキーと、美味しい紅茶、微笑む緋い瞳の女性。ミリアにとってはこれが日常、常識、世界だった。ティータイムを終えると、ミリアは気を失うように眠りに着く。エリーナは椅子から崩れ落ちそうになるミリアを抱き留め、ベッドへと運んだ。ミリアの細い腕、脚、身体。それを舐めるように見つめ、彼女はもう少しと微笑んだ。
「私はこの黒い髪も、貴女が褒める緋い瞳も大嫌い。ねぇミリア、貴女のような黄金の髪と瞳があれば、私の世界は変わるのかしら」
愛しそうに髪を撫で、エリーナはミリアの部屋を後にした。
「馬鹿なエリーナ。こんな事をした所で、貴女が愛されることは無いのにね」
エリーナが去り静まり返った部屋の中で、クスクスと笑う声だけが響いていた。
続くかもしれないので連載にしとにます。