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君が何を言っているのか解らなくて痺れてしまいそうです  作者: ゼロステ
第一章 言葉が通じない少女
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第一章2  目覚めて初めて夢だと気づく

 謎の金髪の美幼女に追いかけられ撃たれまくって、最後はどうなったかも分からず気を失ってしまったわけだが……。



 ――全部、夢だった。



 幼い金髪の少女に殺されそうな夢を何と一話分丸ごと使ってしまった。

 もうちょっとダイジェストにお伝えして、一話の半分でここに来たかったが余りにも現実的過ぎて不吉な夢だった為、最後まで語ってしまった。 


 季節は四月の中旬、桜が舞っている春だというのに寝汗をかいてしまうほど蒸し暑かった。

 夢のせいか分からないが、この暑さと寝苦しさに目が覚めてしまった。

 オレは頭を掻き部屋のカーテンを払い窓を開ける。


 悪夢を見るなんて、小学生以来だ。

 あの時は家に飾ってあった舞妓人形が勝手に動く夢だったっけ。どっちも同じくらい怖かったなぁ……。でも美幼女に追いかけ回されるのも中々悪くはない。

 そういや、悪夢を見るときはオバケが近寄っているとか何とか昔、叔父さんから聞いたことがある。案外、あの少女の幽霊がオレに近づいて来てたりして……。


 ――なんてな……。


 少し風が吹き、部屋に新鮮な空気を入れると幾分か暑苦しさが消えて行く。

 欠伸をし背伸びをしてから机の上の時刻を見ると、六時四十分を回っていたことに気づく。


 その時計の横には本という本が山のように積み重なっており、それが乱雑に無造作に置かれていた。その本の山は今にも崩れそうなほど、絶妙なバランスで保たれていたのだが、その山が窓を開けた振動で少し崩れてしまい、そんな崩れて行く本の山を見てオレは、


 ――漫画の……読み過ぎか?


 と思ってしまった。


 突飛し過ぎた最強チートキャラ設定に美幼女。

 そんなもの漫画フィクションのような出来事だ。


 その積み重なっている本は、すべてが漫画である。

 今昔ジャンル問わず漫画、雑誌が部屋のあっちこっちに置かれている。


 本棚に置けばいいのだが、肝心の本棚は右から左まで綺麗に隙間なく並べられてこれ以上置けず机の上に積み重なって本の山となっていた。

 それを見て少しは片付けて部屋を綺麗にしておきたい、と思えてならないが――如何せん性格故か、やろうと思ってもやる気がまったく起きない。こんな自分が本当に整頓と綺麗好きが多いと評されるA型だということを、自分自身で疑ってしまうぐらいの性格さだ。中には神経質もいるとか。


 ――で、えーと、何の話だっけ?


「…………」


 オレは少し呆然として部屋の天井を見つめている。

 部屋や本の山のこと云々で、夢のことなどもう忘れてしまったオレは、阿保にも間抜けにも馬鹿にも「まあ、いっか」と一言だけ言って再び欠伸をしながら、部屋を出てダイニングへと行く。


 所詮、夢は夢だ。 美少女が出ようと光線を撃たれようと追いかけられようと殺されようと、現実の人間が本当に死ぬわけがない。

 好きな人が夢に出てきて、デートをする夢を見ても正夢になった試しなど一度もない。それどころか出会ったこともない人間が、夢の中に現れるなんてこともしょっちゅうあった。

 

 それを毎回毎回、夢に出て来る人の顔、性別、服装などなど一々覚えちゃいない。なのでオレは割とあっさりと、一日どころか起きて三分で忘れるようにしていた。


 ――まあ、今のは三分も経過せずに忘れたが。


 オレには、漫画のキャラクターのように『完全記憶能力』や『人の夢の中を自由に見ることが出来る』といった異能または魔法、または超能力なんてものは一切持たない。


 『一切』無い。

 『一切れ』どころか『半切れ』も能力という能力が無い。

 要するに、世間から見れば、オレは無能だということだ。だが良いじゃないか、馬鹿でも間抜けでも阿保でも、今日も焼きチーズを乗せたパンは美味いし、牛乳を一気のみ出来るし美幼女の夢だって見れたんだから。


 外は夜明けで薄っすらと明るく――はなく薄暗い。

 朝どころか午後過ぎのごとく、外は太陽の光など無かった。まぁ、例えこれが六時になっても七時になっていようとも、外は夜のように真っ暗だろう。

 なにせ春先だというが、ちょっとした早めの梅雨前線が到来し、この地域一帯に巨大な積乱雲が上空で停滞し、常時曇りにしているからだ。のち雨のち雷。


 降ったり止んだりを繰り返しジメジメとした心地悪い湿度高めの今日の気温は二十五度。湿度七十パーセントぐらいか。

 まだ良い方だな。


 あと一、二か月もすれば、完全に真夏の暑さになる。


 仕方がないと言えば仕方がないのだ。

 地球温暖化だし特に‟アレ”が空に出てしまったときから、否応なしに異常気象が起きて季節に狂いが起きても仕方がないのだと最早人類は自然に対して考えを――『諦める』ということに到達してしまったのだ。


