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私と俺の怪物or騎士伝  作者: キノカミ
まだ平凡な日常
3/3

迷子は人生必要

「あはは、これは……」

 思わず立ち止まり、私は涼しい風と共に、高くないビルたちを一つ一つじっくりと観察し、ため息をつく。

 周囲の環境は当たり前のように初見しすぎて、自分は少し黄色ぽい空から目を逸らし、足元の馬鹿でかい木製箱を見つめ始める。

「まさか、この年になっても、まだそういうドジをするとはね……」

 それに、こんな最悪の状況で……

 周囲を見渡す、自分は今広い広場のような空間にいることは分かる。鳥と森の組み合わせのような、そういう雰囲気が私を取り込んでいる。

 まるで、一人で無人島にいるみたいだ。

「迷子が……」

 自分の馬鹿さを嘆いて、私は解決策を考え始める。

 しかし解決策と言ってもね……魔法はもちろん使えないとして、携帯も持っていないこの状況で、解決策と言っていいのは、ただ元に戻ることしかないと思うなあ……

 ……そうな時だ。

 私をなすすべもない泥沼から引っ張り出したのは、どこかの遠くて美しい……

 ———ピアノの音色だった。

 すごい……

 周りの空気が……一瞬で変わった。

 柔くて鮮明に、それと僅かな悲しみが少しづつ湧いてくる、まるでお互い理解を求めあってるかのように、声に秘められた様々な感情が流れてくる。

 なんだこれ……

 あの教会から?

 少しづつ教会に近づいていく、距離を縮めば縮むほど、その抑揚感が強くなる。

 一分一秒、その素晴らしき芸術は空間の隅々まで辿り着いている。心を優しく撫でるような音色は周囲の環境と一緒に、奇跡を起こしている。

 その奇跡と共に、私は教会の扉を開いた。

 そしてそこには、ある少女の姿が……

「……うん?」

「君は……」

 思わず見惚れてしまった、私はぼーっとしたまま彼女を見つめた。

 精巧極まりないほど綺麗な顔、可愛らしさを失わずに彼女はじっと座っている、うさぎ模様のヘアピンは彼女のバラ色の髪に飾り付いて、ピカピカに輝いた目が私を引き込ませる。

 なんか貴族のような雰囲気だな、見たところ12歳くらいか……

「あの……申し訳ございません、お祈りの邪魔をなりましたみたいで…… 只今退散するので、どうかお許しください」

 そう言って、彼女は速やかに立ち上がり、 言った通りに立ち去ろうとしている。

「あっいや、ちょっと……!」

 慌てて呼び止めて、私は一歩前へと進んだ。

「あの……違います、祈りじゃないです、えーとなんつーか、たまたまというか、単に気のままの方が正解がな……」

 美しい音色を聞いて、そのまま何も考えずに来たなんて、流石に少し恥ずかしくて言えないね。

「……?」

 思った通り、彼女は不理解そうな顔をして、少し頭を傾いた。

「あ……まあ、それより、お嬢じゃんはいつもここでピアノをするのですか?」

 少し恥ずかしげに、私は話を切り替える。彼女は自身に対する質問が急に振られることに少し驚きの後、すぐに可愛い笑顔に戻ってしまい、話を続けた。

「はい、時々今のようにここでピアノの練習をしておりますよ。普段は人の迷惑にならないよう気をつけているんですけど、どうやら今回は少し夢中になって……本当、申し訳ございません」

「あ、いや、迷惑なんて……むしろ……」

「むしろあまりにも綺麗な音で、感動したよ、本当に……素晴らしかった、そんなピアノ、初めて聞いた」

 彼女の隣のピアノに視線を向けて、私は賛美の言葉をなんの保留もなく打ち込んだ。

「え……っえ!わ、私の……ピアノですか……」

「そんな……そこまでではありません。ただ、昔から好きだったもので、それで少しだけ弾けるようになりました……レベルはまだまだ誇れるようなものではありません」

 彼女は平然に語った後、手でピアノの上を流し通る、口の中から何かを呟いて、僅か自嘲な笑顔を示した。

「……」

 何を言えばいいのかはわからなくて、沈黙だけが溢れていた。

「っあ、すみません、お困りのようですね、どうやら機嫌を損ねてしまいましたみたいで……」

 彼女は気まずそうな笑顔を晒して、椅子から立ち上がった。

「で、では……日もだんだん暗くなりましたので、そろそろ退散させていただきますね、本日は本当にご迷惑を掛けしました」

 まるで私の感情が悟ったように、彼女は適度なタイミングで沈黙を終えた。

 そうだ、全ては都合よくすぎるんだ……

 彼女の行動は、まるで経験豊富な大人のように完璧だった。

 だから、違和感があった。

 それと伴って、ある知らぬ感情が私の心から芽吹いた。

「あの……よかったら……」

「次も聞かせてくれないかな」

「……っえ?」

「しょっちゅうここに来るでしょう、だから……次来るとき、私に知らせたいの」

「そうすれば、次も聞けるから」

 彼女はつぶらな瞳をもっと丸くさせて、その驚きさは隠れようもしなかった。私がそんなこと言うなんて思ってもいなかっただろう。

 私も同じだ。

 自分がそんな感情を持っているなんて、本当に思いもつかなかった。

「私、カルートフランクです、よかったら、連絡先、交換しません?」

 まるでナンパみたいなセリフで、私は笑って彼女へ一歩近づいた。

 普段なら絶対に言えない言葉を、今はっきり言えるのは相手がただの子供だからでしょうか。

「……あ、こ……どし……」

「どうして……」

 呟いて、彼女は少し困ったような、いや、むしろ切なそうな顔で私を問い詰めた。

 そんな顔もできること、それも私が彼女を引き止める理由の一つなのでしょう。

「さっき言っただろう……」

 おそらく、彼女は重すぎる期待を背負っているのでしょう。

 その年とふさわしくない言動、使いこなしている敬語、それとその華麗に飾っていたワンピース……

 貴族のお嬢さんとして、いろんな制限を重なっているのでしょう。

 だから、そんなろくでもない笑顔ができる。

 先生になって、教育者ふりをしたかったかもしれません。

 それとも彼女の同情なのかな……

 まあどちらにせよ、私はもう一歩を踏み出したんだ。

 だから、今はこう言うしかなかった———

「あなたのピアノ、綺麗だから」

 ———ってそう言った後しか、気付く事ができた。

 彼女の手が、いつの間にか、震えていた。

 はーーって小さく、気付けないくらいため息の後、彼女は震えを止まる。

 そして彼女は笑う———

「初めてあった私に、そうなこと言うなんて、あなたが初めて……」

 笑った顔で、子供らしき幼い声で、彼女は言った。

「ありがとうございます」

「でも、ランパなら、私じゃ少し物足りないと思いませんか?」

 ランパだと誤解された?

 いや、それは違うんだ。

 おそらく彼女はただ———

「冗談です」

 そう……ただ……

 冗談を言っているだけだ。

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