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「結婚式前夜まで~愛の毒~」

※この小説には過激なラブシーン&表現があるので注意して下さい※


激甘過ぎる上に話自体が長いです。

 ――長い旅から最愛のルーゼが帰って来て――

 私はただ嬉しくて幸せでただ愛しくて、その存在を確認するように再会した丘で、延々と口づけを交わし続けていた。

 そのまま時を忘れて没頭しているうちに、次第に夜風が肌に染みてきて、気がつけばとっくに日は落ち、辺りはどっぷりとした夜の帳に包まれている。


「ねえ、ルーゼ……そろそろ……屋敷に……帰らない?」

「んっ……そうだね……キスの続きは……帰ってからに……しようか……」


 お互いキスの合間に言葉を発して会話する。

 頷くと、大人になったルーゼはキスしたまま私を軽々抱き上げ、馬の上でもその状態を維持したまま移動しだした。

 片手で横向きに身体を抱えられ、馬を走らせている間までキスを止めない彼に驚き、先に帰ろうと促した事も含め、なんだか負けた気分になってしまう。


 屋敷へ帰ると両親は久しぶりに戻ったルーゼを見て驚き、夕食の席で私達が結婚する事を告げるとさらに引っくり返るほど驚いた。

 その後、当然ながら彼らから長々しい苦言を頂く事になる。

 特に父は相当怒ってたが、ルーゼの素直な謝罪と必死にそれを庇う私の態度に、二人の絆と意志が固い事を理解して貰えたのか、最終的には祝福の言葉を贈られ、結婚式の準備の手伝いまで依頼する事が出来た。

 さて、夕食も食べ終わり、両親との話し合いも無事に終えた私達は、早々に寝室へ戻る事にした。



「ねえ、今夜は別々の部屋で寝る?」


 寄り添って廊下を歩きながら、輝くハニーブロンドとエメラルド色の瞳に象牙色のなめらかな肌をした、大天使のごとく華やかで麗しいルーゼの顔をうっとり眺め、甘い声で試しに訊いてみる。


「嫌だ、もう、一時もあなたと離れたくない」


 さっとルーゼの顔に影が差し、浚うように私を抱き上げて足早に歩き出した。


「ルーゼ、私も同じ気持ちよ!」


 あわてて彼にしがみついて私も言葉を返す。

 だったら最初から訊かなければいい話なのだが、こういう無駄なやり取りも、恋人同士の楽しみの一つだと思う。


「良かった、レティア……、本気で言っているのかと思った」


「だって、離れていた間の積もる話もいっぱいあるし……今夜は二人でゆっくり話したいもの」


 

 しかし、いざルーゼの寝室に到着すると、話をする余裕など無くすぐにベッドに身を横たえられ、上からルーゼの身体がかぶさって来て、熱い抱擁と激しいキスの応酬が始まった。

 

 この屋敷の主人である彼の寝室は不在期間でも常に整えられ、いつでも使える状態になっていてベッドもふかふかだ。


「ああ……レティア……私のレティア……」


「んっ……なあに、私の大天使」


「夕食の席でも……はぁっ……あなたをこうやって……抱きしめてキスしたくてたまらなかった……。

 しばらくは部屋で……食事も済まそうね……。

 5分が5時間に感じられるよ……少しの間もあなたと身を離しているのが……辛いんだ」


 さすがに夕食の間ぐらいは耐えられる私の愛はルーゼに比べてまだまだ甘いらしい。


「分かったわ。私もずっと食事の時だって片時だってあなたと離れたくない」


「ああ……レティア……愛している……」


 後はひたすら熱く激しいキスを繰り返し続ける。

 本当にこんなにキスばかりしているのでは、いつかルーゼが言ったように口と口を縫いつけた方が早い気がしてくる。


「ねえっ……ルーゼ……思ったんだけどっ……ずっと……んっ……キスしてたら会話が出来無い……」


「息継ぎの時に……話せばいいよ……」


「分かっ……たわ」


 またしてもルーゼに愛の差を見せ付けられたような気になってしまう。

 ここは素直に愛の強さでは負けている事を認めて全面降伏した方が良さそうだ。

 私もとても深く彼を愛している自信があるんだけど、やはり彼の次元にまではいまだに到達していないらしい。


 口づけしているうちに興奮してきたのか私は唇だけではなく耳を舐められたり、指をしゃぶられたり、なんだかもう分からないほど、ルーゼの唇と舌、時に歯で、ベッドの上でもみくちゃにされ始めた。

