【一人目】第一話
少年は道を歩いた。
歩いている道には多くの人がいる。
都会の道だからだ。
炎天下の街のアスファルトの路面からは陽炎が出来ているのが目を凝らさずにでも分かる。
少年は学校からの帰宅中だった。
辺りにいる人も汗だくで歩いている。
勿論、少年も例外ではない。
この暑さの中、少し早歩きで進んでいた。
早歩きもすればより多くの汗をかくだぬろうが少年は構わず進んだ。
少年は一刻も早く自宅に着きたかった。
この道を汗をかかずに帰宅するのは不可能と考え、ならば大量の汗をかこうとも自宅で洗い流せば良いと考えた。
無論、早くクーラーに当たりたいとも考えていた。
少年は進みながら声を聞いた。
“二人五海〈ふたり いつみ〉。 国を救ってはくれぬか”
少年、五海は振り返った。
しかし、彼に話し掛けた様な人は見当たらなかった。
「誰...?」
そう五海はかすれかかっている声で呟いた。
“私は貴方の世界と別世界の者。貴方に国を救って欲しいのです”
その声は周囲から聞こえるのではなく、まるで脳に直接語りかけている様に聞こえた。
五海はその問いかけに答えるべく、口を開く。
「俺には何にも出来ないし、力もない。悪いが他を当たってくれ」
五海は即座に拒否を示した。
突然の訳も分からぬ声に拒否は当然だった。
しかし、声の主は引き下がる気配はなかった。
“いいえ、あるではありませんか。貴方には剣術が。”
その言葉に五海は声を荒らげた。
「バカなことを言うな!!あれは......、そんなものじゃない」
五海の怒号に彼の周囲にいた人々は足を止め、彼を凝視した。
それでも、五海は目もくれず、言葉を繋げる。
「あれは、救うどころか奪うだけだ。そんな思いもうしたくない」
五海が大声でまだ見えぬ声の主に告げた。
対して声の主は先程と変わらぬ口調で告げる。
“そうですね。それでは貴方は償いの為に私たちを助けて下さい”
それは、
“貴方の罪の払拭の為に私たちに力を貸して下さい”
そして、
“それが貴方の贖罪です”
神の御告げの様な声に五海は答える。
「出来る訳がない、そんなこと...」
だって、
「もう、元には戻らないのだから」
“いいえ、そんなことはありません。それに罪は何かしらしなければ払拭出来ません。”
そして、
“貴方は贖罪の為にその世界を放り出して此方に来る覚悟がありますか”
その問いかけに五海は、
「それが出来るのなら、受けよう、その救いの願い」
と答えるだけだった。
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五海は答えた、己の罪を払拭する為に。
あの事件のことは出来れば思い出したくなかった。
しかし、記憶はそれを許してはくれなかった。
ことあることに記憶がそれをリフレインさせる。
半ば諦めていた。
この“十字架”は一生背負っていかなければならないものだと。
でも、この力が奪うものではなく、救うものなら、少しでもあのことへの罪滅ぼしになるなら。
そう思い五海は決心した。




