世界と水
「どこへ行くの?」
瑞希が和久の後ろを追って話しかける。
「どこに行こう、人が多く集まりそうなところ。」
きょろきょろと周りを見渡しながら歩く。
バンッ と大きな音が少し遠くの方から聞こえる。
「ねえ」
「今のって」
2人してその方向へと向かう。
「音!音がしたよね!?」
走りながら嬉しそうに和久へと話かける。
「ああ!聞こえた、誰か人がいるかもしれない!」
バンッ
「また聞こえたよ!新堂さん、行こう!」
思わず瑞希の手を引っ張って走る。
手を繋いだまま2人は音のする方向へと走っていく。
「ね、ねえ!なんの音なのかな!?」
「誰かがサインを送ってるのかも!」
期待を隠せない。
この静かだった街から自分たち以外の音が聞こえる。
誰かいるかもしれない。
2人は期待を隠すことなく走っていく。
「あれ、水?」
走っている途中から大きな水柱が幾つか見えた。
音がした方向に近づくにつれて足元は水で濡れていった。
「ねえ、これって……」
水道管の破裂。
停電により水道管理のコンピュータがストップ。
人間がいなくなっても水道管に水は送られ続けているが、誰も使用することはないので、中に水が溜まり続けた。
その結果、老朽化した水道管から破裂。幾つもの水柱が出来たのである。
バンッ
また大きな音が近くから聞こえる。
反射的に音がする方を向く。
「あ……ああ……」
音がした方向から巨大な水柱が上がり始めた。
「ねえ、この音って……」
「ああ……、水道管が破裂してるんだ……」
繋いだままの手をギュウウと握ると、瑞希も握り返してきた。
膨らんだ期待が急速にしぼんでいく。
絶望。
今の2人にはその言葉がピッタリだった。
「人じゃ……無かったね」
その言葉に和久は返事すら出来なかった。
瑞希は女だ、自分が守らなければいけない。何から?
悪人もいない、動物さえもいない、この世界の誰から守る?
こんなことでへこたれてはいけない、瑞希を支えなければ、きっとショックでまた泣きだすだろう、どうしてこんな現象が起こっている?
「……行こう?」
瑞希が和久の手を引いてその場をゆっくりと後にする。
確かに瑞希はショックだった、けれども今一緒に居る人の心が壊れてしまうことを心配した。
堅く繋いだ手は離されることはなくゆっくりと歩き出した。
「大丈夫ですよ、きっと。」
「和久さん、言ってたじゃないですか。世界はこんなにも広いんだからって」
「だから、今、絶望しないで前に進みましょう」
「新堂さん……。」
「瑞希でいいです。きっとこれから長い付き合いになると思います。人が居てもいなくても、不思議な体験をした者同士、きっと」
「瑞希……さん、ありがとう」
目を合わせて照れくさそうに笑う。
誰かが見ればむず痒い様な光景だったかもしれない。
けれどもそれは、2人が出会って初めて2人で笑った瞬間だった。
「行こうか。」
「はい。」
少し離れた手をもう一度強く繋ぎなおしてまた歩き出す。
とにかく、人類消失からたったの4日で人間に必要な電気、水道、ガス……ライフラインが全滅した。