 どうしようもないことを、ただうだうだと考えているより、空調機を使って凌げば良いのだと考えれば、何も問題はない。――まあ問題は個人にとっても、人類にとっても色々あるだろうが(主に電気代など)ついつい目を背けてしまうのは、人間の性なのだろうか。


 さっきから思っていたのだが、見ているテレビ番組の内容が前にも見た気がしてならない。昨日だったか、いや、一昨日だったろうか。


 ――これは既視感デジャブ


「そうか、これがデジャブか」


 その番組の内容は、世界経済と今後これから起こり得る混乱を想定した話題――まあ、よくある内容だ。よく見る同じ人物、同じ内容、同じコメンタリー。


 確か――。

 確かそうだ。

 次のニュースは、日米の首脳会談の様子をレポートする内容だった。国交関係は良好であるというアピールで握手をするあの場面。


 オレは次の内容になるまで、テレビの前で立ち固唾を飲んで見つめていた。

 もしも、その通りだったらどうする?

 デジャブではなく本当に一日を繰り返しているとか『予知能力』だったらと思いながら、ニュースが次の話題に行くのを待っていた。


 次のニュースは――


 ――『女子児童を拉致誘拐し監禁しようとした疑いのある男を逮捕した』という報道内容だった。

 画像も首脳会談にて握手とかではなく『幼女LOVE』と書かれたTシャツの男が「俺は無実だ!!」と下半身裸で訴えている画だった。もちろん‟あそこ”はモザイク。


「…………」


 よし、朝食を作ろう。

 オレには異能や超能力が無いことが証明され少しがっかりしたが、直ぐに気持ちを切り替えて制服に着替える為、自分の部屋へと戻った。


『次のニュースです。目撃情報が相次ぐ‟幽霊船”を――』



*** *** ***



 自己紹介が遅れたが……あれ?

 しなかったっけか? まあ、いいや。オレの名は九ノ葉佑汰。

 九枚の葉っぱ、人偏に右、さんずいが付いた太郎の太と書いて『ここのばゆうた』と読む。


 『汰』という字は、人名であまり使われないほどだとよく聞く。なにせ『狂気の沙汰』や『淘汰』という熟語に使われていて、あまり良い意味ではないからだ。

 たしか、『選び分け捨てること』という意味でもあったか。詳しくは知らないが、中学でそう習った気がする。

 それでもオレの名前に『佑汰』と付けたのは、『選び分けられ捨てられたものを助ける。または救う』という意味でつけたと叔父さんが親父から、それをオレが叔父さんから聞いたのだ。 


 だが、親父は『救汰きゅうた』でも良いんじゃないかと母さんに言ったら『それはない』ときっぱり苦笑いして言われたらしい。叔父さんは、そのことを笑いながら話してくれた。

 ――オレもそう思う。

 もしそうだったら今頃『きゅーたろー』とか変なあだ名にされていただろうな

 もっとも今のあだ名も不本意なのだがな。

 今のオレのあだ名は『三下』で、決して『ザコ』と読むのではない『さんした』と読むのだ。意味は一緒だがな。

 小学校からのあだ名だが、幼馴染みたちがいるとこれが高校になっても呼ばれるんだから参った。

 

 ――そろそろ行くか。

 時計を見て、いつものバスが来る時間が迫って来ている。


「いってきますっ!」


 朝食を終え制服に着替え終わるとオレは、静まり返った家の奥の部屋にいる叔母さんに軽い挨拶したあと、玄関のドアを開け生暖かい風を受け外へと出た。


 空に漂う雲は、曇ったまま雨が降ったり止んだりしているので、最近は携帯用の折り畳み傘も忘れずに持って行っている。


 家を出て徒歩数分先にあるバス停でバスに乗り三十分かけて高校に通っている。

 このバスでは、いつも同じ時間帯に乗っている。なぜなら友人兼幼馴染み兼クラスメイトが乗るからだ。

           

 ――と思っていたが、‟今日は乗れない日”らしい。


 次のバス停を窓から覗くが、友人はバス停には居なかった。

 そいつはある病気を患っており、たまに――まあ、たまにバスに乗れない日があると本人が言う。

 何だろう?

 今、オレの記憶に一瞬 もやが掛かったが気のせいか。


 オレは至って健康状態だから病気を患っている人間のことはよく分からない。分からないから無闇に訊かない主義である。

 だから、そいつがどんな病気なのかは知らない。人の病気に関して、あれこれ訊くのはよくない、と叔父叔母夫婦から子供のころによく言われていたからだ。

 友達なら親身になってやるやつもいれば、そうでもないやつもいるということだ。だけど全く気遣わないわけではない。それなりにオレは気を使っているほうだと思っている。――たぶん。


