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ジャンヌの小指  作者: 桃巴


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22/23

小指を繋いで

 ーーカーンカーンカーンバリッバリッバリッバサンッーー


 今日も木を切り倒す音が響いている。最初はジャンヌがなんとか張ったテントだけであったが、今は小さな家屋が三つほど出来上がっている。一つはジャンヌの家、一つは眼帯とアンジーの家、残り一つにムカデらの家であるが、まだ家屋は足りない。村にも及ばぬ集落とも言えぬ、開村にはほど遠い。


「嬢ちゃんらは小枝を拾ってくだせい」


 テツから言われ、ジャンヌはアンジーと一緒に小枝拾いに向かった。昼の夜営飯のための小枝だ。


「アンジー、あまり遠くに行かないでね」


「だいじょうぶう。テッチャンむらでいつもひろってたもん」


 二人は広場から見える場所で小枝拾いをはじめた。


 ーーカーンカーン……


 山の斜面では眼帯が木を切っている。ムカデらは眼帯が切った木を運んだり、それを使って家屋を作ったりと忙しい。


 ジャンヌは山の斜面を見上げ、その向こうに見える青空を見つめた。


「……ァ……ス」


 ……バリッバリッバサンッーー


 小さな呟きは木が倒れた音でかき消される。その音に気づいたジャンヌは口元に手をあてた。無意識にその名を呼んでいたことに、自身で気づいたのだ。小枝がバサバサと落ちる。ジャンヌの両手は小刻みに震え、息を詰まらせていた。


(会いたい)


(会いたい)


(会いたい)


 込み上げてきた思いにジャンヌは身を屈めるしか抑えられなかった。小さく身を屈めて自身の温もりと息遣いを感じる。


「駄目よ」


 やっと出た言葉は自身を戒めるものだ。求めては駄目だと。望んでは駄目だと。心の砦をさらに積み上げるように、ジャンヌは何度も『駄目よ』と呟き続けた。もう限界はきているのに、それでもジャンヌは堰を切らない。……泣いたりしない。


 ジャンヌは呼吸を整えて立ち上がると、また小枝を拾い出した。その光景を遠くから眼帯が見ていた。テツもムカデらも。泣かないジャンヌを見ていた。




 翌日もジャンヌは小枝を拾っている。ぶつぶつと文句を言いながらジャンヌは拾っていた。


「別にトンカチだって、鍬だって持てるのに! 私だって村を作りたいのにい!」


 ーーバキボキッーー


 長めの枝を力一杯足で踏みつけて折る。八つ当たりのように、ジャンヌは枝を踏みつけた。一心不乱に小枝を拾うジャンヌは背後から近づく気配に気づかなかった。


 ヌッと影がジャンヌに重なる。ジャンヌはそれに気づくと、集めた枝の袋を横にドンッと置き腰に手をあてた。影に向かって怒りだす。


「熊! って言うと思った?! 脅かそうとしたって無駄よ! 小枝たっくさん集めたわ。今日の分は十分集めたはずよ。私、午後からはムカデと一緒に家を作るから! 文句なんて言わせないんだから!」


 ジャンヌは肩で息をする。一気に言いきったからだ。




「わかった、一緒に家を作ろう。ジャンヌ」




 瞬間、温もりがジャンヌを覆う。


「ジャンヌ、約束したろ? 一緒に笑って泣こうって。独り占めするつもりだったのか? 未来を一緒に……約束しよう」


 ディアスの小指がジャンヌの小指の絡めた。


「ディ……ア、ス?」


 ジャンヌの声は震えていた。


「うん、そう。熊じゃない」


 ディアスがフッと笑った吐息がジャンヌの耳を熱くした。込み上げてくるものを抑えられない。限界が堰を切った。ジャンヌの頬に一筋流れる。


「会い、たかっ……た」


「うん、俺も」


 また一筋流れる。


「触れても、いい、の?」


「うん、もう俺は触れてるけど」


 ジャンヌの手がディアスの手に触れる。ジャンヌを抱きしめているディアスの手に。ジャンヌの一筋がその手に落ちた。


「泣いて……い、いの?」

「もう、泣いてるよ」


 ディアスはそっとジャンヌを離すと、優しくジャンヌの向きを変えた。泣き顔に手を滑らせる。ジャンヌはその手に頬を寄せた。そのまま惹かれあうように、互いの体が重なったのだった。




***


『ジャンヌの小指』


 ~完~


***

本編完結です。

次話番外編、本日中に更新します。


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