夢で逢う君と
ー━━ずっと夢を見ていた…。
夢…自分の想像しているものが眠っている間だけ、それが現実の様に見えてふと気付いたら、それが幻だと認識してしまうことである。例えば、楽しい夢、怖い夢、懐かしい記憶の夢、現実的な夢、嬉しい夢、悲しい夢、こうした様に色々な夢がある。こう言った夢らは、我々の現実にある肉体にも見た夢によって精神的疲労が解消されたりされなかったりする、楽しい夢であれば疲労が回復し、怖い夢であれば疲労が溜まりやすくなったりする。夢とは、精神に直結していると言える。
さて、本題に戻ろう私は今、゛夢らしき物゛を見ている。「らしき」とは、どういう事か、私にも理解しがたい事だ。
分かりやすく説明すると今私は夢の中にいるこの事は一番最初に理解した。だが、全く動けないのだ。自分の夢なのに動けない、これは例で話した怖い夢では?と、思うだろうが全くもって怖くない。何故なら私の周りが、よく晴れた日の花畑なのだから。恐怖と言うより楽しくて走り回りたくなるような、そんな光景が周りに広がっている。そんな、光景を前にして今、私が一番疑問…いや、興味をそそられているのが、私の前でこちらに背を向けて女の子座りをしている少女がいる事だ。
何やら熱心に作っている。
私は声を掛けようとしたが、声がでない声を出そうとしても口パクで空振ってしまう手を伸ばそうにも体は固定された様に動かない、「こっちを向いて!」そう思ったら、願いが通じたのかその少女はこちらに顔を向けようとした。
その時世界は真っ白になってしまった…。
否、夢が終わってしまったのだ。まるでそれは、映画の上映が終わるかの様に急に終わってしまったのだ。
「また夢の中で逢いましょう?」
朝、夢から覚めて顔を洗い朝食を済ませスーツで身を包み身支度をすませ、一人暮らしの家を出る。出勤するためにバスに乗り込む。バスに揺られながら昨日見た夢を思い出す。
「また夢の中で逢いましょう?」
この、フレーズがどうしても忘れられなかった。気になって悩んでいたら、目的地に着いたようだ。バスから降り自分の勤めている会社に出勤する。ビルに入ろうとした瞬間、世界は歪み、色は反転し、全てが混沌と化した。まるで自分だけ世界から隔離されたかの様に、そして私は急に眠くなり意識を手離した……………。
私は今、夢の中にいる。
そして、そこには昨日見た花畑が広がっている。昨日と同じように私の前には少女が背を向けて座っている。昨日はこの後、私は声を掛けようとする。でも、声が出ない、そして強く心の中で声を掛ける、伝わる、少女は振り向こうとする、そこで夢は終わる……………………………………。
筈だった。
この夢はこれで387回目だ。
数えるのがバカらしくなるほど、この夢は再生と終わりを延々と見せられている。まるでビデオのようだ。再生が終わると巻き戻しまた再生する、5回目位の地点で夢なのかどうか疑ったが身体的疲れを感じないという観点から夢らしき物なのでは?と、自分の中でそう納得した。
たが、この夢にも意味はあるはず、良く眼を凝らして見た結果、ある一点だけ極微妙ながら変化があることに気付いた。
その一点とは、再生が終わる瞬間の少女が振り向く時である、人間の眼には0.01秒は見れなくても0.1秒なら微量ながらに見ることが出来る。その法則に乗っ取りセルフ経過観察を行った結果、推測だが1回目から今まで少女の振り向く瞬間が少しだけ長く見れるようになってきている。これが本当ならいつかは、少女の顔を拝むことが出来そうだが、このまま行くと横顔見るだけで軽く再生回数が一万回超えそうな気がする。これを話している間に389回目に突入した………………………………………。
1000回目、多分この数字が自分にとって分岐点になるかもしれない。
かもしれないとは言いようだが同じ夢を見させられてそろそろ10時間は経ちそうだ。如何せんここには時計がないから何時間経ったか分からないのだ。
