第148話
俺は皆がそれぞれの担当区画へと探索する為に向かう後ろ姿を眺めていた。
どうか何事も起こりません様に………。
そんな事を思いながら皆から目を離し建物の外へと意識を向けた。
「ガゥ、ガルゥ?(さて、何から始めます?)」
外を見ながらここに残った残りの2人であるクレアさんとスライさんに問い掛けた。
2人は少し悩みその後こう提案してくれた。
「この建物の周辺の安全確認をするのはどうですか?」
「そちらもやるべきですが先ずはここの安全確保の為に扉の修理又は内部への侵入防止用のバリケードの作成を優先すべきでは?」
あ〜……、ここの安全を確保するにはどっちもやる必要が有るなぁ………。
ここに来るまで魔物に襲われる事は無かったけど建物の中に居る可能性も無いわけじゃないから周辺の安全確認は必要になるよな………。
んで、周辺の安全が確保されてもどっからかここに魔物が来たら入り口が開きっぱなしだと安全なんて無い。
となると………。
「ガルゥ………ガゥ………(バリケード作りと周辺の安全確認………だけど………)」
「どうかしましたか?」
「ガウガルルゥ………(今の俺だとバリケード作りはなぁ………)」
「「あぁ………」」
俺の姿を見て2人は納得した。
今の俺の姿だとバリケードを作る際の積み上げ作業とか出来ないし扉の修理だったとしても支えるのも一苦労だもんなぁ………。
こういう時は竜の姿がどれだけ便利か良くわかる………。
けど、どうせなら人間になりたいよ………ホント。
「う〜ん………でしたら周辺の安全確認をお願いしても?」
そうスライさんに提案されて俺はその提案を直ぐに受け入れた………と言うか他に選択肢無いしさ。
後は今の俺ならそっちの方がかなり役立つからな。
何せ今の俺は狼種から進化した【レッサーフェンリル】なんだから。
「ガゥッ!ガルル!(分かった!任せてくれ!)」
「クレア様、私達はバリケードを作りましょう」
「はい!微力ですが頑張ります!」
フンスッ!と効果音が付きそうな感じで胸の前辺りで両手を握りやる気を滾らせている。
そう言えば可憐達から聞いた話だと彼女は良い所のお嬢様らしいんだよな。
その為か何と言うか彼女はやった事の無い事に対して凄くやる気を滾らせて楽しそうにやるらしい。
まぁ、悪い事では無いしいっかなぁ………。
そんな感じで彼女を眺めながらスライさんを見た。
彼は俺の視線を感じ俺を見て俺の言いたい事を察したのか頷いて「任せて下さい」と言ってさっそくクレアさんと一緒に先ずは扉の修復が出来るかの確認を始めた。
さて!なら俺も始めますか!。
そうして、俺は先ずは外に出てから周りを見渡した。
外に出てまず見たのは夕暮れの為周りの建物と共に氷漬けにされたグラトラスが赤く染まり先程よりも少し薄暗くなっていると感じた。
氷漬けにされたグラトラスに変化は無く氷も溶ける様子は無く先程の戦闘から何も変化は起きていなかった。
周辺に生き物の気配は無くグラトラスとの戦闘で破壊された建物を見るとまるで廃墟………いや、住民が居るかどうかも分からないと言うか魔物にされてる可能性が高いんだから十分廃墟か………。
とにかくあまりにも静か過ぎて気持ち悪い位だ。
そう言えばグラトラスに殺られたマズラフや同行するにあたって副官だったマリーさん達の遺体の回収もしないとな………。
「カラッ………」
「ッ!?」
音がした瞬間俺はそちらを「バッ!」と振り向き警戒を強めた。
音の鳴ったそこは丁度先程考えていたグラトラスによって殺されたマリーさんが突っ込んだ場所だった。
俺はそちらを警戒しながら少しずつその場所へと近付いた。
音の発生源に近付くにつれ俺は緊張を強めた………。
もし何か居るのだとすればいきなり襲われる可能性も有る訳なのだ………。
緊張しない訳が無い………。
それに………あそこにはグラトラスによって殺されたマリーさんの遺体が有る筈だ………。
そう考えるとそれを見たくない………。
今すぐ戻りたい………。
そんな思いが心の奥から溢れて出て来る………。
それでもシア達の安全を考え俺はその気持ちを飲み込んだ………。
そして、俺は遂にそのグラトラスによって作られた瓦礫の塊の元へと辿り着いた。
その瞬間その瓦礫の塊が少しだけ動き塊の中に有った小さな欠片が転がった!。
俺は少し後ろへと飛び何時でも動ける様に構えた………。
暫くそのままでいたのだがその瓦礫に何の変化も起こず少しじれったくなって来た………。
それでも警戒を解かずに俺は再度その瓦礫へと近付き始めた………。
再び飛び退く前の場所にまで辿り着いた。
すると「ザッ!」と言う俺の足音が響きその音に反応して瓦礫が動いた!。
俺はその場で身構えた。
するとその瓦礫の塊から音が聞こえて来た。
「うぅぅ……………」
その音を聞いた瞬間俺は叫んでいた。
「ガウッ!(マリーさん!)」
俺は直ぐに瓦礫に飛び付きどうにか瓦礫を退かそうとした。
しかし、今の狼の足では少しでも瓦礫が、大きいと上手く力が伝わらず瓦礫を退かせなかった。
「ガウッ!ガルァ!(待ってろ!直ぐに誰か呼んでくる!)」
そう叫んでから俺は直ぐに冒険者ギルドへと戻ったのだった。