 眼球まで舌で舐められだした時にはさすが泣きそうになったけれど、ルーゼの愛に必死についていこうとしていた私は、ぐっと堪えてされるがままにした。

 若干彼の性癖が心配になった部分はあったけど……。

 

 両目玉を舐め終わった後、自分でしておきながらルーゼは驚きの声をあげた。


「レティア……以前のあなたなら絶対こんな事させてくれなかったのに……」


「だって、ルーゼを愛しているんだもの、何でもあなたの好きにして」


「信じられない、本気で言ってるの? ああ……レティア、あなたは一体どうしてしまったの?」


 苦しそうにぜいぜい息を吐きながら言って、心臓のあたりを押さえだしたルーゼの様子に、私はとても心配になる。


「大丈夫? 具合が悪いの?」


「違うよ……病気でも具合が悪いわけでも無い」


「本当に?」


「本当にだよ……それよりレティア……何でもって事は……あなたの身体を抱いてもいいって事?」


「もちろんそうよ。そうじゃないと結婚に同意しないわ……」


「ああ……これは夢なの? ……やっぱり信じられない……」


 言いながらルーゼが震える手で確認するように服の上から私のあちこち触り始めた。

 しばらくそうしてベッドでされるがままにされていると、急にがばっとルーゼが起き上がった。


「ごめんレティア……少し待ってて」


 ルーゼは苦しそうな顔で続きの間である隣の部屋へ移動していった。

 明らかにおかしい彼の様子に不安になりながら出てくるのを待っていると、やがて扉が開いてベッドへと戻ってきた。


「お帰り、ルーゼ、どうしたの?」


「大丈夫、何でも無いよ。

 さあまたあなたを抱きしめてキスさせて……」


 その後は再び口づけと愛撫の時間になり、繰り返しキスしては、二人でベッドの上で身体をもみ合わせるように、ひたすら抱き合いいちゃいちゃしていた。

 時々思い出したようにルーゼが隣の部屋に引っ込む事が気になったけれど、彼の愛を存分に身体中で感じられてヘトヘトになりながらも幸せだった。

 結局、積もる話をする事が出来ないうちにその晩は疲れ果て、キスの途中で意識が落ちるように眠ってしまった。


 翌朝、閉けっぱなしだったカーテンから差し込む明るい日差しに目を覚ますと、目の前に充血して開いたままのルーゼの目があった。

 思わずどきっとしてから、ちゅっとキスして、朝の挨拶をする。


「おはよう、ルーゼ、ごめんね夕べは先に寝ちゃって。

 ……ルーゼはあれからちゃんと寝た?」


「ううん、色々考えながら、一晩中、あなたの寝顔を見てた」


「……」


 なんだろう、目が真っ赤なせいもあり、ルーゼの表情がとても悲し気に見える。


「ねえ、ルーゼ、 ひょっとしてだけど、何か私に言えない様な悩みでもあるの?」


「悩み? 悩みなんか無いよ。レティアのおかげで世界一幸せだよ」


「ならいいんだけど……」


「それよりレティア……あなたを抱きしめてキスさせて……」



 同じような調子で寝室に閉じこもっていちゃいちゃし続け、三食ベッドの上で取るような堕落した日々が続く事、三日間。

 私は段々、無事に結婚式までたどり着けるのか心配になってきた。

 

「ねえ、ルーゼ、毎日こんな風に過ごしてていいの? 結婚式の準備しなくて大丈夫?」


「……最短でライザに準備してくれように重ねて頼んであるから大丈夫だよ。

 今頃、招待状とか送ったり色んな手配をしてくれている筈」


 ルーゼは血が繋がっていない後妻の義母をライザと呼ぶことが多い。

 彼女は集まりごとの準備や采配が得意なので、私が仕切るよりは任せておいた方がずっと良いのは分かっているんだけど、自分達の式なのに何もかも他人まかせというのはどうなんだろう。