さぁ、999回目の再生が終わった。
いよいよ、大台の1000回である。何が待っているのやら…………………………………………。
「また夢で逢いましょう?」
結果的に言えば1000回目の再生が終わった直後夢が覚めた。結局少女の顔は拝めず仕舞い、夢なのに時間を損した気分になった。そして何より起きたらそこは病院のベットの上で寝ていたのだ。医者から話を聞くと、どうやら私は会社の前で急に倒れてしまったと言う、救急搬送され丸々3日寝ていたと聞いた。そして更に3日、病院で安静にして退院した。因みに病状は過労による一時的な睡眠障害だとか、
良く休み体を労えと医者に言われた。入院費は保険に入っていたためそこから出るようだ。仕事に戻ろうとしたが部長に、
「一週間位は休んでろ」と言われたので、遠慮なく有給を取って5日ほど休んだ。
また、夢だ。
何故か、とても懐かしくそれでいて優しさに包まれている感覚の夢だ。
目を開くと私は花畑に座っていた。今までの夢とは全く違う何故なら少女が私の膝の上で花冠を作っているのだから。
時折、振り返って見せてくれるその笑顔は、あどけなさが残る少女の可愛らしい精一杯の笑顔の中にどこか懐かしい感じがした。
そして完成した花冠を私の頭に載せて、とても嬉しそうな笑顔を見せた。私はありがとうと言おうとしたが、やはり声がでない。少女はまた、私の膝に乗り花冠を作り始めた。その姿を見てるだけでとても、心が満たされていった。
だか、何故か悲しい気持ちが溢れてくる
何故?どうして?と思うほどにとても悲しくなってくる。
少女が心配そうに、私の顔を覗き込む。
私の顔をみて少女も悲しい顔をする。
そんな悲しい顔をしないで、笑って?いつもの笑顔を見せて?
私の頭を撫でてくる少女、そこで気が付いた。
何故この少女は懐かしい感じするのか?
何故悲しい気持ちが溢れてくるのか?
何故私は錆び付いているのか?
何故私は、体温が無いのか?
気付いてしまった。
否、
気付かされてしまった。
私は……死んでいるのだ………。
いや、壊れてしまっているのだ。
最後の記憶が蘇る。
私は、戦争で作られたちっちゃな戦車。
まだ、私が産まれて間もない頃、私のいた帝国は危機に瀕していた。
私の先輩である九七式先輩は、上層部の戦線の拡げすぎによる戦線管理の無さが原因だと言っていた。
それから程無くして私は、前線に駆り出されていた。
私は、初めて戦場に立ったのだ。
この時、私は知らなかったこれで最後の戦場になることを………。
私は初めて戦場を駆けた。とても怖かった。
逃げたしたい位に、怖かったのだ。
だが、それを許してはくれなかった。
相手の迫撃砲による攻撃によって私の履帯が外れてしまったのだ。
それを見計らうかのように、私に攻撃が
集中する。
私の装甲板に銃弾の雨が降る。
そして、相手の戦車が私の真正面に出てくる。
私は、知っている。戦場に出る前に九七式先輩に教えて貰った戦車だ。名前は、
゛M4シャーマン ゛
「あれに会ったら私でも木端微塵だ」
そう教えて貰った。
私は、恐怖し怖じ気付いた。
「私は、まだ死にたくない!」と思った
だが、相手の戦車は主砲をこちらに向け
一発の砲弾が私の装甲を貫いた。
これが私の最後の記憶、私はずっと夢を見ていたんだ。朝起きて、顔を洗って、朝食を食べて、出勤して、仕事をして、夕方帰宅して、夜寝て、休日に友達や先輩と出掛けたりする。そんな当たり前の日々を、
私はずっと夢に見ていたんだ。
だけど、それはもうおしまい
私はこれから永い眠りにつく再び覚めることのない眠りに、
出来ることなら、もう一度、今度は人間として平和な人生を送りたかったな………。
さて、私は眠るよ。
また、君に会えることを願って
おやすみ、また夢の中で逢いましょう?
私の理想の……………………………………………………、
……………………………………少女………………………………………。
終わり?