世界と生命力
人類が消えて1年がたった。
この頃には2人の生活も慣れてきて時間がゆっくりと感じられた。
和久が見たかもしれない影もあれ以来見ることはなく、本当にただの見間違えだったと、
自分の杞憂だったと納得させた。
石川県を粗方回り、冬の方は南下して温かい地域で過ごした。
春になると岐阜の方まで上がり、そしてまた夏がやってきた。
「もう、一年になるんだね」
肩にかかるくらいだった瑞希の髪は15センチ程伸び、髪留めで束ねられる程に伸びていた。
和久もまた、襟足の部分で髪を纏められるくらいに伸びた。
「そうだな」
誰も見つからずに経った1年。
太陽が照りつけて皮膚がじりじりと焼ける。
途中入ったコンビニで日焼け止めをもらい、川の水を水筒にくむ。
川の水が冷たくてこのまま入ってしまいたい衝動を抑えて2人は車に戻る。
1年もたつと周りにある車の中にはバッテリーがあがってしまったりと動かないものも出てくる。
なので、途中からはなるべく同じ車を乗り、ガソリンだけを抜いて補給するという形を取ってきた。
ただ、ガソリンが変質しこれから車が使えなくなってくる可能性もある。
そのため、使える間に距離を伸ばそうと2人は躍起になっていた。
「そろそろ、移動手段考えなきゃいけないな」
オイル交換やタイヤの交換などは和久が出来る。
ただ、1年以上も動いていない車を整備する程の知識は持っていない。
他に動いている車はないのだから、乗れる車を探しながら移動すればいい。
しかし、それも2~3年が限界だろう。現実的に移動手段を考えるべきだと提案した。
「うん……でも、夏はいいけど冬はどうするの?」
「雪の降らない地域に行こう、沖縄……は船がないから辛いけど、静岡とか千葉とかそっちの方に行こう。
夏はなるべく北の方に行って涼しく過ごせばいい」
行くまでのルートを変えていけば、人探しも捗るだろ?と和久は言った。
「そうだね。やっぱりだんだん不便になっていくね……」
瑞希がこれからの不自由さに嘆く。
「環境に慣らしていくしかないんだ、昔の人はみんなそうだったんだよ」
図書館での一件以来、苛々するのをやめた。
和久には瑞希が必要だったし、瑞希には和久が必要だった。
この世界ではお互いの存在が必要だった。
「ねえ……最近思ったんだけど……」
そう言って和久の方を向く。
「なんか、緑……増えたよね?」
そう、明らかに植物が増えている。
割れたアスファルトから咲く蒲公英や塀を囲うように伝う蔓。
植物の生命力は強い。
邪魔をする人間がいなければどんどん侵食していく。
2人の人間が止められるものではない。
壁の隙間、道の割れ目にもそうだが、既に土の部分は見えないくらいに覆われている。
「これ……どこまで増えるんだろう」
どこまででも増えるだろう。逞しく生えてきた蒲公英を見ると、その先の想像は難しくない。
「これから先……本当に移動が大変になるかもしれないな……」
自分が想像していたよりも過酷な状況。
ライフラインが無くなっただけでも大ダメージなのに、道や建物の心配までしなくてはいけなくなった。
人の手が加えられなくなった瞬間から、たった2つの小さな命を世界が飲み込もうとする。
それは2人の精神力を大幅に削っていった。