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騎士たち

 王間は、ゲラルとシャルド、王宮騎士を解任された三人の騎士だけとなった。


「ヒントだ」


 ゲラルはディアスにあるものを投げた。ディアスは反射的にそれを掴む。


「見つけ出してみろ。そしたら考えてやらんでもないぞ。だが、あれが首を縦に振ったならばだ」


 ディアスはゲラルに深々頭を下げた。ゲラルはフンッと鼻を鳴らす。そして、背後のレイとタスクをギロリと睨みつけた。


「あれのお転婆は昔からだ。ちゃんと見ておくようにな」


 ディアスには声だけが届く。ジャンヌを頼んだとの意味合いに聞こえるだろう。しかし、レイとタスクにはゲラルの脅しである。二人は肩をすくめた。ゲラルは二人の頭をぱんぱんと叩いて王間を後にした。


「さて、儂からもヒントを出そう」


 シャルドはそう言って顎を擦る。


「儂もジャンヌの居場所はわからん」


「それがヒントですか?」


 レイが不服そうに発する。シャルドはそうだと言ってニヤリと笑った。ディアスは手を開けてゲラルのヒントを見る。そこに原石があった。タスクがそれを覗き込んで言った。


「まずは村に行こう」


 と。




***




「……なんか違う」


 ジャンヌは出来上がった夜営飯を食べたが、思ったような味にはならなかった。


「うーん、やっぱり眼帯のが一番美味しかったなあ」


 ジャンヌの言葉に答える者はいない。少し離れてリリィが居るだけだ。ジャンヌは焚き火に手をあてた。手は皮が捲れ傷だらけだ。


「明日は木をもっと集めよう」


 夜営飯を食べて、なんとか張ったテントに入って横になる。ジャンヌは小さく丸まった。


「みんな元気かなあ……」


 疲れがたまっていたジャンヌはそのまま深く眠り込んだ。




 ーーカーンカーンカーンバリッバリッバリッバサンッーー


「な、何?! 何なの!」


 ジャンヌは飛び起きた。振動がテントを揺らしている。テントを少し開けて外を覗く。視界に変化は見られない。しかし、ぬっと影が現れる。テントから顔を出すジャンヌよりも大きな影だ。テントを覆うような大きな影。


「く、くま!」


「あーん?! 熊だとぉお?」


 ドスのきいた声は、怒っている。熊と呼ばれたことでなく、怒っているのは別にある。そこに小さな影が重なった。


「にぃちゃ、くまさん。きゃは」


 ジャンヌは素早くテントに戻った。


「いや、おかしい。いるはずはないのに、私はきっと幻聴を聴いているのね。うんうん、疲れているのよ。もう少し寝よう」


「おぉおぉ、そりゃそうだろうよ! そんなうっすいテントじゃ、疲れもたまるだろうな」


「ひっ!」


「こら! 出てこいジャンヌ!」


 ジャンヌはガクンと肩をおとすと、すごすごとテントから出た。項垂れた頭は仁王立ちの足をじっと見ている。


「……てめえ、俺を殺す気か? てめえを頼まれたのは俺だ。俺はリガ城でシャルド様に一発食らった。騎士たるもの、主を一人にするとは何事だと首に剣をあてられた」


 ジャンヌはばっと顔を上げた。眼帯騎士がニヤリと笑った。


「っとによお、お転婆は最後にしろってディアスが言ったのを忘れたってのか?」


「だって」


「だってじゃねえ!」


「にぃちゃ、うるさい。はらへった」


 アンジーがジャンヌの前に立って、眼帯騎士を指差した。これをチャンスとジャンヌはアンジーと肩を並べ、指差して『そうだそうだ』とアンジーと笑い合った。


 眼帯騎士は舌打ちして、飯の準備をはじめた。ジャンヌはそれをわくわくしながら見ている。ここはジャンヌがはじめて夜営飯を食べた所である。


「おーい、嬢ちゃん」


「テッチャンだ!」


 アンジーが駆け出した。


「ムカデも来ている。俺もアンジーもここに住むぞ。さっき、木を切り倒した。家作るぞ。村作るぞ」


 ジャンヌは苦笑いを返した。


「もう、会わないつもりだった。ごめん、眼帯。逃げたくなった。何だか単なるジャンヌになりたくて逃げたんだ」


「皆の前は辛いか? ゴラゾンの乙女や王太子の婚約者でいることが。皆の望みを背負うことは辛いっつうことか。単なるジャンヌか……そうだな」


 ジャンヌは眼帯騎士から夜営飯を貰う。


「美味しい」


 ジャンヌの笑みに眼帯騎士はホッとひと息ついた。そこにいるのは、ジャンヌだ。しかし、戦場で旗を持ち皆を率いたジャンヌとは違う。腑抜けになったアルシンドを叱咤したジャンヌとは違う。年相応のジャンヌがそこにいた。