「たまには……寝室から出ない?」


「うん、分かった……明日から出るよ……でも今日はまだ……あなたをこうして抱いてキスしていたい……愛してる……」


「うん……私も……ルーゼとずっとこうしていたい……死ぬほど愛しているんだもの」


「はぁ……はぁ……」


 ルーゼがまた心臓のあたりを押さえて苦しみ出す。


「やっぱり変! 病気を隠しているの?」


「隠してないよ……本当だ。少し寝不足で具合が悪いだけ……」


「それも、問題よ! 昨日もおとといも寝ないで一晩中私の寝顔見てたんだから今夜こそは寝てよ」


「なるべく心がけるよ」


 答えるルーゼの顔色はかつての私のように蒼白だった。



 あくる日、四日ぶりに寝室から出てみると、ルーゼの言う通り、義母のライザは大急ぎで結婚式準備をしてくれているところだった。

 なんと聞けば私達が結婚を言い出した日から数えて一週間後の日付で急ごしらえの式が執り行えるように色々手配してくれていた。

 あまりにも短期間だから近隣の知人や親戚しか呼べ無かったけれど、ルーゼの強い最短という希望を叶えてくれていたのだ。


 ドレスの仕立てだけはさすがに間に合わない事が分かっていたので、保管してあったルーゼの両親が式で着たという衣装まで出してあった。

 幼い頃に亡くなったルーゼの産みの母親が、幸い私とほとんど身体付が一緒だったらしいのだ。

 彼も父親とほぼ体格が一緒みたいで、裁縫の得意な義母に手直しするからと試しに着せらてみると、二人ともあつらえたようにぴったりで驚いた。

 ルーゼの両親の結婚式は伝説に残るぐらい金と時間をかけた豪華なものだったらしく、一年かけて作られたという純白のドレスの美しさに感激して、私は当日着るのが楽しみでたまらなくなった。


 式の段取りが問題無く進行しているのを確認すると、私達は再び寝室へと引っ込んだ。

 その晩も、ルーゼの様子は相変わらずおかしくて、隣の部屋にしゅっちゅう一人で引っ込むし、心臓は押さえるし、息は荒いし、フラフラだし。

 どう考えても正常じゃない。



「お願いだから本当の事を言って!」


 とうとう、私は悪い想像に耐え切れなくなり、ベッドからがばっと起き上ると、心配のあまり涙を溢れさせ、絶叫した。

 自分の病気が治ったと思ったら今度はルーゼが病気になるなんて状況には、とても心が耐えられそうにない。


「違うよ……病気じゃないんだよ……」


「嘘よ、昨夜も寝ている私を一晩中眺めて泣いていたんでしょう!

 今夜こそもうはぐらかされないわ!

 心臓が悪いの? 何の病気なの? いつも隣の部屋に行って何をしているの?

 私達これから夫婦になるのよ!

 隠し事は止めて!

 正直に言ってくれないなら結婚なんて出来ないわ!」


 泣きながらルーゼをゆすり問い詰める。


「分かったよ」


 ルーゼは観念したように神妙な顔で重く溜息をつき、説明を始めた。


「まず……隣の部屋で何をしていたかと言うと、理性が吹っ飛びそうになってあなたを襲ってしまいそうになるたびに、生理的に自分をしずめていたんだ。

 あなたは抱いていいと言うけれど、やっぱりここまで我慢したんだから、初夜までどうにか耐え抜きたかった……」


 生理的という意味が良く分からないけど、欲望を落ち着かせていたという訳ね。


「じゃあ心臓を押さえていたのは?」


「レティアが愛しているというたびに胸が切なくて痛くなって」


「嬉しくてって事?」


「恐ろしいんだ」


「え?」


「愛されている状態が!」


「愛が恐ろしい?」


 思わぬ台詞にびっくりする。


「だって一生手に入らないと思っていたあなたの愛が手に入ったんだ。

 あなたの愛が手に入ればもう何の不安もなく幸せになれると、今まではそう思っていたのに……。

 実際手に入れてみると、今度はもうそれを失う事が怖くて怖くて不安で不安で気がおかしくなりそうで……。

 愛だけじゃない、今の自分の状態が幸せ過ぎて……気が狂いそうなぐらい怖いんだ!

 あなたの愛がこの幸せが……いつか失われるかもしれない、そう思うと!」


 愛が恐ろしく幸せが怖い……つまりルーゼは身体的じゃなく精神的なもので様子がおかしかった訳なのね。

 でも分からない、私なりに必死に愛を表現してきたつもりなんだけど……。


「私不安にさせるような事を何かした?」


「今のあなたがどうこうじゃないんだ……。

 あなたの過去の話なんだ」


「過去の話?」


 黒雲が空を覆うようにルーゼの顔に苦悩の色が広がっていく。


「まず、最初に出会った時、あなたはとてもヒメネス公爵が好きだった……丘の木の陰でキスまでしていたし……」


「……!?」


 な、なぜ、ルーゼはヒメネス公爵を好きだった事を知っているんだろう!?

