第145話
「グルゥ………(どうするかなぁ………)」
今の状況はそう呟いてしまう程拮抗している…………。
早さで勝る俺………それに対して力で勝るグラトラス………。
俺にはグラトラスの攻撃が当たらない上に他の皆への攻撃を防いだ。
しかし、グラトラスの攻撃が当たれば俺も皆もただでは済まない………。
一瞬も気が抜けない………。
また、グラトラスが動いた。
それに対して俺は横を通り過ぎ様としたグラトラスに横からぶつかる形でその行動を止める。
その際に皆の戦況が視界に写り込んだ。
どうやら皆は白衣の女を取り囲み四方八方からの包囲攻撃を仕掛けている様だ。
それに対して白衣の女は皆の攻撃をその白衣の袖口から生やした触手で防いでる様だ。
取り敢えず皆無事の様だが………ちょっと不味いかもな………。
今は一進一退の攻防を行っているがアチラは触手と言う道具で防いでいるがコチラは皆それぞれの武器を自分の身体を使い振るっている………。
このままではいずれコチラの体力が尽きて今の均衡が保てなくなる………。
そうなれば後は徐々に削られて言って敗北するのが目に見えている………。
(くそっ!………マジでどうするか………)
正直に言うと殆ど手詰まりの状態に近い………。
なにせ戦闘力はほぼ互角な上に【種族変化】のデメリットの1つのの所為で【融合変化】が使用出来ないのだ。
【種族変化】して初めて知ったのだが【融合変化】と【種族変化】はどうやらお互いに干渉し合っているらしく【融合変化】中は【種族変化】が使えず【種族変化】を行った際はデメリットである1日の間変化が出来なくなると言う効果と干渉し合って【融合変化】が使えなくなる様なのだ。
その為、現在【融合変化】を使えれば【レッサーフェンリル】に足りない攻撃力を【竜】形態と融合させて補える所が出来ないのである。
結果、今の俺はグラトラスに素早さでは勝っていても力では負けている上にアイツの防御力を抜けない(多少はダメージは通っているが再生力の所為で無意味)でいるのだ。
(あーあっ!?くそっ!?何っうかもうちょっとで痒いところに手が届きそうなのに届かないって言うか………あーあっ!?もうっ!?)
向こうは向こうで一向に攻撃が当たらない所為か焦れてきたのだろう戦闘音が先程よりも激しくなって来た。
「ふむ………そろそろかなぁ?」
そろそろ?一体何が?………そう思った瞬間グラトラスの様子が変わった。
「「「「「「「「「「あ゛あ゛………あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーー!」」」」」」」」」」
「ガルッ!(何だ!)」
先程まで助けてと意味の有る声を発していた筈なのだが急にただの叫び声へと変化した!。
「やはり限界ですかぁ………」
そんなグラトラスの叫びと白衣の女の呟きに皆の攻撃の手は止まった……。
「限界?………それはどう言う………」
「そのままの意味ですよぉ?そのグラトラスは試作段階ですからねぇ体組織を繋ぎ止めてる細胞部分が限界に達したんですよ。
まぁ、簡単に言えば自己崩壊が始まったのですよ」
「「「「「「「「「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーーーーーっ!」」」」」」」」」」
気付いた時には俺達全員がグラトラスをはっとした顔で見ていた。
その悲痛な叫びに呼応するかの様にグラトラスの身体は溶け始めまるで泥で作った人形が水で溶けるかの様な形で崩れ始めた。
イメージとしては風の谷の姫様の作品に出て来たドロドロに溶け落ちて行く巨人の様な感じだ。
それを見た俺は慌てて叫んだ。
「ガルァ!(彼等を元に戻す方法は!)」
「そんなもの有る訳無いじゃ無いですかぁ♪。
そもそもぉ、元に戻す事に何のメリットが有るのですかぁ?そんな物有りませんよねぇ?くひ♪くひひひっ♪ひーひっひっひ♪」
「ガル!?グラァッ!(このっ!?クズが!)」
俺は白衣の女に飛び掛かりそうな自分を必死に抑えてグラトラスの方を見た。
「「「「「「「「「「あ゛あ゛……あ゛………あ゛あ゛ーーーーーーーーーっ!」」」」」」」」」」
その叫び声はどんどんとか細く更に酷いモノになって行った………。
このままでは彼等は救われない………。
直感で俺はそれを悟り覚悟を決めた………。
彼等を救うにはもうコレしか残されていない………。
俺は【重複詠唱】と【多重詠唱】を同時に発動し身体の中から魔力を絞り出し1つの魔法を発動した。
「グラァッ!(アイシクルコフィン!)」
その魔法の発動と共にグラトラスの周りがまるで水の飛沫が光を反射する様に光りだし次の瞬間グラトラスを氷で出来たキューブの中に閉じ込めた。
それによりグラトラスの身体の崩壊は止まり先程までの悲痛な叫びが止まり静寂が訪れた………。
彼等を元の姿に戻してあげたい………。
そんな思いから俺はグラトラスを氷漬けにした。
もしかしたらコレは何の意味も無い行為かも知れないがそれでも彼等を救いたいと俺は思いその為に彼等を氷漬けにしたのだ。
何時彼を元の姿に………。
「くひっ!ひゃーはっはっはっ!」
そんな俺の想いをあざ笑うかの様に白衣の女は笑い出した。
「グラァッ!(何が可笑しい!)」
「いえね…何、簡単な事ですよ。
随分と無駄な事をするなと思いましてね。
いえ、別にどうでも良いのですけどね随分と人間臭い事をするなと…………っ!?まさか!」
今更ながらに重大な事に気付いたと言わんばかりに驚きの表情をそのメガネの奥から醸し出しこう言った………。
「アナタ………元人間なのですね!?…………ふひっ♪くひひひっ♪ひーひっひっひ♪」
そんな一言を呟いた後白衣の女はまた笑い出した………。
しかし、俺にはそんな女の姿からはただただ悍しい何かを感じる事しか出来なかった………。
そして、ひとしきり笑った後急に静かになり一言「また、お会いしましょう………」そう言い残して白衣の女はまるで映画に出て来る様な幽霊が消える様にその姿をかき消した………。
そして、その場に残された俺達は何とも言えない感情と共に暫くの間その場から動く事が出来なかったのだった………。