 ちなみにそいつは、学校に来ないというわけではない。

 ちょっと遅れるだけであり、普通に朝のホームルームもぎりぎりだが間に合っているのだ。

 だから――、


「ま、待ってぇー!」


 甲高い声を上げて走りながらバスに乗る一人の女子生徒が息を切らしながら乗り込む。


「蒼珂。おはー」

「はぁ……はぁ……、間に合ったわぃ。あ、ゆう。おはー」


 運転手に定期券を見せると、オレの元へと歩み寄る。


 こいつが先ほど言った友人兼幼馴染み兼クラスメイトで天草蒼珂あまくさそうかという名だ。

 蒼珂そうかは、背中少し下まである長い髪に不思議な形の癖毛が頭頂にあるのがチャームポイントの男子――じゃなかった、女子だ。

 中性的な顔立ちのせいか、よく間違えてしまうのだ。

 ちゃんと女子生徒の制服を着ているし胸だってある。


 ちなみに、不思議な癖毛の形がどういうものなのかは、読者の皆さんの想像にお任せする。


「ぎりぎりだったな……、それにしても……」

「ん?」

「相変わらず酷い格好だな……」


 蒼珂のダメなところは何といっても“だらしなさ”だ。

 急いで起きて支度して出て来た感じのする制服の着方。もはやギャルの着崩しというレベルじゃあない。


蒼珂そうかにゃー?」

「自分の名前を駄洒落に使うな。まずネクタイ! 緩みすぎて解けかけているじゃないか。ブレザーのボタン掛け違えている。シャツもそうだとか言わないでくれよ? あとスカートは微妙に右側に寄り過ぎている。髪は跳ね過ぎ、櫛で梳かしもしないのかぃ!」


「わしの婆みたいに言うねぇ。もしくは筋肉亜先のようじぁ~。にへへっ」


 緩み切ってる。

 これ以上ないほどに、この女は緩み切っている。緩みすぎて服や顔だけじゃなく言葉まで緩々だ。

 蒼珂の家は爺さんと婆さんの三人暮らしで、そのせいか昔から年寄り臭い言葉を使うのだ。


「佑は相変わらず、きちっとしとるのぅ~」 


 蒼珂はオレの隣に座り服装を直しはじめる。


「そんじゃ直すかの。髪押さえとるんで佑、これで留めてくれ。はよはよ」


 そう言ってオレに髪留めの赤いシュシュを渡し背を向く。

 いつものことだから慣れているが、綺麗にしていれば美少女なのに勿体ないほど蒼珂はだらしない。


 オレは蒼珂が押さえてあるフサフサの髪を纏め上げ束ねてシュシュで括る。


「ありがとん」

「どういたしまして。こういうのは女子同士で頼むよ」

「……男同士じゃ……と言ったくせに……」

「ん? 男同士がどうしたって?」

「何でもない。何でもないのじゃ!」


 蒼珂がボソッと呟くから気になったのに……、何を頬を膨らませ怒っているんだ。


 バスが高校近くのバス停へと近づき、停車ボタンを押すとオレたちはそのバス停で降り高校へと足を向ける。

 さらにここから数分歩いたところにオレたちが通っている学校――北佐世保きたさせぼ高校があるのだ。


 古くもなく新しくもなく。

 まあ、どこにでもありそうな普通の高校だ。

 正門を通るとドーナッツ状の円周型の前庭に、円の中央には芝生が敷き詰められている。その庭には名称があったが忘れてしまった。


 校舎は全部で五棟あり、すべての棟にAからEと付けてアルファベット呼びしている。ざっくり説明しても長くなるし、面倒くさいので以下省略。


 教室棟はB棟にあるので庭を東側から回り込んでから入らないといけない。

 一年、二年、三年専用の下駄箱があり、オレは二年専用の昇降口から入ると上履きに履き替え、一年四組と書かれた教室に入る。



 ――ああ、何故二年の下駄箱で履き替え、そして一年の教室に入るのかということは後日に説明しておく。

 とりあえず、オレたちは一年四組に在席する生徒なのだ。

 入学して一年――じゃない。‟再入学”して一週間経ったであろう教室に入り、幼馴染みたちとクラスメイトに軽く挨拶をする。


 オレには蒼珂の他に四人の幼馴染みがいて、全員この学校に通っていて、しかも同じクラスにいる。偶々偶然にいつも同じクラスになる六人だ。不思議なことに……小学校から一度も別々のクラスにならない。


 まぁ、クラスメイトに五人も幼馴染みがいれば、もうこれはクラスで友達を作らなくても済むレベルだ。今更、友達を作るのもかったるいし、友達も恋人も幼馴染みで充分だと思えてしまう。もっとも、恋人同士になった幼馴染みはオレたちの中にはいないし誰かが付き合っているという話も聞かない。


 幼馴染みはそんなオレの考えと違い、それぞれクラスメイトに友達がいる。知っているのはこれくらいで、誰かは知らない。

 

 オレの席は教室から入ってすぐ一列目廊下側最後尾になる。

 眩しい太陽の光も当たらないし風通しが良い個人的に最高の位置だ。ちなみに蒼珂はオレの左隣である。


 ――あいつは今日も来ないか……。


 オレは自分の席に座り前の空席に目を向ける。

 その席に座っていたのは、オレの幼馴染みの一人である。


 もう一ヵ月近く音信不通の――幼馴染みだ。

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