 それに、木の幹に隠れて見えない角度でしていた筈のキスまで言い当てるなんて、ひょっとしてルーゼは癒しの力以外の能力もあるのかしら……。


「次にあなたはライナスが長い間好きだった……丘でやはり激しいキスをしていた」


「……っ!?」


 ライナスとのキスは見られていた自覚があった。

 さらにルーゼと婚約してから二年間ばかりは彼を好きだった覚えまである。


「それで、今度はレティアは私が好きだと言うんでしょう?」


「……何が言いたいの?」 


 むっとして問いかけると、ルーゼは感情を爆発させるよう叫んだ。


「次は誰を好きになるのかと思ったら、もう不安で不安で気がおかしくなりそうなんだ!!」


 そんなっ……結婚までしようと思った相手は初めてで、目玉まで舐めさせたのに……。


「一生ルーゼを好きだとは思わないの?」


「二度も心変わりしたのを知っているのに?」


 それを言われると非常に辛い。


「ルーゼだってそんな事言ったら分からないでしょう?」


「私は今までの人生でレティア以外の女性を愛した事が無い」


 たしかにそうだった……かなり酷い事をしても私が好きなままだった時には本気で驚いた覚えがある。


「じゃあ、愛が怖いから愛されない方がいいの?

 幸せが怖いから不幸な方がいいわけ?

 つまり私があなたを愛してない方がいいの」


 そう言ってみて、改めて思い返してみれば、私に愛されて無かった頃のルーゼの方がまだ様子が安定していた気がする。


「一度得た愛を失ったら、さすがの私も立ち直れないよ。

 自殺してしまうかも」


 想像でもしたのか、ルーゼの顔は恐怖に蒼ざめその身体はぶるぶると震え出した。


「自殺!」


「いいよね、レティアは、私が他の女性を好きになる事は有り得ないんだもの」


「なにそれ?」


「ごめん……レティア……こんな愚痴ぽくて陰気な私は嫌いだよね……ああ……だから言いたくなかったんだ……こうやってあなたの愛を失っていくんだ……」


 ルーゼは頭を抱え苦しそうに身を蹲らせた。

 私はそんな憐れな様子の彼を抱きしめ必死に言い聞かせる。


「嫌いになる訳なんか無いでしょう?

 ……私の大天使……この世が終わっても、私があなたを嫌いになる日なんか来ないのよ」


「本当に? レティア……」


 すがるように顔を上げ、見つめるルーゼのいたいけに潤んだエメラルド色の瞳と美しすぎる涙と泣き顔に思わず胸がきゅんとなる。


 ――同時に今さらながら色々身につまされてしょうがない。

 だってルーゼは自分が悪いと言ったけど、彼の話を要約すると、原因は明らかに私の今までの行い。

 同じように今の私がルーゼの愛を信じられるのも、彼の今までの行いのおかげなのだ。

 どんな酷い事をしても変わらぬ愛を注ぎ続け、献身的に尽くし、最期は一緒に死のうとまでしてくれた。


「私って本当に幸せ者だったのね」


「え?」


「あなたは一生私を好きだって信じられるんだもの」


「……ごめんね私は信じられなくて……」


「ううん、そうじゃない……悪いのは私……」


 私はまだ彼に安心させるだけの自分の愛の証明をしていない。

 今まで彼にたくさん癒され尽くされてきた分、今度はこちらから返す番なのだ。


「違うよ……レティア……私の不安症がいけないんだ……」


 余計に落ち込んで呟くルーゼに私は首を振って、その両手を掴んで自分の胸元へと引き寄せた。


「ううん……そうじゃないの、今はっきり分かった。

 私が安心出来るのはルーゼのおかげで、ルーゼが不安なのは私のせいだって!


 だけど、待ってて、きっと長い結婚生活で、あなたに私の愛を信じさせてみせるから……これからあなたに精一杯尽くすから。

 あなたの望む事なら何でもするし、嫌がる事はしないわ。

 あなたが病気になったら一緒に死んであげる。

 あなたの為に出来る事なら何でもしてあげる。

 愛や幸福があなたの心を痛ませる毒なら、私が一生をかけて解毒する。

 私の愛の毒で一生かけてあなたのその幸福の毒とやらを中和してあげる。

 ほら、毒をもって毒を制するって言うでしょう?」


「レティア……本当に? 一生?」


「うん、一生」


「もし、途中で私を愛さなくなったら?」


 この会話の流れには覚えがある。つまり正しい解答はこれだと自信満々に答える。


「死を持ってお詫びする!」


 ルーゼの顔は悲しそうに歪められた。


「あなたが死ぬなんて嫌だよ」


 あれ?……間違えた?……。


「そんな事はありえないから死なないからいいの!」


 ルーゼは再び苦しそうに心臓のあたりを押さえて訴えた。


「愛しくて愛しくて胸が痛くて壊れそうなんだ……」


「それも私が治してあげる」


 力を込めて請合うと同時に思いつき、私は長ったらしい自分の髪を二つに分けて、片方を取り、三つ編みを作り出した。


「何してるの? レティア?」


「私の無駄な長い髪で紐のかわりになるものを作っているの。これであなたと身体同士を縛っておくの。

 以前そうしたいと言っていたでしょう?

