テントウムシスカッシュ!!
朝が来た日差しが来た夏が来た。それはテントウムシたちの過酷な試練、『テントウムシ・スカッシュサマー』が今年も始まる。
太陽の名を託されたテントウムシたちは、今日も天を目指し羽ばたいていく!
穏やかな風を運ぶ春が終わり、太陽が地面を突き刺す日光を放つ夏が来た。
それは、テントウムシたちにとって大きく運命を左右する運命の日である。
「俺たちテントウムシは太陽の昆虫だ! 今年こそ、あの太陽にたどり着き、『テントウムシ・スカッシュサマー』を成功させるのだ!」
この場に集まったテントウムシは約30。どれもギラついた目つきでタフな羽根を持つ、精鋭たちであった。
「しかしダニエル! 意気込むのもいいが果たして楽観していいものなのか!?」
「何だジョセフ、今から気弱とは先が思いやられるぜ!」
リーダー格のダニエルは、このグループにおいての年長組であるジョセフに厳しい口調で返した。
「太陽の季節……俺たち昆虫がもっとも力を発揮出来る選ばれた日だ。だが今まで誰一人なく、この『テントウムシ・スカッシュサマー』を成し遂げた者はない……! 策でもなければ無謀ではないか!?」
ジョセフの言葉に精鋭たちは若干のどよめきを起こした。だが、ダニエルは前足をがっしりと組んで口を開いた。
「俺はこの間、人間たちの神話を聞いた」
「人間の……?」
「その勇者の名はイカロス! 自らの翼で太陽にたどり着こうとし、しかし燃え尽きてしまった悲しい話だ……」
言葉の終わりを静かなものにしたダニエルは「しかし!」と前足を天高く掲げた。
「俺たちテントウムシも、木々や葉に止まればひとたび天を目指し、飛び立つ心を抑えきれない! これはすなわち、俺たちにも同じ翼が生えているのだ! 勇者イカロスと同じ太陽の翼を!! だが! それが何故諦めの境地になろうことか!!」
さんざめく蝉の声をかきけすほどの咆哮がダニエルから放たれた。
「我々は託されたのだ! 俺たち「テントウムシ」と太陽の名を与えられた俺はその続きなのだ! たどり着けなかったイカロスの思いが、俺たちテントウムシという名前に込められている……決して我々は孤独ではない!!」
「……そ、そうだ。俺たちは天を目指さなければいられない、飛び立ってしまう太陽の翼……!」
「飛び立とう!木々から、花から、空へ!」
「そうだなダニエル……行こう、青空を超えた真の季節へと!!」
テントウムシたちがの声が重なり、それぞれは翼をはためかせ飛び立った。
彼らを見送るナミテントウのテントウムシは、空を仰ぎつぶやく。
「いや……それワイらテントウムシの単なる習性やで」
夏は始まったばかりである。