「まさかこんな所に居ようとはな。ずいぶん捜したぞ」


 ジャンヌはいたずら顔を眼帯騎士に見せた。本来のお転婆なジャンヌの姿だ。


「最初はテツの村の予定だった。けれど、眼帯とアンジーが行くことになったからね。ここしか思い浮かばなかった。ここなら、絶対見つからないと思ったのに」


 ジャンヌは口を尖らせる。眼帯騎士はニヤニヤ笑った。


「俺は、最初の客はジャンヌだって決めてたんだ。『眼帯騎士の髪切り屋』だ。覚えてねえか? ジャンヌが言ったんじゃねえかよ。戦争後、どこでやろうか考えてたんだぜ。で、思いついたのがここだ。何もねえのに、ここだって思っちまった。俺の野生の感だな」


「ふふっ、それには敵わないな。うん、家を作ろう。村を作ろう。眼帯ありがとう」


 二人の前にアンジーやテツ、ムカデも集まった。皆が笑顔だった。




***




「ここにはいねえな」


 レイはハァとため息をついた。タスクは村を眺めている。ディアスは原石を掴み坑道の方を見ていた。


「新しい村は順調に発展していますね」


 タスクは優しく笑んだ。逃れてきた民の一部はこの村に留まり生活をしている。時おりムカデ一族がザルクス候からの指示を受けて、村の手助けをしているのも、ここに民が集まる理由であろう。


「それにしても……眼帯やアンジー、それにテツ兄もいないなんてな」


 レイは足元の石ころを蹴った。タスクがレイの脇を小突く。ディアスは眉を寄せてレイを睨んだ。


「テツ兄?」


 レイは失言に気づいたのか、目を泳がせた。愛想笑いをして歩き出そうとしている。ディアスはレイの肩をガッと掴んだ。いや、捕らえた。


「説明してもらおうか?」


 レイはタスクに助けを求める視線を投げるも、タスクは肩をすくめ笑っている。


「もういいでしょう。レイ、説明しましょう。私たちのことを」


 タスクはレイを捕らえているディアスの手をポンポンと叩いた。ディアスはレイから手を離す。レイは『手加減しろよ』と言いいながら、肩を擦っていた。


「私たちは幼い頃よりザルクス家に遣えています。私たちの木登りの師匠もテツですよ。ジャンヌと共に育ちました。ですが、ジャンヌは私たちを認識していないでしょう。私たちはムカデでしたから」


 つまり、包帯を巻いていたということだ。ディアスは二人の肌をつい見てしまう。タスクはそれに気づいたのか、『まいったな』と小さく呟いた。


「俺がその続きは言おう。俺の失態だし、後でゲラル様には怒られてやる」


 レイは苦笑混じりに発した。


「今から言うことを知ってしまえば、ディアスお前もザルクス家を背負うことになる。ザルクス家の秘密をだ」


 ディアスは真剣に二人に向き合った。『わかった』と了承の意を示しレイを促す。


「ザルクス家は、王家の見えぬ顔の役目を担っている」


「闇……騎士か?」


「さすが、ディアスだな。そう見えぬ顔こと闇騎士や、ムカデらもそうだ。まだ見えぬ顔はある。俺らは孤児だよ。俺はリガ山に置き去りにされた。タスクは王都の路地裏だ。ザルクス家は、身寄りのない者に……いや社会から拒まれた、捨てられた者に手を差し伸べてきた。


ザルクス家ではそういう者らをまず本邸に入れるんだ。包帯巻にされてな。俺もタスクも、テツ兄もさ……ジャンヌもザルクス家の方たちも、皆一緒に暮らした。俺らは一年ほどで出たけどな。俺は地方兵士として鍛練したし、タスクは闇医者に医術を学んだ」


 レイはそこでひと息ついた。


「ディアス、俺らは一生ジャンヌの傍にいるとゲラル様に誓ったんだ。王都で、あの裏切りをジャンヌは……独りで背負っていただろ。俺らは、一生ジャンヌを見守ると誓った。だから、ゲラル様には王間で怒られたぜ。ジャンヌはお転婆だってな。幼い頃一緒に遊んでわかってたはずだろってことだ。一人で突っ走りやがって、ったく、ジャンヌは本当にお転婆だな。どこ行ったんだろな」


 レイは言い終わったとばかりにまた足元の石ころを蹴った。


「ここに来てわかったことは、眼帯やアンジー、テツ兄や一部ムカデでがいなくなっていることです。もうひとつのヒントはシャルド様がわからぬ場所」


 タスクはそう言ってディアスを見た。ディアスは頷く。


「眼帯、アンジー、テツ、ムカデはシャルド様の知らぬ場所でジャンヌと共に居る。皆の足取りを追おう」


 三人の騎士は瞳を交わしたのだった。

次話更新2/6(月)予定

次話で本編完結になります。

本編完結後、番外編を更新します。

本編、番外編ともに月曜日で完結となります。

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