 口を縫い付けるのは無理だから、ずっとキスしてましょう」


 ルーゼは絶句して、驚いたような顔で作業を進める様子を眺めている。

 私は二本の長い三つ編を完成させると、二人の身体が離れないよう、身体の左右を通して、ルーゼの背中で先端を結び合わせ始めた。


「……ごめん私が悪かったよ……レティア……ほどいて……こうしていよう」


 溜息まじりにルーゼは謝ると、私の身体を正面からぎゅっと抱きしめてきた。


「分かった、じゃあ口を縫い付ける変わりに、こうして眠りましょう」


 言ってルーゼの唇に私の唇を重ねると、そのままベッドに身を横たえじっとして目を瞑る。

 そうして抱き合い唇を合わせて横になっているうちに、ルーゼは安心したのか、やがて静かに寝息を立てだした。

 不眠症が治った彼の様子に心からほっとして、私も続くように眠りへと落ちていった。

 


 ――目覚めると、今日はもう結婚式前日。

 私達は寝室で二人で一日中落ち着かず盛り上がっていた。


「どうしよう! あっという間に夜になっちゃった。今夜眠って目覚めたらもう結婚式なのよ!」


「待ちに待った明日は当日だね。嬉しくて心臓が破裂しそうだ」


「ルーゼ、頼むから、本当に明日破裂させたりしないでね?」


「レティアを置いて死ぬもんか、私が死んだらそれこそ他の男にあなたを取られてしまう」


「そっちの心配なの?」


 相変わらず安定のルーゼがおかしくて、笑いながら抱きついてキスをする。

 そのタイミングで寝室のドアをノックする音がして、続けて父の声が響いてきた。


「お前達、結婚する前日まで寝室へ込もるのは止めなさい。

 今夜ぐらい夕食を一緒に食べようじゃないか。

 全く、婚前交渉ばかりしてると、結婚生活に早く飽きてしまうとういうのに……」


 最後の方の父の言葉はぶつぶつとした愚痴のようだった。

 人生の先輩からの有り難い忠言なので否定はしなかったが……何年も同じベッドで寝ていながらも私達は明日が正真正銘の初夜なのだ。


 とりあえず父に言われた通り二人で寝室を出て食堂へ向かい、夕食を一緒に食べながら、結婚式の準備を丸投げしたお詫びとお礼を、心から両親に対して伝えた。



「いよいよ独身最後の夜ね。今夜ぐらい別々に寝る?」

 

 食事を終え、寝室へ戻る為に身を寄り添わせて廊下を歩きながら、私は一応ルーゼに甘い声で訊いてみる。


「嫌だ、って答えると分かっててレティアは訊いているんでしょう?」


 訳知り顔でルーゼが美しい顔に甘い微笑を浮かべてそれに答える。


「実は、ルーゼがそうしよう、って言ったら、噛み付こうと思っていたの」


「じゃあ噛み付かれたいから、そうしよう、って言う。だけど別々には寝ない」


 ちゅっとキスを交わし合うと、手を繋いで並んでルーゼの寝室へと入って行く。


「でも今夜は明日の為にきちんと寝ましょうね?」


 私の提案にルーゼは即答した。


「うん、明日の夜に備えてね」


「昼の式の為によ!」


 多少目的がずれている気はするけど、明日の結婚式当日を楽しみにしている気持ちは一緒みたいで嬉しい。

 ルーゼはまっすぐベッドに向かいその中に潜り込むと、早くもお休みのキスをしてきた。


「私は、明日の夜に備えてもう寝るよ」


 ルーゼはそう宣言してから、驚いた事にものの3分後ぐらいで本当に寝息を立て出した。

 これだけ早い時間からぐっすり寝られれば明日も安心だと、安堵しつつも彼の寝顔にキスしてから私も目を瞑る。

 

 翌日の夜、回復し過ぎた彼の体力を前にして前日たっぷり眠らせてしまった事を激しく後悔したのは、また別のお話……。



FIN






目玉……。


これ書いてて結婚生活を全年齢で書くのは自分にはやっぱり不可能だと再確認出来て良かった。

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近日(ざまぁ追加の)番外編公開予定→完結済作品:「侯爵令嬢は破滅を前に笑う~婚約破棄から始まる復讐劇~」
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