表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

初春の願い

作者: よつ葉ちゃん応援し隊のsitappa


 スマホが鳴る。この音はラインの着信音だ。直ぐに画面をタップする。


「タケユキ、よつ葉先輩たちの実習班、A駅にいたってよ!」

「ユキ達が見たって。(* ̄∇ ̄)ノ」


 親友のショウタからだった。


「朝っぱらから悪い。m(_ _)m 今度コーヒー奢る」

「サンキューな」


 急いで返信を打ち、時間を確認する。急げば神社で逢えるだろうか……。


 今日は1月3日だ。年が開けたということは、あと何ヵ月かで先輩たちは、大学を卒業してしまう。


 よつ葉先輩は卒業とともに就職先である病院の、女子寮へ引っ越すことも決まってるらしかった。それを知ったとき俺は酷く落ち込んだ。それからずっと考えていた、彼女のことを……。


 彼女の優しい物言い、可愛らしい笑顔、ちょっとした気づかい、おまけに成績優秀な上めっちゃ華奢なんだぜ! 男なら惚れない阿呆はいないだろう?


 事実、先輩は人気があった。同学年からもその上の先輩たちにも。下の学年や女子にも慕われていた。……実習に行った先々の、病院の医師たちや患者にまで人気があったようだが、大学の教授たちにだって気にかけられていたみたいなんだ。


 俺なんかじゃ全然駄目だと、とっくに諦めはついてる。……けど。いつも目が追ってしまうのは止められなかった。


 ……昨年の大晦日の深夜、俺の家のすぐ近所の神社から、除夜の鐘の音が聞こえてきた。その瞬間、急激に、先輩が卒業してしまう! という思いが強くなった。……俺は心の奥底から沸き上がる切なさに、居てもたってもいられなくなったのだった。


 そして、そこから始まるグループライン。俺はショウタに愚痴っただけだったのだが、気付けばそうなっていた。


 今日の初詣の情報に繋がった。よつ葉先輩の友人と同じ学生用アパートに住む友達にラインが繋がり、そこから先輩たちの班が今日、大学の近くの神社へと、初詣に行こうとしていることが分かったのだった。


 俺の家から大学まではチャリで20分。そこから神社までは家からは逆方向なので、……何分だろう? A駅から大学はバスで15分と聞いた気がする。神社はその途中にあるのだ。


 スマホと財布とチャリのカギを掴んで階段をかけ下りる。背中に母さんの声がかかる。


「おはよう。お餅焼こうか?」


「要らない。出掛けてくる!」


 玄関ドアを開けながら言い放つ。道路に自転車を出し、飛び乗る。


 急げ。

 

 急げ。


 急げ。


 あの人に会うためにーー。彼女が卒業するまで、あと何回会えるか分からない。


 急げ。


 急げ。


 急げ!


 俺は車が少ないことを喜びながら、町を疾駆(しっく)した。




 汗だくになりながら神社にたどり着く。着衣が湿り気を帯び、気持ちが悪い。


 知らぬ間にぎゅうぎゅうとハンドルを握りしめていたのか、単に冷えてかじかんでいるのか、自転車のカギを外そうとするが、指先が思い通りに動かない。


「くそっ。ここまで来て!」


 愚痴を吐き出しながら、やっとカギを抜きポケットへとねじ込む。本殿へと駆け出そうと振り返ると、そこに人並みが……。


「すみません、通して下さい!」


 人混みをかき分けながら呟く。


「すみません、すみません。……申し訳ない」


 ボソボソ言いながらすし詰めの道を行き、キョロキョロと見知った顔を探す。


 ーー俺は先輩に会って、どうするつもりなのだろう?


 ふと、疑問が頭に浮かぶ。


 …………分からない。


 ーー告るのか? 


 …………分からない。


 ーー他の先輩たちもいるのに?


 …………分からない。でも!


 どうしても今すぐ会いたいんだ!!!! 


 気持ちが走って行くーー。




 彼女の姿を求めて探し回り、本殿へと辿り着くと、耳馴染んだ声の会話が聞こえてきた。声のした方を見ると、そこには友人たちに囲まれた彼女の姿が……。


「またぁ、小野くんはそんなことばっかり言ってぇ」


「おう! こういう台詞は俺にしか言えねえよ!!」


 小野先輩の言葉に、その一団に笑い声のさざ波が起こる。彼女が楽しそうに笑っている。……それはまるで、そこだけ春のようでーー。


 その瞬間分かってしまった。俺の入り込むスキマなんて、これっぽちも無いことに。


 彼女の笑顔が見れたことで気持が落ち着ついた俺は、先輩たちからそっと離れると来た道へと歩き出したのだった。


 神社の片隅でそっと神に祈る。


 どうか、願わくば、彼女がずっと笑顔でいられますように、ーーと。



このお話のお正月とは、来年のお正月です。お話の内容を考えていたのは去年の年末でした。

来年のことを話すと鬼が笑うと言いますが、再来年のことを考えていたという……。(汗)


お読み下さって、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] え?小野君なの?! 諦めが早いやっちゃな。ま、わかる気もするけど。 いやぁー、小野君だったのかぁ。(* ̄▽ ̄)フフフッ♪
[良い点] 主人公の男の子の描写が丁寧で、気持ちが伝わってきました。 [一言] わぁ~~い、よつ葉が無事に4年生になれてる!! いやいや、そこじゃない! 後輩君に想われてる♪♪ 今度、大学行ったら…
[良い点]  新作、お待ちしておりました。  主人公、せつないですが、それでも前向きに書かれてますすね。最後は救われた気持ちになりました。  本年もよろしくお願いします。  
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