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百鬼絢爛 異聞(骨組み版)  作者: 赤良狐 詠
妖狸の娘と九尾の姉妹
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妖狸の娘と九尾の姉妹

 人里から離れた山間部の小さな集落、そこに住んでいるのは人非ざる者達、妖狸(ようり)である。この集落は妖狐の里の近くにあったが、争いを起こすようなことは一度もなかった。


 何故ならば、ここは妖狸の三大勢力、佐渡の団三郎(だんざぶろう)、淡路の柴右衛門(しばえもん)、香川の太三郎(たさぶろう)の他、八百八(はっぴゃくや)眷属(けんぞく)を従える隠神刑部(いぬがみきょうぶ)の加護を受けていたのだ。


 気性の激しい気狐(きこ)であり、美濃狐(みのぎつね)という通称で呼ばれた美濃が妖狸の小さな集落を潰しにかからないのは、隠神刑部の報復を恐れ、手を出すことを躊躇ったのだった。


  また、妖狐の里を束ね、名のある大天狗(だいてんぐ)達と同等の力を有する天弧(てんこ)である百合(ゆり)荼枳尼天(だきにてん)の加護を受けているとはいえ、美濃が妖狸の集落を襲うことがあれば、助けることはできぬと釘を刺されていることも要因である。


 妖狐の大半が隠神刑部は何故、妖狐の里に近い場所に小さな集落を作ったのかと思っていた。これは妖狸からの密約を受けた百合とその側近しか知らぬ事。そして、妖狸の集落に住む者全てが知る事。


 この小さな集落には隠神刑部の寵愛を一身に受けた(めかけ)との娘、(まみ)がいるのだった。長きに亘り、正妻との子に恵まれなかった隠神刑部は、妾との間に子を成した。


 妖狸総大将の子の誕生の知らせを誰もが朗報に歓喜し沸き上がったと思われたが、彼女は全ての者に望まれて生を受けたわけではなかった。隠神刑部の正妻、小町(こまち)から憎悪と殺意に満ちた呪いを受けながら産声を上げた。


 呪いに気付いた隠神刑部は術を解き、初めての我が子を愛して止まなかった。しかし、小町の憎悪はまみの成長と共にさらに膨張していった。こうした状況を(いぶ)しんだ隠神刑部は、まみを正妻の目の届かぬ所へと連れ出した。


 この時、まみは数え年で七つであった。母、小春(こはる)と逃げるようにこの地へやって来た彼女は、自分を愛して止まなかった父と離れる理由を知る術も、考えることもないほど純粋だった。


 隠神刑部が妖狐の里の近くに小さな集落を作らせて欲しいと百合に(ふみ)を出した。もちろん、百合は戯言だと切り捨て聞く耳を持つことなどしなかった。


 しかし、隠神刑部は直接妖狐の里まで赴き、百合に頭を下げた。これに驚いた百合は隠神刑部からの話を聞いたのだった。


 隠神刑部の約束事は、決して妖狐の里との争いを起こさない。些細な争いでも起きた場合は、妾の子であるまみを差し出し、煮ても焼いても良いとのことを約束した。


 さらには妖狐の里に何かあれば、八百八の妖狸が駆けつけ、手を貸すとまで百合に言ったのだった。それは彼女にとって吉報でしかなった。


 百合からすれば、異国から来た九尾の狐である玉藻の前、その娘たちである姉妹を匿っていた妖狐の里にとって、未だに姉妹を追う陰陽師、安倍泰成(あべのやすなり)率いる討伐軍の襲撃は脅威であった。


 旧知の仲であった玉藻の前の忘れ形見である姉妹と、いや、何より里の者達を守らなければならぬ彼女にとって、両天秤に乗っかっていた問題から荷を下ろすことができると考えた。だから妖狸総大将である隠神刑部の密約は幸運が自ら転がり込んできたとさえ思ったのである。


 また、互いに争いが起きた場合、妖狸総大将の娘であるまみを食せば、相手の血肉、体液を糧にする妖狐にしてみれば、天弧である百合が神にも等しい力と成り得るかもしれないと、側近は思ったのであった。


 このような昔話の決まり文句がある。


 妖狐は千年昔のことを()り、妖狸は三日先のことを知っている。


 この異聞は隠神刑部の娘、(まみ)

 そして、九尾の狐の姉妹、京狐(きょうこ)千狐(ちこ)の悲しき定めを背負った少女達の物語である。

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