初春の願い
スマホが鳴る。この音はラインの着信音だ。直ぐに画面をタップする。
「タケユキ、よつ葉先輩たちの実習班、A駅にいたってよ!」
「ユキ達が見たって。(* ̄∇ ̄)ノ」
親友のショウタからだった。
「朝っぱらから悪い。m(_ _)m 今度コーヒー奢る」
「サンキューな」
急いで返信を打ち、時間を確認する。急げば神社で逢えるだろうか……。
今日は1月3日だ。年が開けたということは、あと何ヵ月かで先輩たちは、大学を卒業してしまう。
よつ葉先輩は卒業とともに就職先である病院の、女子寮へ引っ越すことも決まってるらしかった。それを知ったとき俺は酷く落ち込んだ。それからずっと考えていた、彼女のことを……。
彼女の優しい物言い、可愛らしい笑顔、ちょっとした気づかい、おまけに成績優秀な上めっちゃ華奢なんだぜ! 男なら惚れない阿呆はいないだろう?
事実、先輩は人気があった。同学年からもその上の先輩たちにも。下の学年や女子にも慕われていた。……実習に行った先々の、病院の医師たちや患者にまで人気があったようだが、大学の教授たちにだって気にかけられていたみたいなんだ。
俺なんかじゃ全然駄目だと、とっくに諦めはついてる。……けど。いつも目が追ってしまうのは止められなかった。
……昨年の大晦日の深夜、俺の家のすぐ近所の神社から、除夜の鐘の音が聞こえてきた。その瞬間、急激に、先輩が卒業してしまう! という思いが強くなった。……俺は心の奥底から沸き上がる切なさに、居てもたってもいられなくなったのだった。
そして、そこから始まるグループライン。俺はショウタに愚痴っただけだったのだが、気付けばそうなっていた。
今日の初詣の情報に繋がった。よつ葉先輩の友人と同じ学生用アパートに住む友達にラインが繋がり、そこから先輩たちの班が今日、大学の近くの神社へと、初詣に行こうとしていることが分かったのだった。
俺の家から大学まではチャリで20分。そこから神社までは家からは逆方向なので、……何分だろう? A駅から大学はバスで15分と聞いた気がする。神社はその途中にあるのだ。
スマホと財布とチャリのカギを掴んで階段をかけ下りる。背中に母さんの声がかかる。
「おはよう。お餅焼こうか?」
「要らない。出掛けてくる!」
玄関ドアを開けながら言い放つ。道路に自転車を出し、飛び乗る。
急げ。
急げ。
急げ。
あの人に会うためにーー。彼女が卒業するまで、あと何回会えるか分からない。
急げ。
急げ。
急げ!
俺は車が少ないことを喜びながら、町を疾駆した。
汗だくになりながら神社にたどり着く。着衣が湿り気を帯び、気持ちが悪い。
知らぬ間にぎゅうぎゅうとハンドルを握りしめていたのか、単に冷えてかじかんでいるのか、自転車のカギを外そうとするが、指先が思い通りに動かない。
「くそっ。ここまで来て!」
愚痴を吐き出しながら、やっとカギを抜きポケットへとねじ込む。本殿へと駆け出そうと振り返ると、そこに人並みが……。
「すみません、通して下さい!」
人混みをかき分けながら呟く。
「すみません、すみません。……申し訳ない」
ボソボソ言いながらすし詰めの道を行き、キョロキョロと見知った顔を探す。
ーー俺は先輩に会って、どうするつもりなのだろう?
ふと、疑問が頭に浮かぶ。
…………分からない。
ーー告るのか?
…………分からない。
ーー他の先輩たちもいるのに?
…………分からない。でも!
どうしても今すぐ会いたいんだ!!!!
気持ちが走って行くーー。
彼女の姿を求めて探し回り、本殿へと辿り着くと、耳馴染んだ声の会話が聞こえてきた。声のした方を見ると、そこには友人たちに囲まれた彼女の姿が……。
「またぁ、小野くんはそんなことばっかり言ってぇ」
「おう! こういう台詞は俺にしか言えねえよ!!」
小野先輩の言葉に、その一団に笑い声のさざ波が起こる。彼女が楽しそうに笑っている。……それはまるで、そこだけ春のようでーー。
その瞬間分かってしまった。俺の入り込むスキマなんて、これっぽちも無いことに。
彼女の笑顔が見れたことで気持が落ち着ついた俺は、先輩たちからそっと離れると来た道へと歩き出したのだった。
神社の片隅でそっと神に祈る。
どうか、願わくば、彼女がずっと笑顔でいられますように、ーーと。
完
このお話のお正月とは、来年のお正月です。お話の内容を考えていたのは去年の年末でした。
来年のことを話すと鬼が笑うと言いますが、再来年のことを考えていたという……。(汗)
お読み下さって、ありがとうございました。