舞台上で息をする
純学園恋愛物が書きたかった。後悔はしていないが物足りない。
たぶんいつか長編になると思います。わかんないけど。
今回は演劇を上手く盛り込めなかったのでよく分からない出来になってます。
こんだけ演劇盛っといて?みたいな感じですけど。
笑え。笑え。心の底から。そうすれば、後は身体が勝手についてくる。
小さいけれど、私にとってはとても大きな舞台に立って、足を地に着けて、目を突き刺すくらい眩しい光が今は気にならない。
口角が上がる。始まる前はあんなにも緊張して、自己暗示でもかけるかのように笑えと言っていたのに。
ああ、やっぱり私は舞台に立つのが大好きなんだと思った。
「ようこそ皆々様方!女性も男性もお子様からお年寄りまで、此処で出会えたという出来事に感謝しましょう!」
何日も、何週間も、練習した言葉が口から溢れる。言葉は留まることを知らなかった。
「早速ですが皆様は此方をご存知でしょうか──」
私───三桜 優は、舞台の上でこそ、息がしやすいと気付いた瞬間。人生が煌びやかに見えたのだった。
* * *
「お疲れ様」
約二十分間もの一人舞台を終わらせ、意気消沈と言わんばかりに椅子の上で、ぐったりと座り込んでいる私に声を掛ける人影が一人。
「君もお疲れ様、安部くん」
私が高校演劇をするのに欠かせない人材の一人だ。安部 翠。彼は演劇部ではない。タダの帰宅部で、私の同級生でクラスメイトだ。
何故彼がここに居るかと言うと、話は簡単。演劇部は私一人しか所属しておらず、照明やら音楽やらを担当する人間が居なかったのだ。
そこで白羽の矢を立てたのが彼である。人の良い彼は二つ返事で承諾した。とても感謝している。
「七尾先輩が呼んでたよ」
「えっ本当!?」
思わず椅子から飛び上がる。こうしては居られないと、みっともなく踏み潰していた上履きの踵を履き直し、舞台袖から降りる。舞台袖や会場は後片付けで人が多く、避けるのが大変だったけれど、七尾先輩を見つけるのにそう時間は掛からなかった。
「七尾先輩!」
「お疲れ、三桜さん」
にっこりと笑みを浮かべる先輩に、相変わらず胡散臭い人だと安心する。
いつもならカメラや、メモ帳を広げ、新聞部部長に相応しい程、情報収集をしている先輩が、今日に限っては何も持っていなかった。単純に演劇を見に来てくれたんだと、そう自惚れる。
「一人でずっと話続けるなんて凄いね」
「部員が私しかいませんから、仕方無いですね」
へらりと笑みを浮かべれば、今はもう幕が下がっている舞台を見上げた。さっきまで私はあそこに立っていた。照明に照らされ、何種類かの音楽を背景に、たった一人で演劇をした。
一人でやる演劇なんて限りがあるけれど。それでもやりきったんだ。
「ねえ、先輩。私、一人でやりきっちゃいました」
「そうだね」
「あと一人くらい、いたら良かったのになあ」
無い物ねだりと言う奴だ。わかっている。
私は四月にこの学校に入って、部員が誰も居なかった演劇部に入った、その内の一人。最初はまだ数人居た。五人くらいはいた気がする。全員、五月に入る前に居なくなってしまったけれど。熱意が違いすぎると言われた。私はただ、演劇がしたかっただけなのに。
「何しんみりしてるの?」
「えへへ、つい。次は演劇大会近いですから、しんみりできないですね!」
演劇で使った大量の蝋燭を持って、舞台袖から安部くんが降りてきたのが見えた。そろそろ戻らないと、そう思った瞬間。
「大会が終わったら、空けといてよ」
「え?」
先輩がそんな事を言うから、びっくりして呆けた顔をしてしまった。一つ上の先輩はしてやったり、って顔をして私の髪を緩く撫でて、その髪に口付けを落とした。
そのとてもキザで、先輩らしくない姿に、こちらまで顔が赤くなってしまう。
そんなに顔を赤くするくらいなら、しなければ良いのに。